合格試験1

「それでは、今からギルド登録試験を始めます」

「はい。お願いします」


闘技場のようなリングの上でギルド嬢からそう言われる。


「ではまず、あなたの戦闘能力を見させていただきます」


奥からマネキンのようなものを持ってきた。


「この試験用人形は常人の力じゃ壊れませんので安心して全力でお願いします」

「わかりました」


その言葉を受け取らずとも。俺はハナから本気でやるつもりだ。


「…いくよ」


そう呟き、俺は剣に目を落とす。

心なしか、きらりと光った気がした。


「“+身体筋力Max”」

「“-身体筋力Max”」


自分の身体筋力が+500され、マネキンの身体筋力がー1000された。

与えられた攻撃回数は1。この一撃にすべてを乗せる。


「…おっらぁ!」


銃声なんて生ぬるい言葉じゃ形容できない爆発音と共に一段階目の機能「風化」が発動する。風に変換された衝撃波はあたりの柱という柱を真っ二つに割り、その上の天井はすべて衝撃波に乗って彼方に飛んで行った。


「きゃあ!」

「ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


辺りからそれに耐えることが出来ずに飛んでいく冒険者の断末魔に似た悲鳴が聞こえてきた。それも無視し、攻撃は第二フェーズの「太古の生物」が発動する。

剣先から放たれる熱光線は地面を溶かし、それが衝撃波に持ち上げられ、小石となり、それがさらに攻撃を生むという循環が発生した。


「痛!」

「何これ!?石の雨!?」


当然。災害級の攻撃をマネキンごときで受け止めることなんてできるわけもなく。ついにそこには何も残らなかった。

残ったのはかろうじて発動したであろうボロボロの結界の中にいるギルド嬢をはじめとした冒険者たちだけであった。


「…判定は?」

「あ…ご、合格、です…」

「そうか。ならよかった」


俺は改めて太刀をスキルに仕舞い、ギルド嬢の元へと行く。


「…では、続いては、忍耐力のテスト、です…」


そう言って、奥からやってきたのは


「やあ、君が応募者だね」

「…はい」


何やらチャラそうな格闘家のような男が入ってきた。


「俺はA級のカルディスだ」

「…ハイロ、です」

「では、試験内容を伝えます。1分の制限時間の中でなるべく攻撃が届かないようにしてください」

「…はい」


なんだ、そんなことでいいんだ。本来なら難しいのであろうことも、俺はそう考えた。


「それでは…始め!」

「“動くな”」

「…え?」


必死に力を入れようとしているが、それも虚しく、といった感じだった。


「これでいいか?」

「え?」


ギルド嬢は何が起きたのかわかってないらしい。


「…こいつ、今動けねぇんだよ。だから、これで届かないだろ」

「あ…えっと…」

「…何なら、あんたにもかけりゃ気持ちも真偽もわかるんじゃねえか?」

「あ、いえ!大丈夫です!ご、合格で!」


今どんな顔をしているかわからない。と、いうか分かりたくもない。

きっと、今俺は修羅より険しい顔をしているだろうから。

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