いつかの記憶

 1



 燃え盛る炎。


 満ちる煙。


 幼い詩音を抱いて、僕は駆けた。


「うわぁあん」


「大丈夫、大丈夫だよ」


 泣き叫ぶ詩音を励ましながら、煙をかき分けて玄関へ急いだ。


 ようやく外に出ることができたと思い、安堵したのも束の間、鈍い衝撃が僕の半身を直撃した。


「ぐあっ」


 頭が割れるように痛い。


 崩れた柱が当たったのだと、倒れてから気がついた。


 幸い、背中から倒れたことで僕が詩音のクッションになり、彼女が地面にたたきつけられることはなかったようだ。


 痛みと熱が体を巡る。


 救急隊員か消防の人――どちらかは分からないけれど――が、僕の下に駆け付けた。


「担架急いで――」


 僕はいいから、先に詩音を……


 ああ、なんてことだ。左手にひどい火傷を負っている……


 ごめんよ、詩音。


 僕がちょっと留守にしたばかりに、君を助けに行くのが遅れてしまった。


「うわぁああああん」


 遠のく意識の中で、サイレンよりも大きい詩音の泣き声が耳によく響いた――




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