第十五幕 27 『回帰』


ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー



 ブレイグ将軍の渾身の一撃が道を切り拓く。


 それにより、魔族エルネラが使役する十二体の式神の護りを突破しエフィメラが単身突っ込んでいく。



「エルネラ!!」


「あはっ!!お姉様……私のところに来てくださったんですね!!」



 両手にいくつもの呪符を持ち、魔力を込めながら決死の覚悟で妹に肉薄する姉。


 それとは対象的に、喜々として迎え入れるエルネラ。

 だが、姉と同じように呪符を手にして完全に迎撃態勢である。



「行きなさいっ!![符術・式紙嵐斬刃]!!」


 一つ一つが鋭い刃と化した無数の紙片がエルネラを取り囲んで襲いかかる!!



「その程度ですか!!舞い踊れ!![符術・裏金剛結界]!!」


 対するエルネラも、無数の呪符による結界を周囲に巡らせ、紙片の刃を尽く迎撃する!!




「集え!!」


「集え!!」



 エフィメラが紙片刃を集束させて巨大な剣を振るえば、エルネラも紙片盾を集束させてそれを受けとめる。


 防がれたと見るやいなや、再び紙片刃を散開させて、高速でエルネラの周りに展開するも、紙片盾もそれに追従して先程と同じ展開となる。






 そして、暫く攻防が繰り返されるが……二人の力は拮抗し、戦いは膠着状態となった。



 だが……



(あと……もう少し!!)



 その実、エフィメラは着々と準備を進めていた。


 起死回生の一手を打つために、エルネラに気取られないように、慎重に。




 そして、それが実を結ぶ時がついにやって来た!!



(これで終わりにするわよ!!エルネラ!!)


「奥義!![符術・陰陽鬼退封神炎舞]!!」


「!?」



 エフィメラが素早く手で印を組むと、エルネラの周囲に展開していた紙片の一部が、黄金の激しい炎を噴き上げる!!



「これは……!!?ぐぅっ!?」



 炎は一定間隔でエルネラを中心とした円を描き、さらに複雑な陣を形作った。

 そして、囚われたエルネラは苦悶の声を上げる。



 実は……エフィメラは紙片の刃の攻撃に紛れさせて、この奥義のために少しずつ定められた位置に呪符を配置していたのだ。


 驚愕しているところを見ると、エルネラはどうやら符術の奥義までは習得していないようだった。



「これは退魔の炎……魔族であるあなたには、効果覿面でしょう……さあ、仕上げです!!」


 エフィメラが更に印を組み替えると、炎はより一層激しさをまして、円陣の内側が埋め尽くされる!!



「くぁーーーーっっ!!!??」



(ごめんなさい、エルネラ……!!でも、もう少しの辛抱よ!!)



 ある程度のダメージを与えられれば……後は、姉妹神が何とかしてくれる。


 そう……約束していた。













 やがて黄金の炎が消えたとき、エルネラは相当なダメージを負ったらしく、がっくりと膝をついていた。



「エルネラ!!」


「うぅ……まさか、魔族である私が……お姉様……」


「エメリール様!!エメリナ様!!どうかエルネラを……!!」



 エフィメラは天を見上げて懇願する。


 そして、姉妹神はそれに応えた。




「ええ。あなたの妹は、必ず助けます」


「任せて!!」



 エメリールとエメリナが光の翼を羽ばたかせると、まるで雪のように静かに光の雫が地上に降り始める。



「さぁ……未だその身に眠るエルネラの真なる魂よ……目覚めなさい」


「望まぬ変容を強いられし者の生命よ……かつての姿を取り戻しなさい」



 降り注ぐ光の雫が、傷つき項垂れるエルネラの身体に吸い込まれていく……


 すると、彼女の身体から黒い霧が噴き出し始めた。



「よし!なんとかなりそうだわ!」


「まだよ……最後まで油断しないで、リナ」



 黒い霧が溢れ出しては空気に溶けて消えていく。

 そして、白銀だったエルネラの髪が、少しずつ色づき始める。



 しかし。



「……あれ?これって……」


「……不味いわ。魂と肉体は元に戻りつつあるけど……精神が……」

 

 そう言って二人の表情が曇る。

 どうやら彼女たちにとって不測の事態らしい。



 上空の姉妹神がそのような会話をしているとは知らないエフィメラは、祈るような表情で成り行きを見守っている。

 エルネラが戦闘不能となったことで戦闘終結となった連合軍の兵たちも、固唾をのんでいた。










「どどどどうしよう……お姉ちゃん!!」


「落ち着きなさいリナ。今は出来ることをやるのよ。大丈夫……もう少しで……」



 と、エメリールが言いかけたところで、もう一人の女神がやって来た。



「待たせたな!!リル、リナ!!」


「あ!!リリアお姉ちゃん!!」


「姉さん、助かったわ。念のため呼んでおいて正解だったわね」


 エメリールはこんな事もあろうかと、デルフィアに向かっていたエメリリアに連絡をとっておいたのだった。

 幸いにもデルフィアの戦闘はほぼ終結していて、こちらに来るのは問題なかったのだ。


 普段、皆からうっかり者と言われるエメリールだが、この時ばかりはファインプレーであった。



 そして、精神・魂・生命を司る三女神が揃って力を合わせることで、ついに……















「エルネラっ!!」


 崩れ落ちる妹を姉が支える。


 エルネラの髪は、姉と同じ青銀へと変わっていた。

 今は閉じられている瞳も、金から青へと変わっているかもしれない。


 そして、エフィメラの腕に抱かれたエルネラの体温と鼓動が、確かに彼女が生きている事を証明していた。


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