第20話ドラゴン戦

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。

《東方の黄昏たそがれ団》に幼馴染マリナと共に加入して、冒険者として活動開始。


 新しい任務先、北の街道の工事現場で、危険な魔物を探知。


 ◇


 魔物が姿を上空に姿を現す。


 翼竜ワイバーンによく似た飛行系の魔物。

 だが明らかに大きさと魔力の放出量は桁違い。


 ザムスさんが小さくつぶやく。


「ちっ……ドラゴンか……」


「に、兄さん……あれは、もしかして……」


「ああ、間違いないドラゴンの成竜だ」


 ザムスさんとサラは、深刻な顔をしている。


 何故ならドラゴンの危険度A。

 冒険者ランクA以上が四人じゃないと、勝てないレベルの危険な魔物。


 冒険者ランクBの《東方の黄昏たそがれ団》では勝てる可能性が、低い相手なのだ。


「ザムス! 見て。ドラゴンがあっちに向かうよ!」


 女弓士マリナの指摘とおり。

 ドラゴンは飛行経路を変更していく。


 オレたちの場所を迂回していくのだ。

 何かの反応を見つけたのであろうか


「ちっ、あっちは工事現場がある! 急ぐぞ!」


「「「はい!」」」


 ドラゴンは工事の人たちを発見したのであろう。

 レイチェルさんたちはまだ退避中。


“食事”を見つけてドラゴンは向かっているのだ。

 もはや予断を許さない状況だ。


「ザムスさん! 移動速度の上がる支援魔法を、かけても大丈夫ですか⁉」


「ああ、頼む、ハリト!」


「それではいきます……【脚力強化】!」


 走る速度が上がる支援魔法を発動。

 対象は《東方の黄昏たそがれ団》の全員に対して。


 ヒュイーン


 皆の全身が輝き、移動速度が上昇する。


「うっ、これは……兄さん、私は慣れないでの、早く走るのが難しいです」


 身体強化系の支援魔法は、初見だと対応が難しい。

 特にサラのような魔法使い系は、慣れるのに時間が少しかかる。


「無理をするな、サラ。遅れてもいいから、安全についてこい。マリナはいけるか?」


「もちろんよ! ハリトからの支援魔法歴は、長いからね!」


 剣士系のザムスさんと流石だ。

 あとマリナは昔から慣れているので、対応が出来ている。


 もちろん発動者であるオレも大丈夫だ。


「よし、行くぞ! 現場の人たちを助けるぞ!」


「「ハイ!」」


 ザムスさんを先頭にして、オレとマリナが後を付いていく。

 山岳地帯を飛ぶように移動していく。


「ちょ、ちょっと、ザムス。急ぎ過ぎよ! 危ないわよ!」


「問題ない! 早くしないとレイチェルたちが危険だ!」


 先頭のザムスさんは、物凄く急いでいる。

 というか……少し焦っていた。


 いつもの冷静なサムスさんには珍しいことだ。


(もしかしてザムスさんもレイチェルさんのことを……いや、そのことは後だ!)


 今はとにかく急ぐ必要がある。

 工事現場へと三人で駆けていく。


「いたぞ!」


 現場に到着。

 だが少し遅かった。


 巨大なドラゴンは地上に降りて、工事現場を強襲していた。


『ガァラァアアアア!』


 今のところまだ死傷者でていない。

 だが、このままではドラゴンの鋭い爪によって、多くの死傷者が出てしまうだろう。


 そんな中、一人の女騎士が、先頭で戦っていた。


「作業員は退け! 兵士は弓矢で牽制をしろ!」


 女領主のレイチェルさんだ。

 部下に指示を出しながら、自分でもドラゴンを牽制していた。


「この魔物めぇえ!」


 レイチェルさんはドラゴンに斬撃を食らわす。

 凄まじい気迫と、鋭い斬撃だ。


 ヒューン、カキン!


 だがドラゴンの鱗に、斬撃が弾かれてしまう。

 レイチェンさんの剣の腕が、悪いのではない。


 あのドラゴンの防御力が高すぎるのだ。


『ガァラァアアアア!』


 怒ったドラゴンが反撃。

 近づいてきたレイチェルさんに攻撃を加える。


「くっ⁉ キャー⁉」


 辛うじて回避するも、レイチェルさんは攻撃を受けてしまう。

 ドラゴンの攻撃で吹き飛ばされてしまう。


「レイチェル! 今すぐ、助けにいく!」


 幼馴染レイチェルの危機に、ザムスさんが動く。

 険しい崖を落ちるように、降りていく。

 凄まじい気迫と勇気だ。


「サラとハリトは、そこから援護をしてくれ!」


 だが頭の中は冷静。

 残されたオレたちに、指示を出してくる。


「了解! いくわよ……【強射ハイ・ショット】!」


 マリナは弓系の攻撃スキルを発動。

 強化された矢を放つ。


 ヒューン……カキン!


 見事に命中。

 だがドラゴンの鱗に矢は弾かれてしまう。


「何て硬さなの⁉」


 前回の多首竜ヒュドラ時は、マリナの弓でもダメージを与えられた。

 だが同じ竜種でも、今回は格が違うのだ。


「あっ、レイチェルさんが⁉」


 その時だった。

 吹き飛ばされたレイチェルさんに、ドラゴンが追撃をしかけていく。


 このままで踏みつぶされてしまう。

 ザムスさんはギリギリ間に合わない。


 オレはすかさず動く。


「いくよ……防御力向上!」


 レイチェルさんを対象に、支援魔法を発動。

 彼女の全身が、強い光に包まれる。


『ガァラァアアアア!』


 直後、ドラゴンの巨大な尻尾が、レイチェルさんに迫る。


 ガッ、キーーーーン!


 だが尻尾は弾かれていく。

 オレの支援魔法が、何とか間に合ったのだ。


 そこにザムスさんが飛び込でんいく。


「レイチェル! そこを動くなよ! はぁあああ……【鋭斬撃ソリッド・スラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動して、斬り込む。


 ズッシャァアア!


 見事、ドラゴンの尻尾にダメージを与える。

 だが固い鱗に守られて、致命傷には至っていない。


 それでも時間は稼げている。


「大丈夫か⁉ レイチェル⁉」


「ザ、ザムス……? 助けて来てくれたの?」


「ああ、当たり前だろ。さぁ、立て。また、やれるか?」


「うん……もちろんよ……【治癒】!」


 レイチェルさんは立ち上がる。

 自分自身に回復魔法をかけていた。


 そうかあの人は聖魔法も使えるのか。

 これならあっちは大丈夫そうだ。


「ハリト君、お待たせです!」


 そんな時、オレたちの高所にサラが駆けつける。

 なんとか高速移動に慣れてきたのだ。


「どんな感じですか、マリナ?」


「うーん、ちょっとヤバイかな? 私の弓矢攻撃は、もう少し近づかないと、弾かれちゃう。あとザムスの斬撃のダメージは通るけど、反撃の危険性があるわ!」


「なるほどです、やはり危険度Aのドラゴンは、尋常ではありませんね。更に“火炎吐ブレス”の攻撃もあるはずですから」


「そっか……そうよね。被害が広まる前に、何とかしないとね!」


 ドラゴンの攻撃の中で、一番恐ろしいのは火炎吐ブレス

 耐久性の無い人は、一瞬で黒焦げになってしまう。


 しかも射程距離と攻撃範囲も広く、危険な攻撃なのだ。


「見て、ドラゴンの動きが変わったわ⁉」


「あれは、マズイです。火炎吐ブレス攻撃の予備動作です⁉ 兄さん! レイチェル様! 逃げてください!」


 二人の指摘とおりだった。

 ドラゴンは大きく息を吸っている。


 その口先は地上のザムスさんとレイチェルさんだ。

 まだ動けないレイチェルさんのことを、ザムスさんは庇おうとしている。


 ここのままでは二人ともマズイ。

 オレは意識を集中。


「ザムスさん、いきますよ! 【耐火】!」


 防御系の支援魔法を発動。

 対象はザムスさんとレイチェルさんだ。


 ヒュイーン


 二人の全身が強い光に包まれる。


『ガァラァ!』


 直後、ドラゴンの火炎吐ブレスを吐き出す。


 ゴォオオオオオオオ!


 地獄の業火のような炎が、二人に襲いかかる。


 ――――だが二人は無事だった。


 火傷一つ負っていない。

 オレの支援魔法が、何とか間に合ったのだ。


 ザムスさんが炎の中に飛び込んでいく。


「はぁあああ……【鋭斬撃ソリッド・スラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動して、斬り込む。

 凄まじい気迫だ。


 ズッシャァアア!


 見事、ドラゴンの胴体にダメージを与える。

 だが固い鱗に守られて、今度も致命傷には至っていない。


「ザムス⁉ でも、この光は⁉ どうして私たちは生きているの⁉」


 一方でレイチェルさんは混乱している。

 自分が丸焦げになっていないことが、理解できていないのだ。


「それはウチの支援魔術師の力だ。だから信頼して攻めていくぞ、レイチェル!」


「えっ……あのハリトの? わ、分かったわ!」


 だがザムスさんの言葉で、彼女も冷静さを取り戻す。

 剣を構えてドラゴンを牽制していく。


「ふう……良かった……」


 そんな二人を見て、オレは思わず安堵の息を吐く。

 これで何とか戦えることが出来る。


 よし、ここからはオレたちの反撃のターンだ。


「ザムスさん! これから攻撃系の支援魔法を発動します! いつもより“少し強め”なので、よろしくお願いします!」


 発動前に大きな声で伝えておく。


《東方の黄昏たそがれ団》では初めての使う強度。

 そのためパーティー内で情報共有が必要なのだ。


「それじゃ、サラとマリナにもかけるから、攻撃よろしく頼むね!」


 隣の二人にも、最終確認で伝えておく。


「は、はい……ハリト君の『いつもより少し強め』な支援魔法ですか。私は心より恐怖していますが、この場合は背に腹は代えられません」


「私は大丈夫よ! でもハリトの“少し強め”は強力すぎるから、私も気を引き締めてたないとね!」


 二人とも準備は万端。

 よし、いくぞ。


 オレは意識を集中して、魔力を高めていく。


 対象は全員の武器と、サラの魔力に対して。

 あとマリナとザムスさん、レイチェルさんは身体能力も強化だ。


「いきます……【攻撃力強化】&【魔法・威力強化】&【身体能力・強化】!」


 ビュィーーーン! ブワァーーーン! ブワーーーン!


 よし、無事に発動できた。

 あとは頼みましたよ、皆さん!


「ハリト君の強度ですか……嫌な予感しかしませんが、いきます……【大風斬ハイ・ウィンド・カッター《中》】!」


 まずはサラが攻撃魔法を発動。

 杖から巨大な風の刃が、高速回転で発射されていく。


 ビューン、グルルッルル! ブワァーーーン!


 見事に命中。

 刃は巨大な竜巻になり、ドラゴンの全身をズタズタに切り裂いていく。


「え………どうして私の魔法が、あんな規格外の竜巻に⁉ えっ……」


 マリナが唖然としている横で、すかさずマリナも攻撃を開始。


「いくよ……【強連射ハイ・ショッズ】!」


 弓系の攻撃スキルを発動。

 強化された矢を放つ。


 ヒューン、ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ! ズシャ!


 こちらも見事に命中。

 一本から数十に増えた矢が、豪雨のようにドラゴンを貫通していく。


 もはや相手は動けない状況だ。


「ふう……やっぱりハリトの《中》は、相変わらずよね……」とマリナがため息をつく中。

 ザムスさんレイチェルさんが斬り込んでいく。


「いくぞ、レイチェル! 連携だ」


「ええ! 昔のアレね!」


 息の合ったコンビネーションを発動。


「はぁあああ……【鋭斬撃ソリッド・スラッシュ】!」

「いくわ! 【鉄斬ガード・クラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動。

 二人同時に左右から挟撃だ。


 ズッッシャァアアアアアンー!


 ブァァアアアアー!


 二人の斬撃は見事に命中。

 巨大なドラゴンの胴体を、両側から一刀両断してしまう。


 強大なダメージを受けて、ドラゴンは死亡。

 死骸は段々と消滅していく。


「みなさん、ナイスです! お見事! ナイス連係プレーです!」


 崖の上から声援を送る。

 念のため周囲を広範囲で索敵。


 うん、他に危険はない。

 これで任務は完了だ。


 被害者が誰もいなくて嬉しい。

 皆で喜びを分かち合いたい。


 ――――だが皆の様子はおかしかった。


 誰も喜んでいない。


「えっ…………」

 サラは自分の杖を見つめたまま、まだ絶句している。


「ふう…………」

 ザムスさんもドラゴンの死骸を見て、ため息をついている。


「えっ……? えっ……?」

 レイチェルさん至っては自分の剣と、ドラゴンの死骸を見返して、大きな口を開けて呆然としている。


 なんかマズイ雰囲気。

 もしかしたらオレはヤリすぎたのであろうか⁉


 こ、こんな時は幼馴染のマリナなら。


「さすがに、コレはやりすぎだよね、ハリト……」


 なんとマリナまで呆れていた。

 全員でオレのことを見てくる。


「あっはっはは……」


 とにかく笑ってごまかすことにした。


 この後はどうなるんだろう。不安しかないです。

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