病み村の名医

西田河

病み村の名医(1)

 窓を開けると、優しい風が肌を撫で、太陽の柔らかい日差しが僕を包み込む。我が家は村の端にあるため、目の前には草原の緑と空の青、そして太陽の……太陽って何色だっけ? 


 そんなことをぼーっと考えながらビルスはコーヒーを飲む。毎朝のルーティーンである。


 この村には何もない。高い建物も綺麗な観光名所もない。ほとんどの住民は農業で生計を立てているし、村の周りは見渡す限り草木しか生えていない。まあ、そこがいいところでもあるのだが……


 あぁ、忘れてた、一つだけあったな。この村唯一の特産物と言ってもいいものが―――それは野菜でも果物でもない、「やまい」である。


 この村は奇妙なことに数か月に1回、必ず「病」が流行るのだ。咳や腹痛に始まり、手に力が入らなくなることや急に耳が聞こえなくなることもある。そのせいで、ちまたでは、この村のことを「病み村」と呼ぶ人もいるらしい。


 そんな病に好かれた村で唯一の医者であるビルスは、残りのコーヒーを一気に飲み干す。


 午前は診察の予約が4件、午後からは薬の買い出しに「病」についての研究も行わなくてはいけない。


 大変だがやりがいのある仕事だ。なんせ、この村の健康は自分の手にかかっていると言っても過言ではないのだ。


 診察の準備のため、窓際を離れようとした時


「「ビルスせんせー、おはようございます!」」


 外を見ると、村の子供たちが笑顔で手を振っていた。


「はーい、おはようございます。今日はどこに行くのかな?」

「今日はね、みんなで川に珍しい魚を捕まえに行くの!」

「そんでね、その後は鬼ごっこもするんだ!」

「それは楽しいことがいっぱいですね。あの川は少し深いところもあるから、気を付けなくてはいけませんよ」


「「ハーーイ、気を付けまーす!」」


そう言い残して、子供たちは川の方へと駆けていった。


 やはり、子供の笑顔を見ると頑張ろうという気になってくるから不思議なものだ。これが若さというものなのだろうか… 


 そんな20代とは思えないことを考えていると、


 ポッポー ポッポー


 鳩時計が9時を知らせる鳴き声を発した。


 まだ何も準備していないぞ……


 私は急いでコップを洗い、診察の準備を始めた。



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