第十五幕 25 『天上決戦/決意』
ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー
黒魔神竜ボラスとの戦いは、炎竜王ゼアルの加勢によってますます激しさを増した。
強者たちが激突するたびに、その轟音が大地をも揺るがす。
二竜の灼熱のブレスの激突が大気を不安定にして嵐を呼ぶ。
そしていつしか戦場の空には……暗雲がたちこめ、比喩ではなく稲光が閃き雷鳴が轟き始めた。
それは世界の終わりを連想させ、人々を絶望の淵に落とす光景にも思えたが、人知を超えた戦いは荘厳である種の感動すら覚えるものだった。
「うわ〜……。もう怪獣大決戦だよ、アレ」
はるか上空の決戦を見たエメリナは、思わずそんな感想を漏らす。
同じ神であってもディザールと異なり直接戦闘力に優れる訳では無い彼女は、あの戦いに関してはもはや自分の出る幕は無いと感じていた。
「もう私達が手を出す余地は無いわね。ディザールとゼアルなら任せても大丈夫でしょう。それよりもリナ、私達は……」
「分かってるよ、お姉ちゃん。あの魔族の娘……エルネラって言ったっけ?かなり力はありそうだったけど……まだ魔族になったばかりみたいだから、私とお姉ちゃんの力なら……」
「ええ。リシィたちのような悲劇を繰り返してはダメ。さぁ、行きましょう!」
「うん!」
エメリールは決然とした表情で言い、エメリナも力強く頷いた。
そして、姉妹神はもう一つの戦地へと向う。
かつての悲劇を繰り返さないように……自らの力で救いをもたらすために。
「さあ!!式神たちよ!!存分に敵を蹂躙なさい!![符術・裏十二神将]!!」
魔族エルネラが無数の紙片をばら撒くと、それは規則正しく宙を舞い……十二体の戦士、『式神』を形作る。
どうやら彼女は、姉と同じく東方の魔導術式である『符術』を修めているようだ。
仮初めの命を与えられた式神はエルネラの周囲に散開し、取り囲んでいた連合軍に襲いかかった!!
「むぅ!?」
「なんだコイツら!?紙っぺらのくせして強えぞ!!」
前衛で切り結んだガエルとフリードが驚愕の声を上げる。
フリードが言う通り、式神の見た目は単に紙片が集まって人型を取っているだけの様に見えるのだが……
彼ら程の実力者達が防戦一方なところからすれば、相当な力を持った戦士であるのは間違いないだろう。
「退けっ!!小僧共!!」
苦戦する若い戦士達に後退を命じ、自ら前衛に躍り出るのはブレイグ将軍。
「でりゃあーーーーっっ!!!!」
裂帛の気合で大剣が横薙ぎに振るわれ、複数の式神を叩き散らす!!
だが……!
「元に戻るのかっ!!?」
爆散したと思われた紙片が再び集まって、元の人型に戻り、何事もなかったかのよう戦いを再開する。
「無駄です!!私が術を解かない限り、例え千々に引き裂いても戦いの手を止めることはありません!!」
「ならば……[炎龍]!!」
物理攻撃は効かないと見たユーグが、火炎系上級魔法を放つ!
元が紙なら燃やしてしまえば良い……という考えだ。
しかし……!
「ふふ、させませんよ。[水龍]!!」
エルネラが対抗して水系上級魔法を放つ。
炎と水の龍がぶつかり、絡み合って……そして瞬く間に対消滅してしまった。
「符術だけでなくカルヴァードの術式も使えるの!?」
妹の実力に思わず驚きの声を上げるエフィメラ。
それも無理はない。
異なる系統の術式を修めるなど、並大抵のことでは成し遂げることはできないのだから。
それが、まだ幼いとすら言えるエルネラであれば尚更だ。
「姫様!!迷っている場合ではありません!!戦わねば……こちらがやられてしまいますぞ!!」
「どうしたのです!!お姉様!!そんなことでは私は倒せませんわよ!!」
「う……」
ブレイグ将軍と、当のエルネラからも叱咤されるエフィメラだが……そこまで言われたにも関わらず迷いは未だ晴れない。
それほどまでに、彼女の家族に対する愛情は深いものなのだろうか。
そうしている間にも、エルネラと式神たちとの戦いが目の前で繰り広げられ、何とかしなければという焦りばかりが空回りして一歩を踏み出せない。
だが、その時。
(エフィメラ、戦いなさい。大丈夫……あなたの妹は、私達が必ず助けるわ)
(そうよ!でも、私達が何とかするためには、あなたが頑張ってくれないと!)
エフィメラの頭の中に直接声が届く。
彼女も聞き覚えがあるその声は……
(エメリール様にエメリナ様!?で、でも……)
(大丈夫よ!魔族は早々死んだりしないから!思い切りやっちゃいなさい!姉妹喧嘩したって、仲直りできるわ!)
(私達を信じて……あなたに、リシィと同じ思いをさせたりはしない)
姉妹神の言葉の中に決意の色を感じたエフィメラは、自らも決意を固める。
(わかりました……!どうか……どうか私達をお救いください!!)
今度こそ立ち上がったエフィメラの目には、もう迷いは見られなかった。
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