第85話籠もよみ籠持ち・雄略天皇:万葉集 巻頭歌
万葉集 の巻頭歌、雄略天皇の歌です。
雄略天皇は日本の第二一代の天皇。五世紀後半頃の日本は、地方の権力者がそれぞれに治めていましたが、 雄略天皇が力で制圧してまとめ、大和の国の権力を高めたと言われています。
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天皇の御製歌
そらみつ
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原文は、万葉仮名で表記されています。
訳:
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泊瀬の朝倉の宮に天下をお治めになる天皇の御代、大泊瀬稚武天皇
天皇がお詠みになった歌
籠よ、きれいな籠を持ち、へらよ、きれいなへらを持ち、この丘で若菜を摘む娘さん。
あなたの家を教えてよ。名を名のってよ。
そらみつ大和の国はすべて我が治めているのだ、隅々まで我の国なのだ。
そんな我に、名のってくれるね、あなたの家も、名も。
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万葉集の一番最初の歌ということで、古文の教科書にも取り上げられたりもしているので、知っている人も多いと思います。
大泊瀬稚武天皇天皇とは、雄略天皇のこと。ただ、実際に雄略天皇が作った歌なのかは、どうなんだろうという気もします。
大和の丘で、若菜を摘んでいるきれいな娘を見初めて、妻問い、つまりプロポーズするという歌です。
現代でいうならば、野外フェスで踊っている可愛い子を見て、ナンパすると言うような感じでしょうか。
天皇の歌にしては、けっこう軽い(笑) 初期日本の大らかな時代だったのかもしれませんが。
農耕のときに、作業しながら口ずさむような世俗歌だったか? という説もあるようです。
でも、日本書記には、通りかかった権力者が、道端にいた村娘を見初めて、妻にするというようなエピソードもあったので、そういうシンデレラ・ストーリーもあったのかもしれませんね。
若菜摘みは、歳時記では、春の七草を摘む新年の行事なのですが、旧正月にしても、まだ寒いような気がします。
個人的には、なんとなく、春分の日が過ぎて、少し暖かくなって来た早春の丘を想像しました。
まだ少し肌寒いけれど、晴れてのどかな午前中。菜摘みをする乙女たち。春の気配に誘われて、開放的になっているのでしょう。
緑一面の丘のあちこちに、色とりどりの衣装が見え隠れして、花が咲いたかのようなキラキラした景色が見えます。
天皇の目が届くところでの行事なら、娘たちはそれほど身分が低いわけではないのかもしれません。
昔の日本では、「名前を尋ねる」ことは、結婚の申し込みを意味します。
普通、親や夫以外で、女性の本名を呼ぶことはなく、「○○○の娘」「○○○の女」「○○○の母」など、保護者の役職名などで呼ばれました。
そのため、他人に本名を教えるということは、その人の庇護下に入るという意味になります。
「そらみつ 大和の国は」の「そらみつ」は、大和に掛かる係言葉。定型句のようなものです。
後半の歌、「大和の国は おしなべて 我れこそ居れ しきなべて 我れこそ居れ」の部分は、さすが最高権力者、自信満々に自分の存在を誇示しています。
これが実際にご本人が読んだ歌であれば、孔雀が羽を広げてアピールするような、鶴が求婚のダンスを踊るような、俺様一番と胸を張っている姿が想像できて、可愛らしさを感じてしまいます。
(記:2020-04-17)
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