一度目の人生を理不尽な婚約破棄と断罪で奪われた公爵令嬢、ループし若返ったので誰にも頼らずカフェを開いて自由に生きます!なのに常連客が断罪した王太子殿下達なうえ溺愛して来るって、これ何てイジメ?
9.義弟のバスクからは確実に嫌われたはずです!
9.義弟のバスクからは確実に嫌われたはずです!
「久しぶりだね、姉さん!」
「ええ、お久しぶりね、バスク」
お父様に言われた通り、午後から義弟のバスクと会うことになった。
普段は子爵領で、公爵家の家庭教師から領地経営などの勉強をしているバスクだが、義理とは言え家族の彼は、こうして公爵家へ頻繁に遊びに来る。
元々は引っ込み思案の性格だった彼だが、この数年というもの、公爵家の面々が家族同然という形で接することで、彼も心を開いてくれたのだ。これがこのまま私への恋心に変わるとは、前回の人生で知る由もなかったのだが。
「でも、今回はそうはいかないわ!」
「えーっと、いきなりどうしたの、姉さん?」
「おっと。いえいえ、おほほ。なんでもないのよ」
私は笑ってごまかす。
バスクは年齢が3歳も下ということもあって、あどけない顔をした美少年だ。歳のころは14歳。ルビーのような艶やかな色合いのくせっ毛で、愛くるしい表情がチャーミングだ。なので、どうしても可愛がりたくなる!
前回の人生で一人っ子だった私が、義弟が出来たと聞いて、その上こんな可愛い子だったために、愛情を全力でぶつけてしまったのも無理からぬことだろう。今だって、まるで子犬の様に私の方を見ている。
でも、だめよ! アイリーン!
私は自分を叱咤激励する。非情になれ、アイリーーーーーーン!!! と。
今からでも遅くない。突き放すのだ。そして、私に恋心を抱く前に距離を取るのだ。こんな可愛い顔をしながら(恐ろしいことに彼は成長してもこの愛くるしさは残したままイケメンになる)、私に生涯の変わらぬ愛を囁きつつ、最後は子爵令嬢に心変わりしてしまうのだ。
ある意味一番ショックを与える存在である。私との家族としての歳月は何だったの⁉ ってなものだ。
というわけで、今回のルートでは、バスクとは今日から思いっきり距離を取る。そのためのプランも立案済みだ。
「くっくっく、思い知るといいわ。そして私が自由に生きて行くための
「あの、さっきから姉さんどうしたの? 熱でもあるんじゃ。ケガしたって聞いたし。僕心配だよ」
そう言って、おでこに手を当ててくる。
ひんやりとして気持ちいい……。
「バスク、優しい子ね。ううん、もう大丈夫よ。元々、大したケガでもなかったのに、お父様ったら心配性で私をベッドから起き上がらそうとしないんですもの」
「そりゃそうだよ。愛する娘が傷つけられて心配しない父親がいるはずもないよ」
「あはは、同じこと言うんだから」
「もちろん。僕は今だけとはいえ、公爵家の人間だからね」
あはははは、とお互いに笑う。気性の穏やかな彼とは話していると、こうしてゆっくりとした時間を過ごすことが出来るのだ。これも長い時間をかけてお互いに親睦を深めて来た結果……、
「って、ちっがーう!!!!!」
「うわっ‼ どうしたの姉さん? やっぱりちょっと変だよ」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ!」
だめだめだめ! 全然ダメじゃない、アイリーン! 突き放すのよ。子犬みたいだし、可愛いし、その上話していると本当の家族以上に
作戦名『街中を連れまわしてわがまま放題言って愛想をつかされる作戦!!』
これを実行するんだから!
「今日は街へ買い物に行こうと思うの。ついて来て頂戴」
「えっ? ひどく急だね? 別にいいけど、この前危険な目にあったんでしょう?」
「なぜか王室が警備を増強してくださっているみたいで、むしろ、いつもより安全なくらいなのよ」
「そっか。姉さんとお出かけなんて、楽しみだよ」
彼は嬉しそうに微笑む。
ふーふっふっふ。笑っていられるのも今のうちよ! 覚悟しなさい! あなたとの縁もこれまでなのだから!
こうして、私は意気揚々と街へと繰り出したのでした。市井の者に見える格好に着替えてから。
まずは服屋だ! いつもなら、ゆっくり買い物をして、荷物は後で家に届けてもらう。でも、今日は……、
「おお、これはアイリーンお嬢様に、バスク様。今日はお忍びですかな。どのような品をお求めに?」
気づいたお店の男性店員が声を掛けて来た。
よし、作戦開始よ!
「ええ、出来るだけ沢山服が欲しいと思っていてね。帽子なんかでもいいわ。出来るだけ
「は、はぁ。もちろん、お嬢様のおっしゃるようにしますが、
おっと、いけない。余り露骨だと狙いがばれてしまう。ここはそれとなく、それとなく……。
「こ、言葉の綾よ。とにかく、あそこからあそこまで、全て頂戴」
「おお、これは毎度ありがとうございます!」
店員の男性が喜色を浮かべて飛び上がった。
「ね、姉さん? そんなに買うの? でも、持って帰るのも大変そうだよ?」
不安そうな表情でバスクが言う。
くぅ、こんな可愛い顔をして、そんなことを言われたら、心が揺れ動きそうになる。
いえ、いいえ、騙されては駄目よ。揺らいでは駄目よ、アイリーン! この子も将来は私を見捨てるんだから! 私が自分の人生を取り戻して生きて行くためにも、今日でしっかりと嫌われないといけないんだから!
「あら、バスクは男の子でしょう? 女性が買い物をしたら、それを持つのは殿方の役目ではなくって?」
「!!」
私の言葉に、バスクがショックを受けたように目を見開く。
それはそうだろう。可哀そうだとも思う。今までで私にこんな仕打ちを受けた事なんて無いのだ。彼が家族として馴染めるように、優しく優しく接してきた。ちょっと、親切過ぎるようなところもあったかもしれないけれど、そのおかげで彼は家族として公爵家に溶け込むことが出来たのだ。
でも、それを断たねばならない。私の未来の自立のために! 死亡フラグ回避のために!
「わ、分かったよ、姉さん! とうとう僕を男と……。よし、頑張るぞ!」
「あれ?」
おかしいな。なぜか、バスクはすぐに瞳に炎を燃やしたような表情になり、なんというか、喜色すらも浮かべながら店員から渡される包装された荷物を持つ。
ぐらぐらとしている。やっぱりやり過ぎたかな、と思い、
「あ、あの、バスク、やっぱり無理なん」
「大丈夫! 僕だってもう一人前の男なんだから!」
遮るように言われてしまう。
むしろ、
「さあ、姉さん。どんどん行こうよ。幾らでも荷物を持つからさ」
「え、ええ……。次は
これもよく練られた作戦の一環であった。服とは違って宝石の運搬には非常に気を使う。きっと、そんなことを強要されたバスクはストレスが溜まって、私のことが嫌いになるはずなのである。
しかし、
「ああ、それはいいね。カップルがよく行くところだよね」
「え? ああ、そうね?」
あれ?
え?
なんで?
全然、嫌がってなくない?
むしろ、大量の荷物を運ぶバスクの方が足取りはしっかりとしていて、先に先にと進んでいき、一方の私の方が戸惑いと混乱のために、彼の後ろを歩く始末。
何かが違う。
だけど、何を間違っているのかが分からない。
私は混乱しながらも宝石店へと入り、大量の宝石を購入したのだけど、彼は嫌な顔一つしないのだった。
むしろ、
「アイリーン姉さんには、この珍しいイエローサファイアも似合うと思うよ。ああ、こっちのカットの奇麗な指輪もいいんじゃないかな。どうかな、僕からぜひ贈りたいと思うんだけど」
などと、買う物を増やそうとする始末だ。
おかしい、どういうことなの⁉
計画では、こんな仕打ちを受けて、ショックと怒りで私の事を嫌うはずなのに、最初ショックの表情を見せたのを最後に、むしろ、力強く私をぐいぐい
「さあ、次はどこだい、姉さん」
「あー、えっとー」
本当はあと幾つもお店をチョイスしていたのだけど、混乱しっぱなしのために疲れてしまった私は、近くの喫茶店に入って休むことにした。
手近なお店に入る。お互いにアフタヌーンティーとスイーツを注文する。
バスクは私にあんな仕打ちを受けたというのに、嫌な顔一つしないし、文句も言ってこない。どうしてなのかしら? ええい、ここは聞くのが早いわね。
「ねえ、バスク。今日の買い物イヤじゃなかった? あんなに荷物をたくさん持たされて」
「全然? 普通、ああいうものじゃないの?」
「??????」
私は彼の言っている意味が分からず小首をかしげる。
彼は義理とは言え弟であり家族だ。今までの買い物の普通というのは、基本的にはお互いそれぞれに同じくらいの荷物を持つものだった(むしろ、お姉ちゃんである私の方が沢山の荷物を持っていた)。なのに、バスクはさっきのが普通だと言う。どういうことだ?
「???????」
首をひねり倒す私である。
と、そんな会話をしているうちに、人心地ついたので、喫茶店を出ることにする。
そこで一つ、また嫌がらせを思いついた。
いつもなら公爵令嬢であり、姉である私が、彼の代金も払うのだが、今日は全額彼に負担させようと思うのだ。こうすれば、何て図々しい女だ、と失望して気持ちが離れるに違いない。
よし、そうと決まれば決行だ! これがラストチャンスよ!!
「バスク。ここの飲食代は、あなたが全額持ちなさい」
「え⁉」
ふふふ、驚いているようね。この横暴な仕打ちは、さすがに腹に据えかねるでしょう。
「嫌だって言うの? でも私はそういう横暴なことをする女で……」
「喜んで払うよ! いや、むしろ今後は僕が全て払うからね、アイリーン姉さん!」
「へあ?」
「店員さーん」
「あ、あの、あれ?」
あ、あれあれあれ?
なんで? どういうことなの? なんで、そんな満面の笑顔なの?
大量の荷物を持たせて、しかも食事の代金まで全て出させる酷い姉を演じたのに、まったく
全く意味が分からないんですけど⁉
そんな感じで、混乱に拍車のかかった私だったが、家に戻って来たバスクが満足そうに、
「また二人きりで出かけようね、アイリーン姉さん」
と満面の笑みで言われてしまって、もはや困惑の域にまで達してしまうのであった。
ま、まぁ、でも。
「とにかく、嫌な女アピールは出来た訳だし。これを何回も続ければ、きっと嫌われて愛想も尽きるわよ、ね?」
私は自分にそう言い聞かせて……。そして、そんな感じで言い聞かせているうちに、きっとそうだと勝手に自分で安堵して、今日はとっても疲れたなーと思って、夜、心地良い眠りについたのだった。
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