2歳

 1



「にぃに、かくれんぼしよ」


 詩音はだいぶ言葉を話せるようになった。単語の羅列ではなく、それらをしっかり組み立てて、意味のある文章を作ることができる。


 体の発育も順調で、女の子らしく成長していた。


 長い黒髪、アーモンド形の綺麗な目にぷにぷにとした柔らかい肌


 見た目は未来の清楚系美少女を予感させるが、中身は元気いっぱいなおてんば娘だ。


「にぃにぃ、かくれんぼー」


 僕のことを『にぃに』と呼び、暇な時間さえあればしょっちゅう遊びをせがむ。


 かくれんぼが特にお気に入りのようで、学校から帰ると、休む間もなく詩音の相手をさせられるのだ。といっても、隠れるのはいつも詩音で、僕は鬼ばかりさせられるのだが。


「もういーよー」


 隠れ終えたのか、遠くから詩音の声が聞こえる。


 僕は立ち上がり、詩音の声がした方へ足を向ける。


 さーて、どこに隠れたのかな。


 リビングに入ると、カーテンが一部分だけ膨らんでいるのが目に入った。


 どうやらあそこにいるようだ。あれでちゃんと隠れているつもりなのだから、子供は可愛い。


 さて、居場所は分かったが、すぐには見つけない。


 まずはカーテンの前までわざとらしく足音を立てて近づく。


 するとカーテンがびくっと波打ち、詩音の息遣いが聞こえてきた。


 こうやって、まずは隠れている時のドキドキを味わってもらうのだ。


 しばらくカーテンの近くをうろうろし、一度リビングから出る。


 そして適当な場所を探すふりをして時間を潰し、数分後にまたリビングへ。


 今度は忍び足で近づいて、カーテンを一気にめくる。


「わっ、見つかった」


 詩音は長い髪を振り乱しながら駆けていく。


「またにぃにが鬼ー」


 そうして僕は、再び三十秒を数え始めた。


「もういーよー」



 

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