第19話上級ポーション
俺がドラゴン討伐に頑張っていた最中に、帝国の貿易船が来たらしい。
その報告をセバスから聞いていた。
「帝国の商人が、大量に中級ポーションを買い漁って、この領内の中級ポーションが全くありません。中には冒険者からも買ったと聞いています。わたしが調べた結果だと25本が買われたようです」
「そうか・・・帝国での販売価格を考えれば、そうなっても仕方ないな。今度から貿易船が来た時だけ、価格を帝国並みにしてくれ。それと本数も3本ぐらいにしてくれ」
「それがよろしかと存じます。なにぶん私は、武器を隠すのに忙しかったものなので・・・」
「それは俺が悪かったんだ。帝国の商人なら儲け話には敏感だからな。今度から役割分担を決めて迅速に行動出来るように整えてくれ」
「かしこまりました。それと妙な話を聞きました」
セバスは、眉間にしわを寄せていた。いつもは表情を変えないセバスなのに・・・
なんだかその話に嫌なものを感じた。そして冷静になりながら聞いた。
「どんな話なのかな」
「皇帝第1継承で在らせるバランさまが、行方不明になられたと聞きました。商人の話なので確証はありませんが、
「なんだと」
1番上の兄だが、俺に嫌がらせをしなかった兄だった。
それ以外はクズだった。
なんだか胸騒ぎがしてきたぞ。
行方不明になるなんて、帝国が地に落ちつつある前兆なのかも知れない。
なにかが起きてこっちまでトバッチリが来ないか心配だ。
「それで、ミライを貿易船に乗せて調べるように指示しましたが、よろしかったですか?」
「ああ、それでいいよ・・・セバス、ありがとう」
「どういたしまして、それでは失礼します」
きびきびした動きで、執務室から去っていった。
帝国の事は、ミライに任せておけばいいだろう。
ミライは裏の事に精通した奴だから、心配は無用だ。
俺は作業場の戻って来た。
無くなったポーションを作って、薬学所に納めないといけない。
薬学所も、俺のレシピ通りに作っているのだが、低級ポーションしか作れない。
秒数を計ったり、温度の調整をして何度もデータ取りをしている。
ポーションのおかげで、冒険者が心配なく討伐が出来るようになったのに、討伐率を下げる訳にはいかない。
大量に採取された薬草を錬金術で、乾燥させて細かく
もう大鍋の中に材料をじゃんじゃん投入。
出来上がった中級ポーションに錬金術で、不純物を鍋から空中にシャボン玉のように浮かせた。
10センチ程のシャボン玉に、そーと鍋の外へ移動。
そして取って来たばかりのドラゴンの血を、1滴2滴3滴と垂らした。
5滴目で丁度赤く透き通った上級ポーションが完成。
小瓶に注いだら120本にもなった。
いくらの値段で売れるだろうか・・・中級で平民の家族が2年も暮らせる金額だ。
ああだこうだと考えても、買う人間がいくら出せるかだ。
しかし、帝国には売るのはダメだ。
今は、中級ポーションでも注目されているからだ。
俺が錬金術士なのは知られている。
今回の中級ポーションも、俺が作ったものだとすぐに分かっただろう。
今は、あまり注目されたくない。
「騒ぐな!騒ぐな!!今回は120本も用意している。領主さまが言われたように、欠損者のみに使用するよう堅く言われている。なので目の前で使ってもらうからな。例外は認められない」
薬学所前では、野次馬も合わせて大勢が集まっていた。
片腕を魔物に噛み切られた男が、椅子に座って薬学者をジーと見ていた。
手には、ポーションが握られていた。
そのポーションを
大勢の前で、薬学者が根本へ上級ポーションをそーとかけた。
男は
そんな肩から肉が盛り上がり、腕が「ズバッ」と生えた。
それは一瞬だった。
「え!腕だ!動く・・・やったぞーー」
男は生えたばかりの腕を、大勢が集まった皆に突き出して叫んでいた。
その男の家族なのか、女と子供が駆け寄って抱き付いていた。
「あなた・・・本当に手が・・・生えたのね」
子供は不思議そうに生えた腕を見ていた。
そして小さな手でペタペタと触っている。
「本当に生えている」
「お前の兄貴も片足を無くしたはずだ。なぜ来てないんだ」
「そんな無くなったものが生えると思わなかった・・・嘘みたいだ」
「早く呼んで来いよ」
「そうだ、行ってくるわ」
男は急いで駆けて行った。
それにつられるように、何人も駆け出した。
そしてあっという間に、80人以上の男女が長い列をつくっている。
足のない者は、介護人が肩を貸して列にくわわった。
「もうこんなに並んだのか・・・ポーションはまだあるのか・・・」
「大丈夫ですよ、まだありますので心配しないで下さい」
女性の薬学者が、やさしい声で話している。
しかし、ついに残り10本になった時に、荷馬車4台もやって来てしまった。
1台に10人程が乗せられていた。
薬学者のロレン・ヘードは、荷馬車の前へ出た。
「すまない、残り10本だ。10人だけが治せる。その10人からもれた人は、名前と住所を教えてくれ。上級ポーションが出来次第連絡するから・・・」
一瞬、ざわついた。
「皆、ああ言っている。足の不自由な10人を残そう。それに治った人たちを見たよな、少し待つだけだ。必ず治るから辛抱しよう」
皆は、互いの顔を見ていた。
そんな中で、右足首が木で出来ていた若い男が言い放った。
「治るなら待ってもいい。名前はジンカ・ベールだ」
次々に名乗りでて、住所もぺらぺらとしゃべり出した。聞かれてないのに。
そして、目の前で治る瞬間を固唾を呑んで見守っていた。
治った瞬間に、涙して見ていた。
あの若者も「治ってよかった」とつぶやいてひとすじの涙を流していた。
治ったのは、若者の姉だった。
姉は弟をかばって、魔物に右足を食われた。
それは半年前の事だった。
ガイ・ラミアン元執行官が、魔の森で捕獲した魔物を帝国に売る為に、檻に入れて街に引き込んだ。
街に入った瞬間から、魔物は暴れだした。
そして檻を破って街はパニックになった。
その犠牲者となった2人で、有名な話だった。
元執行官は、わずかな金で家族を黙らせた。
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