トロンボナンザ〜小さな彼女とノッポな僕のアンサンブル〜

風間浦

1st トロンボーン

 別に、トロンボーンが好きな訳じゃなかった。

 

 ブラスバンドが好きな訳でもなかった。

 

 家庭の事情で小学校三年の末に転校して、新しい学校は四年生から参加できる部活動があって。

 

 部活動は三つ。男子のサッカー、女子のミニバス、それと吹奏楽。

 

 両親は共働きで帰ってくるのは遅いし、僕の二歳下の弟ばかり見てて、あまり家にも居たくなくて。

 

 僕は他の子より背が高くて、整列すると大抵は一番後ろ。小学校六年生では百七十センチくらいあった。

 

 勉強は上の下。運動は得意で、いつもリレーの選手や水泳大会の選手で。

 

 本当は、サッカー部に入りたかった。でもユニホームとかスパイクとかお金がかかるし、試合や練習の応援送り迎えに親が行くんだって聞いて、忙しい親には言えなくて。

 

 音楽室に行ったら、吹奏楽部が練習していて。同じクラスの子達も交じってて。

 

 少し、気になってた女の子もいて。

 

 見てたら眼鏡をかけた男の先生に、興味あるかって聞かれて。

 

 頷いたら、先輩達が集まってきて、この子は大きいからトロンボーンだねって。

 

 楽器は個人で持っている子もいたけど、ほとんどは学校の備品を使っていると聞いて。

 

 何がなんだかわからないうちに入部する事になって、トロンボーンを持たされて。

 

 色々難しい事を言われたけど全然覚えられなくて、とりあえずトロンボーンの組み立て方だけ教わって。

 

 最初は楽器を使わないで、アヒルみたいに唇を突き出してブルブルやって。

 

 次はマウスピースっていう、鉄のチューリップみたいのをトロンボーンから外して、それで音を出す練習をして。

 

 ビイッて鳴るようになったら、やっとトロンボーンを持たせてもらえるようになって。

 

 最初に出たのは、ブホッていう変な音で。

 

 先輩達みたいな綺麗な音じゃなくて、がっかりした。

 

 

 

 覚えてるのは、とにかく大変だったって事だけ。

 

 先輩も先生も厳しかったし、練習で泣いてる子もいた。

 

 僕も辞めたいって思って行かなくなったけど、同級生の子が迎えに来て仕方なく戻って。先生や先輩がもっと厳しくなって。

 

 吹奏楽部は大会やコンクールで賞をもらう位で、大人達もそういうのに熱心で。

 

 みんなその為にやってるみたいだった。楽しいって思えた事は、ほとんど無かった。

 

 五年生の時、全国コンクールでなんとか大臣奨励賞っていうのをもらって一位になって。その年に先生が異動で別の小学校に行って。

 

 六年生の時はサッパリで。新しい先生も大変だったと思う。

 

 気になってた女の子? 吹奏楽部に仲のいい男の子がいて、その子といつも一緒で。学区が違うから中学校は別のとこで。

 

 全く何も無かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 僕の行った中学は、近所でもあんまり評判が良くなくて。

 

 小学校六年生の時の担任の婆ちゃん先生は、あそこの中学へ行くと不良になるよ、なんて言ってたくらい。

 

 そんな事言われても、学区で進む中学校は決まってるんだけど。

 

 たまに校庭をオートバイが走ってたり。アロハシャツ着てふっといズボン履いた三年生が、授業中の一年生の教室に入ってきたり。それが小学校の吹奏楽部の時の先輩だったり。

 

 中学校にも吹奏楽部はあって、僕は何となく入った。小学校の時の先輩や同級生は、ほとんどいなかった。

 

 僕と同じように、楽しくなかったのかな、なんて思った。

 

 中学の吹奏楽部はのんびりしていた。未経験者も多かったけど、経験者が偉そうにする事もなく、自然と指導する感じになってた。僕も先輩に色々聞かれた。

 

 小学校のような息苦しさは無くて、音を合わせるのが少し楽しくなって。

 

 たまに陸上部の助っ人に駆り出されたり、夏場に選抜される水泳大会の選手になったり。バスケ部の先生にスカウトされて断ったり。吹奏楽だけという事もなくて。

 

 中学でも好きな女の子が出来て、二年生の時に告白して振られたり。サッカー部のイケメンとつき合ってたのを、僕だけが知らなかったっていう。

 

 さすがにその時はショックだったし、しばらく気まずかった。三年でクラスが別になってホッとした。

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