うどんそば自動販売機
「行くで」
「いざ秋田に上陸」
フェリーは定刻通りに秋田港に着いてくれて下船や。なるほど、バイク組は殆ど下りるみたいやな。このフェリーは苫小牧まで行くけど、苫小牧から北海道ツーリングする予定やったら敦賀からの直行便を使うもんな。
ボーディングブリッジを渡れば秋田や。てな感想も出にくい風景やな。だってやで、橋を渡り切ったところはガードレールで、その向こうに見えるのはコンテナだけ。こんなところに秋田らしさを求めるのは贅沢か。
「あれは仕方ないよ」
ユッキーはそう言うてくれるけど、コトリの確認ミスやった。五時に着岸やねんけど、船内のレストランが開いてへんねん。その代わりの何かがあるかと期待しとってんけど、なんもあらへんかった。つまり朝食がまだやねん。
そうなるとフェリーを下りてから朝食を食べられるところを探さなあかんねんけど、さすがに早すぎるねん。朝食サービスをやってるところでも七時ぐらいからやからな。待つにも長すぎる。
「ラーメンとか牛丼、マクドはあるみたいだけど」
後はコンビニや。ラーメンも美味そうやけど朝からラーメンの気分になれへん。牛丼やマクドも悪ないけど、
「出来たら秋田で最初の食事で避けたいよね」
気のもんやけど、ちょっとぐらいは名物にしたいのが人情やんか。秋田だけやのうて東北言うたら美味いもんの宝庫みたいなもんのはずや。それが今回のツーリングの楽しみの一つやからな。
それとやけど今日は男鹿半島をまず目指すんやが、朝食を考えるんやったら、フェリーターミナルの近くで考えなあかんみたいや。ここは言うても秋田市内やけど、男鹿半島に行ってもたらなんもあらへんで良さそうやねん。
「とりあえず、あれ行ってみようよ」
フェリーターミナルからほんの少し南に行ったところにセリオンつうとこがあるねん。ショッピング・センターみたいなとこでもあるし、タワーもあるから秋田の観光拠点かもしれへん。
「道の駅秋田港でもあるよ」
もちろんまだ開館時間には早すぎるんやけど、気になる物を見つけたんよ。どうも秋田では名物的なものみたいで、マップにもちゃんと載ってるんやけど、
『家原商店のうどんそば自動販売機』
そんなもんまだ残っとったかんと思うて感心した。あれは昭和の産物やもんな。つうか、昔と同じもんやろか。もちろん利用したことはあるけど、ユッキーも興味引きまくりやってん。セリオンは近いちゅうより、ほとんどお隣さんやからまず行ってみたんやが、
「あちゃ、屋内みたいや」
「もう、自動販売機なんだから二十四時間使えてナンボじゃないの」
開館は七時になっとるからそこまで待てんか。そうなると、あそこにチャレンジするか、コンビニでお茶を濁すかになるが、
「チャレンジすべき!」
うんどんそば自動販売機を見つけてから、頭の中がそうなっとるのはユッキーも同じやな。実はもう一か所うどんそば自動販売機を見つけたんよ。謳い文句がなかなかで、
『日本最北のうどんそば自動販売機』
秋田で最北言うことは青森にはあらへんねんやろ。それもそんなに遠ないねん。三十分もあったら着くはずや。そやけど、故障しとったら終わりや。
「終わりじゃないよ。十時ぐらいまで我慢するか、コンビニに引き返す手はあるじゃない」
そこまで腹括るんやったらチャレンジや。まずは海岸線の道を北上や。さすがにガラガラで捗るわ。シーサイドロードになるけどちょっと愛想ないな。フェリーターミナルもそうやけど埋め立て地帯やからしょうがあらへんよな。
山が近づいて来とるけど、あれが男鹿半島やろ。それやったら、どこかで左に入るはずやけど・・・あれやな、道の駅おがって書いてあるもんな。
「次の信号左や」
「らじゃ」
へぇ、四車線やんか。昼間は混むんやろか。消防署や警察署もあるさかい、男鹿市の中心部やねんやろな。ここが道の駅か。まだ閉まってるわ、当たり前か。なんとなく市街地抜けたから、さてそろそろのはずやねんけど、あっ、
「ちょっとストップ。あれや」
見過ごすとこやった。男鹿水産ってなっとるからあそこのはずや。カニの直売所もやってるみたいやけど薄汚れた白やから目立たんな。これだって開店したら雰囲気変わるのやろうけど、お目当ての自動販売機は動いてるみたいや。
「昔のまんまね」
ホンマや。動くてるのがウソみたいやんか。メニューは天ぷらそばと天ぷらうどんやな。
「二百五十円なのが泣かせるね」
待つことしばし言うても三十秒もしないうちに出来上がり。カップラーメンより早いやんか。へぇ、ちゃんとかき揚げ乗ってるし、
「はい、七味と割りばし」
熱いのが空きっ腹に染み渡るで。食べてるとこは愛想もクソもあらへんけど、日本最北のうどんそば自動販売機で食うてると思たら、一味も二味も違う気がするわ。もう一杯食べたろ。
「美味しかったけど稲庭うどんなのかな」
秋田言うたら稲庭うどんやけど、たしか乾麺が基本で、半生麺もあるとは聞いたことがある。そやけどこんなに早く茹で上がるんやったら、茹で麺やろ。それにさすがに二百五十円はないと思うで。
「はい、食後の缶コーヒー」
いかにもバイク乗りっぽくてエエな。今日の予定で難儀なんは、とにかくスタート時刻が早い事や。早くに出発したら、それだけ走れる範囲は広なるんやけど、早すぎると店が開いとらん。朝飯一つで往生するぐらいやねん。
「わたしたちは関係ないけど秋田市内観光にも早すぎるものね」
秋田港に下りたら秋田市内観光は思いつくけど、観光地が開くまで待ちぼうけになるからな。一緒に下りたバイク組もその辺を考えてツーリング・コース組んどるはずや。
「帰りの時に寄るかどうかだよね」
秋田からもフェリーで帰る予定やったら、乗船時刻は朝の八時半やねん。そやから秋田市内観光したいんやったらその前日しかあらへん事になる。ツーリングでも使いやすいとは言えんフェリーや。
「あるだけ感謝よ」
それはそうや。無かったらバイクどころか、クルマで来るのも無理あるからな。おもろいもん食べさせてもうたから、そろそろ行こか。
「今日の最初のメインの男鹿半島だよね」
「ああ、ここは見どころが多いからな」
「歴女の血が騒ぐよね」
そりゃ騒ぐで。
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