「夢の回転木馬」 剣の杜

@Talkstand_bungeibu

夢の回転木馬(上)

「先生、『夢の回転木馬』って都市伝説知ってますか?」

「いや、知らないけど」


家庭教師をしている女の子から、唐突にかけられた言葉、『夢の回転木馬』。都市伝説ということはちょっとした怪談にでもなっているのだろう。僕は興味をそそられて聞き返した。


「どんな話なのそれ?」

「私も友人の友人からの話を聞いただけで良くは知らないんですけど…」


都市伝説でよくある場合の友人の友人からの話、さてどんな話だろうか。


「『夢の回転木馬』、この言葉を3日以内に忘れられなかった場合、3日目の夜から夢にピエロが出てきて回転木馬カルーセルへの列に並ばされるそうです。そして夢を見始めてから4日以内に――えぇと何人だっけ、とにかく複数人に『回転木馬に乗らないか?』と誘わなければならない。もしできなかった場合はピエロに回転木馬に乗らされて、一生夢の中から出られなくなる、って話でした」

「ムラサキカガミと不幸の手紙のあいのこのような話だね」


軽く流しながら、僕はこの話に少なからず恐れを抱いていた。ここ最近、若者が朝になり家族が見に行くと、眠るように意識不明になっているという案件が増えているのだ。ニュースでも取り上げられており、徐々に問題になりつつある。


「君が今僕に話したということは、君も3日以内に忘れられなかったってこと?」

「いいえ、私は勉強でそれどころではなくて3日以内に完全に忘れられたので大丈夫です。3日以内に完全に忘れてしまえば、それ以降に思い出しても大丈夫なんだそうです」

「じゃあ、僕は今『夢の回転木馬』を聞いた1日目、ってことだね」

「あっ、ごめんなさい先生。私、そんなつもりじゃ…」

「いいよいいよ、僕もその手の話が好きで聞いたわけだしさ」


手をひらひらと振り、彼女に気にさせないようにしながら、僕は努めて明るい声で言う。3日目に何が起こるのか、話の通りなら夢にピエロと回転木馬が出てくるはず。恐れはあるものの興味がわいてきた。『夢の回転木馬』、この言葉を決して忘れないように胸に刻んで、この日の家庭教師のバイトを切り上げ帰宅した。


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