命削《ソウルスクレイプ》小隊
梨本利休
プロローグ その存在は夕日に燃える
「
アルツフォネア帝国史最高の人道的発明と言われるそれは、
帝国は開発以降、戦死者数ゼロと期待通り、否、それ以上の活躍を見せていると発表している。
――表向きでは
『
冷然たる声色が数多の戦闘を経て荒廃した戦地の空気を劈くと、右手に重く持たれた白の大剣がガッと反応を見せる。
《
白の大剣から聞こえるシステム音は、淡々と移行の旨を伝えると、十字架の鍔に埋め込まれた丸い宝石のようなものが、所有者の生命を喰い燃やすように発光を始める。
『――ソウルジャッジメンターより各位。起動異常なし。聞こえるか、クソ
「F《フィアス》小隊リーダーよりジャッジメンター。聞こえています。敵の方向は」
『とりあえず北緯30度に数匹感知してるな。他は……いつも通りお前らで見つけろ。じゃあな』
「了解しました」
交信終了。
砂嵐が混じる交信が嫌わしく途切れると、耳に付けられた
「F《フィアス》・リーダーより小隊各位。こちら北緯30度に数匹。俺も出来るだけ伝達するが、以降の敵捕捉活動は各隊に任せる」
『E《エクリプス》・リーダーよりF《フィアス》・リーダー了解。今日も帝国の腰抜け主人はお前に指揮権を?』
「ああ。委譲した」
『ガハハハッ。腰抜け帝国民共は俺達を追い出して安全区域で縮こまってんのがお似合いよ』
『リーダーったら全く……。このままでは私達の区域どころか、帝国の安全区域すら失われるのも時間の問題なんですよ』
「F《フィアス》・リーダーよりE《エクリプス》小隊。来るぞ。前方から3匹。――会敵まで30秒」
『E《エクリプス》・リーダーよりF《フィアス》・リーダー。毎度ありがとよ。我らが
苛烈を極めるこの戦場で、少年少女達の交信は刹那の記憶で尊さまでをも滲ませそして――
非情に潰れてゆく。
『P《ポリス》・リーダーよりP《ポリス》小隊! 後方から迫ってきてる。このままじゃ追いつかれる!』
『リーダー悪い。この数じゃもう無理だ。俺が囮になる』
『P《ポリス》3! 生きるんだ!』
『リーダー。何を今更。どうせ俺らは
『P3……。了解。健闘を祈る』
『K《キング》1より小隊各位。K《キング》・リーダは戦死。これよりK1が指揮を執る』
『R《ランス》4より各位。命削の使用が不可。……みんな、今までありがとうね』
『R《ランス》・リーダーよりR4! 何とか持ちこたえなさい! 今駆けつけるわ!』
『E・リーダーよりF・リーダー。なぁ、逝った奴らの為にも、こいつらに屈服するわけにはいかねぇよな』
「……ああ。
『察しが良くて助かるぜ』
――
《
黒いかすり傷が無数についた大剣から聞こえるシステム音は、彼らに唯一労いの言葉をかける。
『――より、各隊応答せよ。繰り返す。ジャッジメンターより各隊、応答せよ』
静けさを取り戻した戦地。されど数多の戦闘は地面を赤土まで削ると、フィアスはそこに1人腰を下ろし、燃える夕日に瞳を合わせ通信機へと手を添える。
「F《フィアス》小隊リーダーよりジャッジメンター。聞こえています」
「ああ良かった。報告を頼ーー『だいさ〜はやぐ呑んで下ざぃよ〜』」
「F、E、R、P、K小隊各位敵を撃滅。後退を確認しました。これより各隊帰投します」
『おっおう……ご苦労だった……。それで――』
《交信終了》
通信機から聞こえたのは、ジャッジメンターの仕事である戦況確認と、それを遮る酒に酔った部下の声。
仲間であったP小隊リーダーの戦士報告はしない。
何故なら人ではないから。
形式だけの馬鹿げたやり取りだと通信を切ると、赤く照らされた空を仰ぎ戦死した仲間へ弔いの念を馳せる。
仲間の無念を燃やすような空を仰ぐことは、もう何度目になるか。
日々消えてゆく戦友に比例するように帝国軍の株は上がり、軍事開発費という名の酒代を国民から税として取り上げる帝国。
それを知っているのは彼ら
目の前の戦地へ転がるのは、自らが斬り殺した謎の
帝国の歴史に縛られた彼らに残されている選択肢は戦って死ぬのか戦わず死ぬか。
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