第79話やけた鍵・大手拓次:なんとなく、わかったような、わからないような、でも好き
大手拓次の「やけた鍵」を読みました。詩集『藍色の蟇』の一篇です。
青空文庫で読めます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000190/card1029.html
底本は『世界の詩28大手拓次詩集』(一九六五年弥生書房・刊)
大手拓次は一九一二年(明治四五年)群馬県生まれの詩人です。
早稲田大学に在学中から詩作をはじめ、北原白秋主宰の雑誌「
ライオン歯磨き本舗(現ライオン株式会社)のサラリーマンを勤めながら詩人としても活動。生涯二千四百近くもの詩を残して、一九三四年(昭和九年)に結核で亡くなりました。
生前は詩集を発表することがなく、亡くなった後に『藍色の蟇』『蛇の花嫁』などが刊行されました。
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やけた鍵
大手 拓次
だまつてゐてくれ、
おまへにこんなことをお願ひするのは面目ないんだ。
この焼けてさびた鍵をそつともつてゆき、
うぐひす色のしなやかな
それからおまへの使ひなれた
べつに多分のねがひはない。
ね、さうやつてやけあとがきれいになほつたら、
またわたしの手へかへしてくれ、
それのもどるのを専念に待つてゐるのだから。
季節のすすむのがはやいので、
ついそのままにわすれてゐた。
としつきに
またつかひみちがわかるだらう。
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この詩人の詩は難しい。言葉が難しいのではなく、詩人の心をつかむのが難しいのです。
この詩だけでなく、詩集の他作品も通してですが、そのものズバリではなくて、核心を真綿に包むようにして、象徴的に表現しています。
この詩人とは比べようもありませんが、昔、私が書いていた詩も、ちょっとだけ感覚が似ているかなと思ったりもして、好きな詩です。
詩というのは、内容を細かく解釈する必要はなくて、「なんとなく、わかったような、わからないような、でも好き」という感覚を楽しんでも構わないと思います。
それで、この詩の「やけた鍵」の象徴しているものは何だろうということになるのですが、これは、読者が勝手に想像して楽しむところです。
私の想像では、やはり「俺の心」でしょうか。そして、焼けただれてさびついた心を磨いてくれるのは「おまへ」。
「おまへ」は、友人か、恋人か、子供、それとも愛するペットでも(笑) 誰でもいいのですが、私はなんとなく「友」であるような気がしました。
ただ、詩人本人は、あまり社交的ではなく、生涯独身で孤独の人だったようなのですけれど、でも、錆びた心を託せる人が、一人でもいたのなら、幸福だったのではないかと想像したりします。
(記:2018-12-26)
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