これが異世界。これが異世界転生もの。

翌日


「ふわぁ…。おふぁようございます」

「…うん。おはよう、ヴァルキリーさん」


目の下に特大のクマをつけながらげっそりと答える。


「あれ?ハイロさん、寝れなかったんですか?」

「……ああ。そうなんだ」

(ヴァルキリーさんのせい、なんて言えないよなぁ…)


そもそも勝手に勘違いをして眠らなかったのは紛れもなく俺なわけで…。


「さあ、朝ごはんを食べて早く出ようか」

「ふあぁ…ふぁい、ふぁかりまひた…」


重すぎる瞼をこすりながら立ち上がった。




「お、おいしすぎ…だろ…」

「ふふ。この街の料理を気に入ってくれて何よりだ」


ヴァルキリーさんに連れられ入ったこの店の朝食メニューは、日本人に馴染み深い「味噌汁定食」というものだった。

おかずにはだし巻き卵にひじきの煮物。小鉢までついていて浅漬けが少し。具沢山のメイン、味噌汁に茶碗に盛られた白く輝くご飯。日本人ならまあ間違いなく喜ぶメニューだった。


(意外と日本と近い食文化なのか…?)


と思いつつ味噌汁を一口啜る。

煮干しと昆布の風味が味噌に暖かく包まれ、そこにたくさんの具のだしも絡み非常に落ち着いた質素かつ豪華な味だった。


「…ふう」

「ふふ。そんなに気に入ってくれたなら、店主も大喜びだよ」

「そうですか?」


そう聞き返すと「あれ」と言わんばかりに目で俺の後ろを見るよう催促した。

それにつられて振り返ると、にこやかに笑った店主と店員の顔があった。


なんか、人の役に立ててる感じ。


そんなことを思いながら馴染み深い味を堪能した。これでホームシックならぬジャパンシックにならなくて済みそうだ。



きれいに舗装され、横には屋台のように色々なお店が並ぶ商店街のような道を歩く。


「ここは"スタック”いろいろな売店が並んでいて、ここでの買い物がこの街の生活の中心となっているんだ」

「へえ〜…あれ?あんなちっちゃな武器屋もあるんですか?」


俺が見ている先にあったのは、随分とボロボロになり、刃こぼればかりの武器が売ってある小さな売店だった。


「いや、私の記憶の中ではあんな店は…もしや…」

「不法商売?」

「その可能性が高いな」


いやあんたそういうの記憶してないでしょ。そんな言葉はぐっと飲み込んだ。


「一度行ってみよう。なにかわかるかもしれない」

「あ、はい」


先を歩くヴァルキリーさんの後ろをついていく。何か、ここで俺の戦闘スタイル決まるような気がするな…。




「ちょっといいかしら?」

「ん?ああ、いらっしゃい。なんの武器がご所望かね?」


威厳たっぷりのその問いかけに臆することなくその人は答えた。

年齢はかなり高齢の方だ。顔も手もシワシワで、いかにも「おじいさん」といった具合だった。


「売店許可書は?」

「ほれ。これじゃよ。お前さん、騎士の方かの?」

「ええ、そうです。…これは…あなた、この許可書はいつのもの?」

「ああ、確か、100

「えっ!?」


ひゃ、100年!?嘘だろこの爺さん今何歳だよ!


「通りで…」


なんも慌てる様子もなく淡々とした態度でそうつぶやくヴァルキリーさん。あんたそれでいいのか。


「おじいさん。申し訳ないけど、許可書の有効期限は最長で10年なの。100年前の物はもう使えないの」

「そ、そうなのか!?し、しかし…のに…」

「「…え?」」


二人して絶句をした。

今朝打ち込んできたにするとかなり。いやもうそんなわけ無いだろってレベルでボロボロだった。最早、武器として成り立つのかすら怪しいレベルで。


「まあ…売れないなら仕方がない。ただ、わしが持ってても意味はないしのぉ…」


そう言ってこちらをちらっと見た。


「ジィー…」

「……まさか、」

「そうじゃ。おい、そこの若いの」


予想を立てるより早くそのおじいさんが話を進めた。


「ぼ、僕ですか?」

「おうそこの若いのじゃ。どれ、これをやるから使ってみろ」


そう言って一本の多機能そうな。でもぼろぼろな太刀を渡された。


「え、でも…」

「ほれ、若いのがうだうだ言うな。そこに特注の練習用マネキンがある。試しに使ってみなさい」

「は、はい…」


まあ適当に合わないって言って返せばいっか。

マネキンの前まで行くと、何やら体がふわっと軽くなった。


「これは…?」

「どうした?」


戦闘に関してはやたら勘のいいヴァルキリーさんがそう聞くということはごく一般的なこと、なのかな?


「…いえ、なんでもないです。それでは、行きます」


大きく息を吸って太刀を構えた。太刀から何かオーラが漂う感覚が流れそれに思わず力を込めた。


「…せいっ!」


思いのまま大きく振りかぶって振り下ろした直後。


「うわっ!」

「きゃぁ!」

「ああ!」


強靭な衝撃波が辺りに広がり、風となり、瞬く間に辺りのものを吹き飛ばした。剣先は縦に割れ、何故か熱を発している。何もかもを吹き飛ばしたその一撃を、たった一体のマネキンだけはそれを耐えていた。


「えっ…」


ヴァルキリーさんですら少しのけぞったその一撃を、おじいさんは近づき


「はて?思ったよりもしょぼかったの」


なんて、ふざけたことを抜かしてきた。

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