第47話 ちくしょう、密室だ!
いきなり押し込まれた黒塗りの車に揺られること数十分。
道中で何の説明もされず、訳も分からないまま俺が連れて来られたのは、港湾エリアのお洒落なビジネス街の一角にある五階建てくらいのビルだった。
「到着しました」
「ありがとうございます、
「いえいえ。これが仕事ですから」
ハンドルを握っていたスキンヘッドに口髭という強面の運転手さんと二言三言交わすと、水嶋が車を降りるように言ってくる。
「さ、颯太も降りて」
「は、はぁ……」
俺も一応運転手さんにお礼の言葉を告げてから、おずおずと車を降りる。
一体、何がどうなってるんだ……?
「な、なぁ、水嶋? このビルは……?」
「ああ、まだ言ってなかったっけ。ウチの芸能事務所なんだ、ここ」
「えっと……じゃあ、なんで俺をここに?」
「そっちはもう言ったでしょ。二人きりで話をするためだよ」
言って、水嶋はまたぞろ俺の腕を掴んでビルの中へと入っていく。
正面の自動ドアを抜けると、そこには駅の改札口のような入館ゲートと、空港とかにあるような金属探知用のゲートが連なっていた。
ゲートの横には先ほどの運転手にも負けず劣らずの厳つい顔をしたガードマンもいる。見るからに厳重そうな警備体制だ。
「……芸能事務所って、みんなこんな感じなのか?」
「え~、どーだろ。会社にもよるんじゃない? ウチが厳しすぎるだけかもしれないし。まぁ、だからこそ好都合なんだけど」
あっけらかんとした口調で答えると、水嶋はさっそく入館ゲート横にいたガードマンに何かのカードを提示した。たぶん、社員証みたいなものだろう。
「お疲れ様です」
「ああ、水嶋さん。お疲れ様です。今日は事務所にご用で?」
「ええ、そんなところです」
お互いに顔見知りといった様子で挨拶を交わす二人、
そんな彼らを横目で眺めていると、不意にガードマンが俺の方を向く。
「それで、そちらの彼は?」
気のせいか、水嶋を見る時と比べて眼光の鋭さが3倍くらいになっている気がする。俺が少しでも不審な行動を取ろうものなら、すぐにでもあの腰に携えているゴツい警棒を抜きそうだ。こ、こえぇ……。
「この前の現場で仕事をしてくれた学生バイトさんです。次の仕事のことでちょっと打ち合わせがあって。怪しい人じゃないですよ」
言いながら、水嶋がガードマンには見えないように俺にウィンクをしてくる。
……なるほど。「合わせろ」ってわけね。
「さ、佐久原と言います。水嶋さんには、縁あって仕事を紹介してもらっていまして……」
おそるおそる自己紹介をする俺を、ガードマンがジィ~っと眺めてくる。
も、もしかして、嘘だとバレたか……?
「……なるほど、そうでしたか」
「水嶋さんのお連れさんということなら、たしかに心配は要りませんね。念のため持ち物検査とゲート検査はさせていただきますが、問題なければお通りいただいて結構です」
「ありがとうございます」
「ど、どうもです……」
そんなこんなでなんとかガードマンのチェックとゲート検査もクリアした俺たちは、そのまま奥にあるエレベーターに乗って3階へ。
事務所の社員らしき人たちが忙しそうに行き来しているオフィスを横目に、水嶋に連れられて廊下を歩く。
そうして最終的にやってきたのは、フロアの角部屋にあたる小会議室のうちの一つだった。今は他に誰も使っていないようで、オフィスエリアとも少し離れた場所に位置しているため静かな場所だ。
「どうぞ、入って」
「お、おう」
促されるままに俺が小会議室に入ると、後に続いた水嶋は後ろ手に扉を閉め、カチャリと鍵をロックした。
「さて、と。ここまで来ればもう安心かな」
「いや俺は全く安心できないんですけど!?」
学校終わりにいきなり黒塗りの車に乗せられ、見知らぬ芸能事務所のビルに連行され、しまいにはこうして人気のない密室に閉じ込められているんだ。不安しかない。
「こ、こんな所に連れ込んで、俺を一体どうする気だ?」
まさか、ここ最近の俺の態度に業を煮やして、もはやなりふり構わず俺を「攻略」しにかかろうってのか!?
いや……そうか、そうだった。よく考えればこいつは、水嶋静乃という女はそういう奴だった。
俺がいくら薄情に突き放したって、それでただ落ち込んでメソメソするだけなんて甘っちょろいタマじゃない。
むしろ、どんな手段を使ってでも
畜生、少しでも「悪いことしたかな」なんて思っていた俺がバカみたいじゃないか……って、なんか前にもこんなことなかったっけ? ……学習しろ、俺め。
「う~ん。そんなに怯えられると、さすがに傷付くんだけど?」
「やかましい。いいから今すぐ俺を解放しろ。いまならまだタチの悪いイタズラで済む。俺も見知った顔が警察のお世話になる姿は見たくないんだ」
「? ……えっと、もしかして颯太、なんか誤解してない?」
俺が必死に説得を試みようとしたところで、水嶋が頭上に「?」を浮かべる。
「私が颯太をここに連れてきたのは、別に颯太に何かしようと思ったからじゃないよ」
「はぁ? ……じゃあ、一体何の目的で?」
おそるおそる尋ねると、水嶋から返って来た答えは俺をハッとさせるには十分だった。
「だって──ここなら誰にも見られずに、颯太と話ができるじゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます