第41話 欲望の城

 カジノの隠し通路を潜り先へと進み、俺たちは広いホールのような空間へと出た。

 だが直ぐに邪魔をしてくるゲリュオンのメンバーらしき連中が現れる。



「貴様らそこで止まれ!」



 恐らく同年代だろうが手には剣や槍などの武器を持っている。

 いきなり物騒だ。



「むむ、もう見つかったか」



「まぁ当然だな。ここが連中の巣であるならば既にシルバは俺たちが近づいていることを分かっている筈だ」



「これ、ぶっ放しても構わないわよね?」



 俺たちの戦力を考えればここを突破するのは可能だろうが、リーダーのシルバとも恐らく戦闘になる。

 それを考えればここで体力を浪費するのは得策ではない。



「ざっと30人か」



 アリウスは顎に手を当てて考えていたようだが、直ぐに口を開いた。



「ユーズ、まずはお前が先に行け。ここは俺たちが食い止めよう」



「俺が?」



「俺たちの中で一番強いのはお前だ、この作戦の目的と成功の確率を考慮すればお前が行くのが一番いい」



 考えてる暇はなさそうだ、俺はアリウスの言葉に頷き前を見据える。



「必ずシルバとかいうやつをとっちめろよ我が好敵手ライバル



「言っとくけど私はアンタが一番強いとは認めてないわよ。まぁこの場は任せるケド」



 そう言うとシオンは爆炎弾フレイムバーストを敵のど真ん中に打ち込んだ。

 炎と煙で敵が慌てている内に俺は前に突っ込み、先へ抜ける。



「くっ! 1人逃げたぞ! 追え!」



 ユーズを追いかけようとするゲリュオンのメンバー、しかしそれを止めるアリウスたち。



「悪いがユーズの先は追わせん。俺たちを倒してからにするんだな」








 高そうな木製のドア、それがゆっくりと開かれた。

 出迎えるのは褒章狩人集団バッジハンティングクルーゲリュオンのリーダー、シルバ・ザンクアリ。



「やっぱり来やがったか」



「お前がシルバか」



 ソファーに腰掛けている男、前髪に白のメッシュと眉と鼻にピアス、間違いない。

 俺がこの部屋に入ってきたというのに全く動じた様子もなく座ったままだ。



「口の利き方がなってねぇな。おい、お前ら。歓迎してやれ」



「!」



 シルバが合図すると部屋の奥からぞろぞろと武装した男たちが現れた。

 大体15人といったところか、こいつらもシルバの部下だろう。



「うおおおお!!!」



 男たちは間髪をいれずに襲いかかってきた。

 俺も剣を抜いて右手に握った。



「何だこいつ!?」



「強えぞ!」



 鮮血が飛び散る戦い。

 ユーズは相手を殺さず戦闘不能にする程度の斬撃を与える。



『くそっ! 火球ファイアボール!』



風刃ウィンドカッター!』



水針ウォータースピア!』



 痺れを切らした敵は集団で攻撃の属性魔法を放ってきた。



氷塊フリギ・スクトゥム



「!? 何だ、氷!?」



 氷の盾で全てを防ぎ、そのまま敵の集団を氷の魔力で囲む。



氷縛フリギ・プレヘンデレ



「うわあああっ!!」



 まとめて多数を氷の鎖で縛り、戦闘不能に追い込む。

 これで残るはシルバだけだ。



 シルバはようやく立ち上がり上着から埃をバッバッと払う。



「なかなか、やるじゃねぇか。ユーズだったか」



 シルバは武器を召喚し、逆手の双剣を両手に装備した。



「俺の邪魔をするとは。何が狙いだ?」



「狙い? 俺はただ後悔させたいだけだよ。俺の友達を傷つけたこと」



 ユーズがそう答えるとシルバは嘲笑い、身体に風の魔力を纏わせる。



「くだらねぇな。そんな理由でここまで来たのか」



「!」



 そしてシルバがいきなり斬りつけてきたところをユーズは剣で防ぐ。



「後悔させてみろや」



 そのまま凄まじい速さの二刀流でシルバは攻めたてる。

 その剣速には防ぐので精一杯だ。



『十字刻印斬!』



「っ!!」



 ユーズはシルバの攻撃で吹き飛ばされる、X型の強烈な斬撃を見舞われたからだ。



(こいつ……能力はスピードだけじゃない。正確な場所を狙って強力な一撃を……)



「どうした? 後悔させてくれるんじゃなかったのか」



 さらにシルバは隙を与えないように連撃で攻め込んでくる。



(くっ……氷面鏡テルス・ゲラートを使う暇がない。このままじゃ……!)



氷柱槍アクティ・クリスタロス!』



 シルバに距離をとらせようとユーズは攻撃に転じた。

 しかしユーズの放った氷の槍にシルバはすぐさま反応、咄嗟にしゃがみ込んで回避した。



(何っ!?)



『十字刻印斬・飛炎!』



 しゃがみ込んでいた体勢から跳ね上がるように斬りつけてくる。

 さらにその刃には火の魔力による熱が加えられていた。

 ユーズはもろに斬撃を身体に受け、X方向に血飛沫が飛び散る。



「くぅ……!」



「痛ぇか? 悪いがこんなものじゃ済まさないぜ。何せお前らは俺の金儲けを邪魔しやがった」



「金……儲け、だと?」



 このカジノのことだろうか、いやゲリュオンの目的は星褒章スターバッジを奪い集めることだった筈。



「まぁ冥土の土産にでも聞かせてやるか。俺たちが手に入れた星褒章スターバッジ、あれは金なら最低500万で売れる! それだけ価値のあるもんなのさ。金持ちの上級貴族どもはあの手この手で監督生になろうと俺たちから褒章バッジを買う。こんなに儲かる話はそうそうねぇんだよ」



「……」



 ユーズの脳裏にアリウスやハルクの顔が映る、監督生になろうとする彼らの意思と信念。

 こいつらに―そんなものは微塵もない。



「? まだ立てたか。よほど痛い目にあいたいようだな」



 シルバはユーズを斬り刻もうとせんばかりに両手の双剣で襲いかかった。



「!!?」



 しかしその瞬間、身に浴びる強烈な冷気に思わず怯んでしまう。

 ユーズが零華を抜いたのだ。



(何だこのガキ……? さっきまでとまるで違う……とっとと殺した方がいいみてぇだな)



 シルバは今度は身体ではなく双剣に風の魔力を流し、重量をそのままにリーチを2倍以上に伸ばした。



『十字刻印斬!!!』



 シルバの斬りつけた風の刃は零華に防がれる。

 しかしそこでは信じ難い事象が発生し、それはユーズの目にだけ見えていた。



(裂け目……!)







________








王立魔法騎士学園ナイト・アカデミア、魔法学の授業



「高密度の魔力の流れがぶつかり合う時、僅かにその空間が歪み、裂け目となることがある。魔力の渦と言ってもいいかもしれないね」



 アルゼラ先生のいつもの授業、だがこの回は特に印象深い内容だったことは覚えている。



「そしてその裂け目に魔力を流し込むことで爆発的な魔力の反発が生じるんだ。その時に一瞬だけど、周りの人間にはまるで世界が色を失ったように見える。稀に起きるこの現象を『晦冥かいめい』という」



「この時生じるエネルギーは通常の魔法を使った時の数倍だ。その威力は一振りで百匹の魔物を打ち払うとすら言われる。戦闘でこの裂け目を見極めることができればまさしく魔術師として完成の域に近づいていると言ってもいい。……ただし、滅多に起こることではないし晦冥かいめいをモノにできる人間はこの学園の卒業生でも毎年1人いるか、いないかくらいだ」



「今の君たちには原理を理解してもらう方が先かもしれないね。高密度の魔力、と言っても理論上では最低限の数値は決まっている。詳しい計算は魔法数学の授業で取り扱うだろうけど」







________








(まさか……これが……!?)



 裂け目を意識して魔力を流し込む。

 その瞬間―俺たちの周りから色が消え、モノクロームの世界が映った。



(……!? 何だ!?)



 シルバも当然困惑する、だが僅か数秒も困惑する暇はない。



晦冥かいめい!!』



「うっ……ぐっあああああぁぁぁ!!!」



 反発し合う魔力は暴走し、力が解放された。

 その力は衝撃波のように発されてシルバの身体は一切の抵抗もできずに思い切り吹き飛ばされた。



「か……がはっ……!!」



 壁に叩きつけられた後に床に這いつくばるシルバ、何が起きたのか理解できない様子だ。



「……」



 俺も必死でやったことであるが故に何か気分は現実味を帯びていなかった。

 だが……。



「シルバ……落とし前だ。これでゲリュオンも終わりにしてもらう、俺の友達を傷つけたことは……許さない」



「ぐっ……ぐぐっ……こ、この俺が……こんなガキに……!! お、俺はもっと金が……金が……」



 全身の骨が折れでもしたのだろうか、シルバは呻きながら金に対する執着を口にしていた。



(……)



 何故これほどに力のある男が金に執着しているのか、いくら位が低くても貴族である筈なのに。

 俺は何か腑に落ちない感情を持って戦いを終えた。








 カジノ"ロゼ"を見回せる隣の建物、その屋上に1人の男が立っていた。



「あーらら……やられちゃったよ。これであいつは終わりかぁ、結構面白かったのに……でもまた代わりに面白いの見つけちゃったな。ユーズ、か」



 そこに居たのは紫の髪の毛、彫刻のような白い肌、紺碧の眼を持つあの男―ネオス。

 ニヤリと笑みを浮かべると、ネオスは煙のようにその場から消え去った。

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