一度目の人生を理不尽な婚約破棄と断罪で奪われた公爵令嬢、ループし若返ったので誰にも頼らずカフェを開いて自由に生きます!なのに常連客が断罪した王太子殿下達なうえ溺愛して来るって、これ何てイジメ?
10.(★一方その頃)義弟バスクのアイリーンへの想い
10.(★一方その頃)義弟バスクのアイリーンへの想い
さて、アイリーンが、義弟のバスクに「嫌われ作戦 大成功!」と惰眠をむさぼっていた反面、当のバスクは眠れぬ夜を過ごしていた。
今日は記念日だな、とすら思って、どうにも
自分は今の身分や境遇に文句など一切ないし、どれだけ恩返しをしても、返し切れないとさえ思っている。両親が事故で急逝し、どうしようもないところを養子として迎え入れてくれ、その上、家族として接してくれたのだ。そして、将来はローイーストン子爵家に戻り、子爵の地位を継ぎ、領地経営をするための教育まで面倒を見てくれている。
その中でも特に自分に良くしてくれたのが、義姉となったアイリーン姉さんである。両親が急逝して独りぼっちになった自分を励まし、一晩中抱いて寝てくれたこともある。ふさぎ込み泣いている自分を慰め続けてくれたのも彼女だ。
だから、彼女は自分にとって恩人以上の存在だ。彼女あってこその自分であり、彼女のために命すらも捧げたいと思う。こんなことを言えば「重すぎ!」と彼女ならツッコミを入れそうであるが。
だが、それほど尽くしてくれた彼女に、あろうことは自分は一つの罪を犯していていた。決して犯してはいけない禁忌。
そう、僕は彼女を一人の女性として愛してしまっているのだ。
いつからそうなったのかは分からない。一生懸命僕を励ましてくれた時なのか、それとも長い時間を一緒に共有してきたからなのか。彼女の屈託ない笑顔に惹かれていることを自覚したときなのか。それとも彼女の美しい長い黒髪を
しかし、アイリーン姉さんは僕に対してはあくまで弟として接してきた。それがとても歯がゆくもあり、同時に安心もしていたのだ。この気持ちは。愛情は。決して
そのうえ、彼女は王太子殿下から婚約者になって欲しいという連絡が来ていた。どちらにせよ、自分の出る幕などない。だから、この思いは秘めたまま、一生彼女を愛し続けようと思っていたのだ。
だが、先日とある噂を聞いた。
なんと、姉さんは殿下の婚約を断ったというのだ。一瞬耳を疑ったが、同時に「さすが姉さんだ!」と、殿下には不敬罪で無礼討ちされそうなことを叫んだのだった。花のように美しくあるだけでなく、まるで蝶のように自由に羽を翻すがごとき華麗な振る舞いだと思った。
ただ、その後に凶報が届いた。不届きものに誘拐され、大事はなかったものの、ケガをしたのだという。幸い軽傷だったようだが、それでも僕はいてもたってもいられなかった。
迷惑にならないタイミングで、かつ申し訳ないけどお義父さんが家を離れるタイミングで、アイリーン姉さんと二人きりで話せる時に訪問したのだった。
そして、望外の喜ぶべきことが起こった。
彼女は今日、僕を一人の男性扱いしてくれたのである。
彼女と二人きりでお忍びで買い物に出かけ、彼女は買いたいドレスや宝石を購入した。今までなら弟ということで荷物持ちなんてさせてもらえなかったはずの僕に、彼女は遠慮なく荷物を持たせてくれた。僕のことを一人の男として認めてくれたんだと本当に嬉しかった。
でも、それだけで決めつけることは出来ない。何かアイリーンは気まぐれなところがあるから、偶々だったかもしれないのだ。
しかし、それは偶然なんかじゃなかった。
買い物の後に立ち寄った喫茶店での代金を、僕に全額支払わせてくれたのだ。
愛する女性の代金を支払うのは男性として当然のことだし、何よりも、僕を一人前の男として認めてくれた証拠に他ならないだろう。
もちろん、だからと言って、彼女の愛を僕が射止めたのだとか、そういった勘違いをしたわけではない。
彼女の意思は分かっている。
自分と言う美しい花を手折るならば、更に精進して、自分をつかみ取ってみろ。そういうことだ。そう、彼女は僕にチャンスをくれたんだ。言葉にしなくてもわかる。それは困難な道だろう。王太子殿下は一度フラれたにも関わらず
彼女ほどの女性だ。他の男性たちが放っておくはずもない。でも、自分だって負けないほどの研鑽をこれまで積んできた。彼女を一番近くで最も長く見守ってきた男の一人として、彼女を幸せにする自信は人一倍ある。だから、
「待っててね、姉さん」
僕は初めての恋に胸を焦がしながら宙へと独白する。
「アイリーン。君をきっと、僕のお嫁さんにするからね」
そう言って、僕はぎゅっと目を閉じたのだった。夢の中で彼女ともう一度会えることを願って。
……とこんな感じで、アイリーンの思惑とは全く逆方向に事態は見事に進展していた。しかも、元々叶わぬ恋だと諦めていたバスクであったが、今日の出来事をきっかけに、積極的にアイリーンへアプローチをかけるようになっていくのであった。アイリーンが「何でなの⁉」と愕然としたことは言うまでもない。
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