第12話 『仮面の女』、登場!
五百人は入れるんじゃないかという大広間はたくさんの人たちで賑わっていた。
壁にはこの街の歴代の指導者たちの肖像が隙間なく並べられている。
貴族たちの優雅なパーティー。
今夜の夢の舞台はなんどか華やかだ。
オーケストラの生演奏が流れ、テーブルには見た目も鮮やかなご馳走が並ぶ。
窓の外には運河が流れる海洋都市ならではの景色が広がっていた。
僕は鏡華さんに視線で合図を送り、二人でそろりと大広間から抜ける。
この宮殿は迷路のようになっており、そのどこかに秘密文章が眠っているはずだ。
この都市の秘密が記されており、それを敵国に流して戦争を起こそうとしている。
「それにしても素敵な宮殿ですね」
深紅のイブニングドレスを着た鏡華さんが高い天井を見上げて感嘆のため息をつく。
壁や柱はもちろん天井など細部にわたるまで細かな彫刻があしらわれたバロック様式が見事である。
「感動してる場合じゃないよ。僕たちがこの美しい海洋都市の未来を担ってるんだから」
「そうでしたね。すいません」
気を引き締め直して宮殿の中を探索する。
でも鏡華さんは巨大な絵画を見て興奮したり、ふかふかの椅子を見つけては座り心地を確かめたり、美味しそうなお菓子をつまみ食いしたり、一向に探索が捗らない。
「もうちょっと真剣に探さないと見つからないよ」
「ごめんなさい。ついテンションが上がってしまいまして」
よほどこういう西洋の宮殿的なものが好きなんだろう。
いつもにも増して今日の鏡華さんは弾けていた。
そんなところも可愛らしい。
そこに──
「ずいぶん間抜けなパートナーを連れてきたものね、空也」
嘲笑う声と共にドアが開く。
「お前はっ……仮面の女っ……」
カーニバルで被るような舞踏会用マスクをつけた女が現れる。
彼女は通称『仮面の女』。
僕の夢にたまに現れては邪魔ばかりしてくる憎らしい奴だ。
鏡華さんで言うところの『ヘッド博士』みたいなものだ。
「あなたが仮面の女さんですか。いつも空也さんの邪魔ばかりしてるそうですね!」
「うるさい小娘ね。貴女には用はないの」
「小娘じゃありません!」
「あら失礼。既に男性を知ってらっしゃっるんですね」
「だ、男性をってっ……そ、そんなことあなたに関係ないです!」
鏡華さんは羞恥で顔を真っ赤に染めていた。
「やめろ。鏡華さんに品のないことを言うな!」
「あら? 男女が惹かれあって一夜を共にすることが品のないことかしら?」
仮面の女は羽根で作られた扇で僕の頬をさわっと擽る。
とにかくこの人はすぐこうやって扇情的に煽ってくるのが得意だ。
普段でも気まずいのに鏡華さんの前だから更に恥ずかしかった。
「なにをしてるんですか! 空也くんから離れてください!」
「うるさい小娘ね」
「きゃあっ!?」
仮面の女が扇をひらっと振ると突風が吹き、鏡華さんが吹き飛ばされた。
「鏡華さん!」
慌てて駆け寄り抱き起こす。
「ほら貴殿方が探してるのはこの密書じゃなくて?」
仮面の女は羊皮紙をひらひらと見せてくる。
「自ら持ってくるとは舐められたものだな」
「だってなかなか来ないから待ちくたびれちゃったの」
こうやって煽り続けてこちらの冷静さを奪うのが彼女のやり口だ。
「夢なんですからなんでも出来ます。あの仮面の女さんを魔法で拘束してやります」
鏡華さんは僕の耳元で囁いてから右手を翳して光を放った。
「エターナル・レストレイント!」
光の輪が幾重にも仮面の女を縛る。
そして音もなく解けた。
「あらあら? この可愛らしい輪っかはなにかしら?」
「そんなっ……」
夢の中とはいえ仮面の女のような強敵は一筋縄ではいかない。
「拘束とはこうするものよ、ネンネちゃん」
「きゃあっ!?」
暗黒の茨が鏡華さんをグルグルに縛り上げる。
「やめろ! 鏡華さんに手を出すな!」
「あらぁ、怖い。空也もいっぱしに女の子の前で格好つけたいのね」
仮面の女は黒い炎を全身から放出させた。
「うわぁああ!」
「なんですか、これ!?」
僕たちはその業火に焼かれ身悶える。
何もかも全て黒く塗り潰す炎に飲み込まれ、視界がまったく効かなくなる。
暗闇の中、仮面の女の笑い声だけが聞こえていた。
──
────
「許せません! なんなんですか、あの人は!」
翌日の美術の授業中、鏡華さんはプリプリと怒っていた。
「恐ろしい奴なんだよ。僕もいつも苦しめられている」
「たとえ夢とはいえ許しがたいです! あんな辱しめまで受けて……今度会ったら絶対返り討ちにします!」
温厚な鏡華さんをここまで怒らせるとは、さすが仮面の女である。
僕たちの夢冒険はまだまだ前途多難だ。
────────────────────
恐るべし、仮面の女!
鏡華さんの前に現れた恐るべしライバルです!
大人の女性の色香に負けるな、鏡華さん!
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