第3話
鷹は、雪の降る中を獲物を探して飛んだ日のことを思い出しました。
動物たちが冬籠りをしてしまうので冬は獲物が少なく、鷹はいつも空腹を抱えて難儀をしたのでした。
その日も羽根の疲れた頃になってようやく一匹の野うさぎを見つけたのです。
白い雪の上を跳ねる白い野うさぎを鷹の目は見逃しませんでした。
稲妻のような素早さで一直線に舞い降りると、その鋭い爪でしっかりと野うさぎを仕留めたのでした。
……あのうさぎも、俺のように何もわからぬ間に死んだのだろうか、と鷹は思いました。
あの短い間にも、凄まじい苦しみを味わって死んだのか。
しかし、可哀そうとは思わない。
俺も生きるために食わねばならなかった。
獲物を憐れんで飢え死にするわけにはいかなかったのだ。
鷹はふと、今、自分がここにこうしているのは罰なのだろうか、と思いました。
生きるためとはいえ、たくさんの命を奪ってきたことの。
喰われるものの苦しみが短く、自分がいつ終わるともない焦りといら立ちに閉じ込められているのは、自分が命を奪う側だったからなのか、と。
そしてこうも考えました。
「しかし、食われて死ぬこと、食い尽くされてその存在がなくなることは救いでもあるだろう。
俺もこうなる迄はただ本能のみで生きていて考えることなどしなかったが、考えるだけで何も出来ないのは辛いことだ。
やりたいことと出来ることが一致していないのが俺の今の苦しみの原因なのだ。
不幸の素なのだ。
俺は考えたくなどない、ただ飛びたいだけだ。
……そうだ、俺は飛びたいのだ。
しかし、俺はおそらく、もう飛ぶことはかなわないのだろう……」
鷹はまた考えました。
「あのうさぎには、家族がいたのだろうか」
すると見たこともないはずの情景が浮かんでくるような気がするのでした。
「うさぎの巣穴には、腹を空かせた仔うさぎたちがいたかもしれない。
親を殺されて、残された仔うさぎたちはどうしたのだろう。
飢えて死んだか、それとも自ら餌を求めて巣穴を出たのだろうか。
そしてその親のように何者かの餌食になったか。生き延びたか。
……あるいは巣にはもう一匹の親うさぎがいて、残された子供たちを一匹で養ったのか……」
「……俺にも親鳥がいた……」
鷹は巣立ってから初めて、自分を産み育ててくれた父鳥と母鳥を思い出しました。
孵るまで卵を温めてくれた母鳥と、ひなであった自分たちに餌を運んでくれた父鳥を。
「あの巣は、今でもあるのだろうか」
鷹はぼんやりと思いました。
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