第5話
「え? お月さんはご存じなんですか? 俺のこと」
鷹は月の言葉に少し希望を覚えました。
「ああ、憶えておるとも。いつも悠々と飛んでおったな」
鷹はなんだか嬉しくなりました。
ですがすぐ、とても寂しくなりました。
再び昔のように飛べるようになれるとは、もう思えなくなっていたからです。
でも、月が自分なんかよりずっと大きな存在であることは解りました。
自分よりずっと永く生きていて、たくさんのものを見、たくさんのことを聞き、それらについてよく知っているように思われました。
それで、なんだか話を聞いてほしいような気になったのです。
「俺は……、俺は一体、どうなっちまったんでしょう?
或る時、気がついたら、みじんも動けなくなっていました。
羽根一枚、動かすことができないんです。
それなのに心は元のままで、飛びたい、飛びたいって思うんです。
……何があったんでしょう?
俺、どうしちまったんでしょう?
どうしてこんなふうになっちまったんでしょう?
……たくさんの動物を食べてきたので罰が当たったんでしょうか?
……どうにかして、元に戻ることはできないんでしょうか……?」
月は黙って鷹の話を聞いていましたが、やがて口を開きました。
「どうやらおまえさんは、体は死んだのに魂が死なずに残ってしまったようだねえ……。
ごくたまに、そういうことがあるようだが……」
月は静かに話し始めました。
「……おまえさんは、猟師の鉄砲に撃たれて死んだのだよ。
そして、「はく製」というものにされたのだ。
魂のない、亡き骸だけがそのまま永く残るものさ。
普通は死ぬと、魂はこの世とは別の世界に行くらしいのじゃが……。
いや、わしは生き物と違って、死ぬことがないのでのう……。
ところが、おまえさんの魂は、この世界、生命のある者のいる世界にそのまま留まってしまったようじゃなあ……。
気の毒なことじゃ……」
「俺のほかにも、死んで死にきれなかった鷹がいたってことでしょうか?」
「鷹だったかはわからぬが、そういう話をどこかで聞いたような気はするな。
……しかし、すまんが、もうよく憶えていないのじゃよ。
何しろ、わしはあまりにたくさんのことを見聞きしてきたでのう……」
「……罰なんでしょうか?」
「いや、そうではないよ。
もし、生きるために命を喰らうことが罪というのなら、わざわざ罪を犯すように創られるわけはないからの。
ただ、おまえさんは、生きるためにはほかのけものを食う必要があったというだけじゃ」
「……そうですか……」
「そうじゃよ。
今、おまえさんの魂は自分の亡き骸の中にいる、というだけのことじゃ。
そのことそのものは、良いわけでも悪いわけでもない。
おまえさんにとっては、都合のよくないことのようじゃがの」
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