第十五幕 28 『姉妹の再会』


ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー



 地上でエルネラとの戦いが決着した頃と時を同じくして、天空における神と竜たちの戦いも終わりを迎えようとしていた。



『グルゥアアァァーーーーッッ!!!!』


 黒魔神竜ボラスが咆哮とともに雷撃をまき散らす!


 無数の光の大蛇がのた打ち回りながら、ディザールを背に乗せたゼアルへと殺到するが……



「ふんっ!!!」



 ディザールが剣を一閃させると、雷撃を尽く打ち払い散逸させてしまう。


 そしてゼアルは黒竜へと肉薄し……



『グォーーーーッッ!!!!』



 強烈な炎のブレスを至近距離から撃ち放つ!!


 極限まで圧縮されたそれは、灼熱の光線となってボラスに襲いかかった!!



 ドゴォーーーーーンンッッッ!!!!



 回避行動も間に合わず、ボラスの胴体に直撃!!


 黒竜に大きなダメージを与えるが、強力な再生能力によってたちまちのうちに傷が癒え始める。


 しかし……!!



『ディザール!!!』


「任せろ!!!」



 直前にゼアルの背中から跳躍したディザールが、高々と剣を振り上げて……!



「ぜりゃあーーーーーーっっっ!!!!」



 裂帛の気合で振り下ろす!!!!




 ザシュッッ!!!!




 ディザールの剣は、ボラスの首を一刀のもとに切り落とした!!!





 これまで幾度となくダメージを負っては再生を繰り返してきた黒魔神竜であったが……

 もはや切り落とされた首を再生するほどの力は残されておらず、次の瞬間には崩壊を始めた。



 その首と残された巨体はみるみるうちに黒い灰となって崩れ落ち、地面に降り注ぐ前に風に吹き散らされて跡形もなく消えてしまった。




















 激闘を終えてから、未だに目を覚まさないエルネラを抱きかかえ天空の戦いを見上げていたエフィメラと、連合軍の仲間たち。

 そして、エメリールとエメリナの姉妹神。



 一際大きな爆発音が響いたあと……黒魔神竜が脆くも崩れ去るのが遠目にも確認できた。



 そして上がるのは勝鬨の声。



 グラナ軍の魔物は尽く斃され、あるいは潰走し、最後まで生き残って戦いを続けていた人間の兵たちも、今となっては既に戦意を喪失。



 そしてそれは、デルフィア、レーヴェラント、シャスラハの各戦線でも同じような状況であった。





 今この時をもって、グラナのカルヴァード侵攻に端を発した大戦……後世の歴史家たちが『神威戦争』や『再臨戦争』などと名付けた大戦が幕を下ろすのであった。





















「終わりました……ね」


 連合軍の将の一人として指揮に当たっていたリュシアンは、長かった戦いの終結に、ほっ……と息をつく。



「最後はどうなるかと思いましたね〜」


「全くだ。神々が来てくださらなければ、果たしてどうなっていた事か……」


 リュシアンの呟きに、ケイトリンが応え、オズマが同意する。



「確かに、神々の力無くしては今回の勝利は無かったかもしれませんが……私達も力を合わせたからこそ、ですよ。胸を張ってイスパルに凱旋しましょう」


「「はい!!」」
















「……う、うぅ……」


「!!エルネラ!!」



 エフィメラの腕の中でうめき声を上げながら身動ぎするエルネラ。


 そして、暫くすると薄っすらとまぶたを開く。

 その瞳は黄金ではなく、透き通るような青だった。



「エルネラ!!……目を覚ましたのね?大丈夫?私の事、分かる?」


「……お姉様?」


 まだ夢現の様子のエルネラであったが、はっきりと姉の名前を呼ぶ。



「そうよ!!あぁ……良かった……」


「お姉様……。私は、いったいどうして…………!!」


 記憶を探るように視線を彷徨わせていたエルネラであったが、気を失う前のことを思い出したのか、目を見開いて姉の腕の中から、バッ!と飛び起きる。



「あぁ……お姉様……私は、何てことを……」


「エルネラ……まさか、魔族だった時の事を覚えているの?」



 彼女の様子を見れば、それはそうなのだろう。



 再び人間としての意識を取り戻した彼女であったが、魔族であった時の行動を思い出して、後悔の念が押し寄せる。



「ごめんなさい、お姉様……ごめんなさい、ごめんなさい……」


 頭を抱えてうずくまり、何度も謝罪の言葉を繰り返すエルネラ。

 涙がとめどなく溢れて地面に落ちる。



「エルネラ、落ち着いて……あなたのせいではないわ。それに、あなたは誰も傷つけていない」



 実際、戦いの中で怪我を負った者はいるが、それも既にエメリナが完璧に治療を施している。

 敢えてそれを言う者はいないだろう。



 そうして、暫くエフィメラは妹を宥め落ち着かせて、ようやく話ができるようになった。






「……ごめんなさい、エフィお姉様……取り乱したりして」


「大丈夫よ。……久しぶりね、エル。大きくなって……見違えたわ」


 幼い頃の愛称で呼び合う二人。

 ようやく彼女たちは、姉妹として再会を果たしたのだった。


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