私がお仕えするお嬢様がどう考えても雑魚すぎるんですけど!!!
神白ジュン
第1話 ほら、しっかりしてくださいお嬢様
「うえぇ…ぇぇぇ…どうして…お父様、お母様…」
本来であれば数年後、王位を継承するはずであった故郷は魔物の進軍により、全て焼け落ちた。
かろうじてメイドの
「ユズ……私これからどーしたらいいのぉ…」
お嬢様からはユズと親しみを込められて呼ばれているメイド、柚乃は夏凛以上に困り果てていた。
「はいはいお嬢様、そろそろ現実を見てくださいね、もうこうなった以上覚悟を決めて働いてもらいますから」
「いーやーだ〜」
「ここしばらくは私が依頼で稼いだお金でなんとかなっていますけど、この先どうなるか分かりませんからね?いつまでも私がそばに居られるとは限りませんよ?」
元はと言え一国の令嬢である。誰もを一目で魅了するような綺麗な金髪、母親である王女様の麗しい顔やスタイルをほぼそのまま受け継いだと言える美貌は、この時ばかりは見る影もなかった。子供のように駄々をこねるお嬢様を見かねて柚乃は、いつもよりも多少厳しめに返答した。
「…ユズも私から離れていっちゃうの…?」
涙目涙声でこちらを見ながらボソッと呟いた言葉には、かつての元気の良かった頃の面影はひとつも無かった。
「泣き顔でそんなこと言うのは反則ですよ…」
小さい頃からの馴染みであった彼女の不意に見せるどうしようも無い悲しみの顔に柚乃は非常に弱かった。
「働くにしても、どうしましょうか、何か…」
思案を巡らせる柚乃をよそに、夏凛は唐突に言い張った。
「私、冒険者になりたい!ユズみたいにかっこよく素早く敵をやっつけられるような!!」
夏凛の言葉に不意に驚いてしまい、一瞬赤面するも、平然を取り戻した柚乃は一言告げた。
「お嬢様、ろくに走れたり跳んだり運動出来ませんよね?」
実際ここ数日で夏凛に何をさせるか迷っていた柚乃は、様々な事を試していた。
とりあえず生活のために家事を覚えてもらうことにした。
しかし、想像を絶する不器用さに柚乃は1日でそれを諦めた。
料理のため火をつければ危うく爆発、掃除をさせようものなら逆に散らかし、そもそも衣類を身につけ髪を纏めるのですら一人で出来ないお嬢様にはハードルが高すぎるのであった。
「…とりあえず家事は私がしばらくはなんとかするしかないですね…」
開けた空き地を利用して、お嬢様がどれだけ動けるかテストもした。方法は単純で木製の模造剣を利用した簡単な立ち合い。
柚乃は普段の戦闘の約10%も出しているか否かの剣を何度か試すも、夏凛は動けない受けれない避けれないの三コンボであった。
「…小さい頃は、よくチャンバラごっこしてたはずなんですがね…」
せめておつかいくらい少しは出来てほしいものです…と思い、村の小規模な商店街に買い物を頼むことにした。夏凛がそのまま行くと必要以上に目立ってしまうため、ある程度質素な格好をさせ、メモとお金を渡し、見送ることにした。
柚乃は部屋の掃除をしていたものの、しばらく待てども一向に帰ってこない夏凛が気になり、結局自分も外へ出ることにした。
「流石に遅すぎますね…何か起きてないと良いんですが…」
即座に準備を整え、玄関からではなく2階の窓から簡易な風魔法を纏い素早く飛び出していくのであった。まるで暗殺者のごとく。
もちろん、それを偶然見てしまった町の人が腰を抜かしてしまったのは言うまでもない。
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