第40話 ミッドナイト
3日後の夜―王都エクラールム街 カジノ"ロゼ"前
「潜入作戦。何度も言っておくが、しくじれば後が面倒なことになるぞ」
「分かってるよ。学園側にバレれば何かしらの罰則は免れない、だろ?」
そこで俺とアリウスたちは落ち合った。
結局あの後にネオスから聞き出した情報を翌日アリウスに共有したが、2人だけで潜入するのは厳しいと言われた。
そうして連れて行った方がいいと言われたのが……。
「先に言おう。俺は、緊張している。カジノなんて何せ初めてだ」
「アンタみたいなやつの辞書に緊張という二文字があったとは驚きね。ダンスパーティーの時は調子に乗ってた癖に」
ハルクとシオン、実力は頼りになるが性格的にこうした場所に向いているかというと……。
だがゲリュオンのリーダーの居場所が分かったと伝えると直ぐに食いついてきた。
「まぁ狙われてるんだから先にこっちから潰しに行った方が楽よね。バレたら後で学園から何か言われるとか考えてもしょうがないし。もしも知ってるやつがカジノに居たら面倒だけど」
確かにエルメージュ家は有名な一族であり、彼女を知る人間が居たら厄介かもしれない。
だが彼女は恐らく貴族の友人がそう多くないことから、バレる可能性は低そうだ。
「貴様らはともかく俺のような末席貴族はこうした場所に出入りしようが大した問題ではない。……いつか見ていろよ!」
自分の発言で対抗意識を燃やすハルク。
アリウスは妹を例外として家のことなどロクに気にしていない様子なので、彼らと同様に今回の作戦には向いている。
ヴェルが居ないのは少し心もとないが、仕方ないだろう。
彼女は有名だし万が一バレた時のリスクが高い。
「にしても、どうすんのよ作戦は。どこにそのシルバってやつが居るのか知らないけど」
「シルバ・ザンクアリの外見的特徴はユーズが聞き出した。長身に髪の色は黒で前髪に白のメッシュが入り、右の眉と鼻にピアスをしているらしい。虱潰しに探し回る、と言いたいところだがカジノで雁首揃えながら人探しなど誰がどう見ても不審だ。分かれてゲームをしたりしつつ不自然さを周囲にバレないようやっていくしかない」
アリウスが提案する、まぁこれしかないだろう。
「ま、スマートじゃないけど仕方ないわね。決まったらさっさと行くわよ」
シオンはそれだけ言うとスタスタと歩いて入店してしまった。
俺たちも慌ててその後を追いかける。
「うっ……!」
ハルクは思わず唸ってしまう。
カジノの喧騒と熱気、その華やかな雰囲気に面食らうといった感じだろうか。
だが俺たちは入って間もなくこのカジノの特異性に気づくこととなった。
「いらっしゃいませ」
店員が普通に挨拶をする。
そして周りを見回すと俺たちと同様に未成年であろう者たちが沢山居た。
「どう思う? アリウス」
「まぁ予想できなかったことでもない。シルバやゲリュオンの連中が常に屯している場所ならば未成年御用達、要するに大人から目をつけられない場所という方が自然だからな」
さて、問題はここからどうするか。
「とりあえず30分後にあの時計の下辺りで集合する、それまで自由に情報を集めるぞ」
アリウスの仕切りで俺たちは動くことになった。
ポーカーテーブルで歓声が上がった。
ストレートフラッシュだ。
「クソっ、どうなってんだ!?」
「うわははは! また俺の勝ちだな!」
いつの間にかハルクがポーカーテーブルで荒稼ぎをしていた。
連戦連勝しているらしく、周りに人が集まっており俄に騒がしい。
緊張するとか言っていた割に直ぐこれだ。
そしてすっかりハルクも勝利に気をよくしている。
「〜〜〜!!! どうなってんのよこのスロット! イカサマなんじゃないでしょうね」
一方でシオンはスロットコーナーに居たが、負けが込んでいるのか苛立ちを露わにしていた。
彼女の容姿の良さもあって、別の意味で衆目を引いている。
「なぁ、あいつら悪目立ちしてるんじゃないか?」
「丁度いい隠れ蓑だ。やつらが注目されている間にシルバをさっさと見つける、手分けしていくぞ」
近くでウロウロとしていたが、アリウスにそう言われてとりあえずは別の場所に向かう。
(まずはトイレにでも行くか)
少し催したのでトイレに立ち寄る。
スッキリさせてから本腰を入れることにしよう。
(トイレは……ここか。まぁ割とキレイそうだな。……ん?)
「……フォールド」
ハルクは一旦ポーカーテーブルから降り、フーっと一息ついた。
(途中から明らかに回ってくるカードが悪くなっていた。どう考えてもあのディーラーの操作だが……時間も手頃だし一度やつらと集合するか)
ハルクが集合場所に行くと既に3人はそこで待っていた。
「ようお前たち、戦績は如何ばかりだ?」
「目的はギャンブルで勝つことじゃないからな」
「わ、分かっているぞそんなことは! 情報は何か入ったのか?」
まずはアリウスが口を開いた。
「俺はダーツをしていたが、特にめぼしいことは無しだ。シルバらしき人間を見かけることもなかった」
「私はスロットやってたけどろくなもんじゃないわ、あのイカサマスロット。あぁでも何か周りの連中のヒソヒソ話が聞こえてたわね、このカジノは何でも裏にコーナーがあるとかなんとか……」
負けまくっていたことがよほど頭に来ているのか、憤懣やるかたない様子のシオン。
(本当にイカサマなのか? ただツキがないだけなんじゃあ……)
俺は心中で冷ややかな感想をシオンに抱いていたが、次のハルクの発言でその認識は変わった。
「俺はポーカーをしていた。途中まで調子が良かったんだが……後から明らかなディーラーのイカサマで負けが込んできてしまってな」
「イカサマ……」
本来ならギャンブルの胴元は余計な小細工をせずとも儲かるシステムの筈だ。
ということはここはイカサマをしているカジノ、要するに何かしらの資金源にでもなっている可能性がある。
「ユーズはどうなのよ? 黙りこくっちゃって」
「俺は……トイレで怪しい鏡を見つけた」
俺が最初に入ったトイレ、そこに続く廊下には大きな等身大の鏡が置いてあった。
まるで入れそうなくらいの。
「何でそれが怪しい鏡になるのよ」
「キレイに磨いてあったけど1箇所だけが薄汚れてた。恐らく人間の触った後だ。それでしばらく調べてたら外せた、向こう側は通路になってる」
こう考えるとこのカジノには怪しい点が幾つも出てくる。
「つまり総合するとそこが裏のコーナーに行ける隠し通路、という訳か。お前たちのイカサマだという話を信じるならば……1つ仮説が浮上するな」
「仮説だと?」
「あぁ。ここはゲリュオンの連中が屯しているカジノ、というよりは連中が運営しているカジノの可能性が高い」
学生が運営している闇カジノ、アリウスの仮説が正しければ俺たちは敵の巣に入っていることになる。
「とりあえず行くしかないわね」
俺たちは周りの目を気にしながら鏡の前に移動し、取り外した。
「モタモタせずさっさと行くぞ」
「り、リーダー!」
「何だ」
カジノの店長室、慌てた様子で男が駆け込む。
「やつらです。1年生のアリウス・ハイランドやシオン・エルメージュです!」
シルバは手に持ったリストを眺める。
「あぁ、3日前にバドーたちを潰したこいつらか。俺の金儲けを邪魔した報いは受けさせる、動員して叩き潰せ」
「はいっ!」
シルバは忌々しげにリストをぐしゃりと握りつぶし、咥えていたタバコの火を消した。
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