第52話黒い子猫・北原白秋:黒猫は見た!無邪気な子猫が暴いた秘密のできごと

北原白秋の「黒い子猫」を読みました。

『おもひで 抒情小曲集』(1911年東雲堂書店)に掲載されている一篇です。

青空文庫で読みました。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000106/card2415.html


北原白秋は一八八五年福岡県生まれの詩人、童謡作家、歌人です。

雑誌「明星」「スバル」などに作品を発表。鈴木三重吉の「赤い鳥」に参加して童謡を発表しました。「からたちの花」が有名です。一九四二年に亡くなっています。


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黒い子猫

       北原白秋


の百合の花

その花あかく、根はにがし。____

來て見れば

豌豆のつるみちに匍ひ、

黒い子猫の金茶の眼、

鬼百合の根にひる光る。

べんがら染か、血のいろか。

鹿子かのこまだらの花瓣はなびらは裂けてしづかに傾きぬ。

裂けてしづかに輝けるくりの花粉のまばゆさに、

夜の秘密を知るやとて

よその女のぢつと見しきその眼つきか、金茶の眼、

なにか凝視みつむる、金茶の眼。

黒い子猫の爪はまた

鋭く土をかきむしる

百合の疲れし球根のそのなまじろさ、薄苦さ、

掻きさがしつつ、戯れつ、

後退あとじさりしつつ、をののきつ、

なにかがせる、金茶の眼。

そつと堕胎おろしたあかんぼの蒼い頭か、金茶の眼、

ある日、あるとき、ある人が生埋いきうめにした私生兒みそかご

その兒さがすや、金茶の眼、

百合の根かたをよく見れば

りんめりてつきまとひ、

珠のあたまはらされて爪に掻かれて日に光る。

何か恐るる、金茶の眼。

の百合の花、

その花赤く、根はにがし。___

に來て見れば

なにがをかしき、きよときよとと、

こころれたるふところ手、半ば禿げたるわが叔父の

歩むともなき獨語ひとりごとひとり終日ひねもす畑をあちこち。


  註 ちゆうまえんだ。わが家の菜園の名なり。


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「ちゆうまえんだ」は、詩人の家の菜園の名だと言うことですが、どんな字を当てるのか、どんな意味なのかわかりませんでした。


 裏にスキャンダルが隠れていそうな不気味な詩です。

黒猫のイメージは、ホラーやミステリーによく合いますけれど、この詩では、無邪気な黒い子猫が、菜園の鬼百合の根元で、ある夜に起こった無残な事件を暴くのです。


「ある日、あるとき、ある人が」密かに菜園に埋めたもの。

誰が埋めたのかはわかりませんが、不義の子を堕ろした女であるようにイメージしました。使用人の女なのかもしれません。


 昼に咲く鬼百合のまだら模様の花びらは、悲惨な事件を暗示しているようにも見えます。

手についたら落ちにくい赤い花粉は血の色にも似て、その白い球根は、蒼い赤子の頭とも重なります。


 また、詩の中で百合の球根について何度も「苦し」と言っているのも、そのできごとについての詩人の感覚なのかなという気がします。


 詩人は原因を作ったらしい男の姿を目撃しています。「半ば禿げたる」ですから、さほど若くはないのでしょう、狂ったように懐に手を入れて、独り言をつぶやきながら菜園をふらふら歩く叔父の姿です。


結果どうなったのかはわかりませんが、なんとも、ミステリアスで怪奇幻想的な詩です。

(記:2016-10-15)

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