第31話 Bランクパーティーの戦闘と続き
「はい!分かりましたお姉さま!」
「……うん、よろしい。……そして話を戻して5つ目。5つ目は『敵襲!右前方2時方向!』……むぅ、いいところだったのに。」
5つ目の話をしようとしたところでモンスターの敵襲だとリーダーのサミュから伝えられる。迫る敵は3体。ここはまだ草原であるがどうやら鹿のモンスターの群れに遭遇してしまったようだ。
「……とにかく、レイスは見てて。……私たちBランクパーティーの強さ、見せてあげる!!」
そう言うとアリアは何かの魔法を味方全員を対象に発動する。
そして、中央にいたマジカは土魔法を発動し、鹿の退路を防ぐと同時に鹿に向かって土の槍を下から出現させる。その数なんと30本。そんなにあれば全ての鹿が串刺しになるではないかと思われたが、2匹の鹿は急激に足が速くなり、前方に移動することで離脱。もう1匹はどうやら間に合わず刺殺されたらしい。刺さったときの音が、グサッではなくバキッという音だったことにレイスは少し驚いたが。
そして2匹の鹿は、前衛にいた筋肉マンー――ストレンに突進する。だが、そのなかなかの速度が乗った攻撃を受けてもストレンは1ミリも動じない。それどころか。
「おっりゃあああ!」
持っていた大きな盾で2匹の鹿をノックバックさせる。そうしてできた隙をリーダーであるサミュは逃さない。
「待ってたぜ!っしゃあああ!」
カミュは体勢を崩した鹿1体を双剣で一瞬の間に切り刻む。その体の動かし方は常人のそれではなく、下手したら骨折では済まないような動かし方をしていたが、当の本人はまるでダメージがなかったかのように次の鹿に襲い掛かる。
しかし、鹿も黙っていない。鹿はツノの部分を赤く光らせると周囲に枝によく似た形の火を数十本ばらまく。
だがそれでもカミュは止まらない。火の枝にぶつかりながらも鹿に双剣で攻撃してしとめる。
そして、発見から1分経たないうちに戦闘は終わった。鹿は全滅、冒険者側は無傷。
そう無傷である。カミュは火の枝に当たっていたにもかかわらず、ノーダメージだった。
「あの、アリ……お姉さま。」
「……ん?……どうしたの?」
「今起きたことを簡単に説明していただいてもよろしいですか?」
「……!!……いい!!私の出番!!……まず、私が強化魔法を掛けた、カミュには肉体強化、マジカには思考速度強化、ストレンには……特に何も。……それからマジカが魔法を二重展開して攻撃、ストレンが防御。……その後カミュは、自身に身体能力強化を掛けながら、時折風魔法で外部から腕を強引に動かしながら攻撃。……以上。」
「……他人を強化?そんなことできるんですか?」
魔法はイメージ次第で何でもできる。これはあながち間違いではない。自分の中にある魔力を使って固体液体気体を自由自在に想像したり変形させたりすることができる。それゆえ、それら3要素からなる人間も理論上は自在に変形することができるはずである。
そしてもしこれが可能だとすれば、攻撃性魔法はこれ一つで十分になる。相手が魔法を打つ前に、いやたとえ打った後でも、この術さえ完成すれば、相手を変形させることで命を一瞬にして奪うことができるのだから。
しかしそうはなっていない。なぜなら魔力を持った存在の魔力に干渉するのは不可能とされているからである。
そもそも魔力とは、空気中に含まれる魔素を体内に取り入れたときに体内に蓄えられる力のことと言われている。空気中の魔素と体内の何かが混じり合うことで形成されるため、魔力と一言でまとめてはいるが、人それぞれ少しずつ異なる。分かりやすく言えば、魔力には“色”が付いており、同じ色を持つ魔力は存在しないということだ。
つまり、自分の“色”の魔力を他人の魔力の“色”にしなければ、対象に干渉することはできないということだ。しかし、魔力は固体液体気体の3要素にしか変形できず、別の“色”の魔力には変形できない。それゆえ、魔法による他人への干渉は不可能と言われている。
「……私は、できる。……理由は簡単。……相手の魔力よりも多くの量、それも倍近いくらいの量を直接体内に叩き込む。……そうしたら、空気中の魔力と誤認しているのか、私色に相手の魔力が染まったのか、とにかく私の魔力で体に影響を与えることができる。……そうしたら、完成。」
「完成って……。料理じゃないんですから。」
「……間違い、でもない。私の魔力が相手の体内に入れば、相手の体内をある程度自由にいじれる。……抵抗されなければ。……だから、MPが多いから、私はBランク。……魔法はマジカの方が使えるけど、私は莫大なMPを持っていて、味方を強化できる。……ゆえに、ここにいる。」
「なんでそんなにMPがあるんですか?」
MP(魔力量)が多い人間は、大きく二つに分けられる。一つは生まれつきMPが高い人間。MPはある程度遺伝されるため、魔法使いと魔法使いの子どもは生まれながらにMPが高いことが多い。それから稀に両親とも多くはないのに子供だけが持っているパターンもある。
二つ目は努力して増やした人間。MPを増加させる原理は簡単。体内と空気中を酸素や二酸化炭素が行きかうように、魔素が二つを行きかうときに、魔力を貯める場所が徐々に拡張されるのである。(水泳選手の肺活量が多いのと似ている。)
では、どのようにして拡張していくのか。それは頻繁に魔法を使うことである。魔法を使うとMPがなくなり、空気中から補給しようとするからである。だから常に魔力を空にして回復していればMPは増える。
そして彼女のMPが多い理由はその両方、かつ後者を最大限行った結果。
「……私が魔力が多い理由は4つ。……一つ、生まれながらに多い。……二つ、ずっと魔力を消費し続けた。……三つ、生まれが北側。……四つ、モンスターをたくさん倒してる。」
「三つ目と四つ目は関係あるんですか?」
「……ん、説明してあげる。……魔素は何故か北側、つまり魔族領で密度が高い。……だから回復量が良く、MPが増加しやすい。……ちなみに、これが5つ目の謎。」
七不思議の5つ目は、『なぜ魔力の密度は北側が高いのか?』というものだとアリアは言う。
「……それからMPが多い理由の4つ目は、高ランク冒険者程MPが高い理由の一つ。……モンスターが生命活動を終えると、体内の魔素が空気中にばらまかれる。……その時、一時的に空気中の魔素の密度が増えるから、MPの回復も早くなる。……私は両親ともに冒険者で、幼いころから、北側の狩場に連れていかれて鍛錬をしてたから、魔力が多い。」
「なるほど、そういうことだったんですね。教えていただきありがとうございます!」
「……レイスはいい子、だからもっと教える。……七不思議の6つ目。……『王族が使っている武器の素材は何なんのか?』」
「王族の武器ですか?」
「……そう。……王族の武器が使われるところはほとんど見られない。……でも稀に見られる機会がある。その時に武器が自在に変形して剣にも盾にもなったり、火をまとったり、雷をまとったりする。……そんな素材ありえない。……だから謎。」
武器自体が火をまとったり雷をまとったりする武器は存在する。しかし、それらの武器は予め剣に設定されてある魔法一つしか使えないため、一つの属性はまとえても、二つ以上の属性をまとうことはできない。
ましてや武器が自在に変形するなんて、そんな武器は存在しない。それゆえ、王族の武器は何でできているかのかは七不思議のひとつとされている。
「……そして最後7つ目。……正直7つ目を何にするかは議論が絶えないところ。」
「そうなんですか?例えば何があるんですか?」
「……ここドミナスでは。……。……『受付嬢のカミラはなぜあれほどまでに美しいのか?』」
「……ん?」
レイスはここにきて急にアリアがふざけだしたのかと思ったが、彼女の顔を見る限り大真面目に言っていることがうかがえたため、それ以上何も言うことはなかった。
「……ふざけてはない。……実際ドミナスの冒険者の多くはそう言っている。……それに私もそう思う。……金髪碧眼もいないわけじゃないけど、数が少ない。……王都にはいても、ドミナスにはいない。……しかも美人。……そして、今の国王が金髪碧眼のイケメン。……だから、完全にこじつけだけど、王女ではないかなんて噂する冒険者もいる。……でも、そんな方がドミナスにいるわけがない。……だから謎。」
レイスは言われてみて少し納得した。よく考えれば、彼女はこの辺りでは見ないほどの美人で、珍しい金髪碧眼だった。そして稀に見せる威圧的なセリフや態度が、本当に威圧を感じさせるようで、まるでやり慣れているかのようで。
(でも、それなら僕に対して土下座しないはず。……ということは王族という線はない。だとすれば僕と同じ王国出身の貴族かな?王都に住んでいて追い出された2番隊隊長と境遇が似ている気がするけど、その線が一番あるかな?)
「……話を戻す。……七つ目には他にも、『何をしても破壊できない岩はなぜ破壊できない?』『子どもにしか聞こえない音が夜中に鳴るらしいがその正体は何?』『なぜ海中には誰も手を出さないのか?』『最近戦争や内紛が多いのは何故か?』『魔力は体内のどこに貯まるのか?』など、たくさんある。……だからいろんなところに行って、いろんなことを聞いて、自分の七つ目を決めるといい。」
「わかりました。いろいろ説明していただきありがとうございました。」
「……いい。……また何か聞きたいことがあればいつでも聞いていい。」
「ありがとうございます!お姉さま!」
そうしてレイス達一行は日が暮れたので野宿の準備を始めるのだった。
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