第5話おおきな木・長田弘:ただ、そこにあるだけ
長田弘の「おおきな木」を読みました。
自薦詩集『長田弘詩集』(ハルキ文庫)に収められている一篇です。初出は詩集『深呼吸の必要』(晶文社)。
長田弘氏の詩は、これまで読む機会がありませんでした。
実を言うと私は、小中学生の頃以降は、あまり詩は読んでいないのです。
かつての仕事上、市井の詩人の詩はたくさん読んではいるのですが、いわゆる有名詩人の詩集は、恥ずかしいほどに読んでいません。
この年になって、改めて詩を読むようになって新しく買ってみた詩集です。
まだ最初の数編しか読んでいませんが、気持ちの中にスーッと入ってくるような、波長の合う言葉たちです。
天をつくような大きな木を、私は実際に見たことがありません。
大きな木で、日立グループのCM「この木何の木気になる木」を思い出してしまいましたが、大きな木の懐に抱かれると、別世界が広がっているような気がします。
芽吹きの頃の大きな木の下が好きなのは「きみ」。きみが誰をさすのかわかりませんが、我が子か、妻か、家族が、おそらく詩人にとって大切な人であろうと想像します。
その「きみ」の姿は描かれてはいませんが、大きな木の下で、淡い葉の間にきらめく木漏れ日を、詩人と「きみ」と二人で見上げている光景が浮かぶような気がします。
続いて詩人の目は、大きな木の夏の姿を描き出します。
広く茂った枝葉が太陽の強い日差しを遮り影を作っています。一歩影の中に踏み込んで見上げれば、大きなものの中に包まれているような静寂な空間が広がっていて、別世界を感じさせられるのです。
そして冬、冷たく澄んだ空気の中、空をつかもうと枝を伸ばしている木。
風が枝の間を吹き抜けている木の下には何があるのだろうという詩人の問い。何もないのだという答え。
木の下で見上げる人の心はさまざまで、安らいだり、悲しみを癒やしたり、怒りをなだめたりします。
でも、大きな木はただ木そのものであり、春夏秋冬ずっとそこに在って沈黙しているだけなのです。
(記:2016-07-10)
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