第十五幕 24 『神話の闘い』


ーー ウィラー王国 対グラナ戦線 ーー




 ガァーーーーーンッッッッ!!!



 ズガァーーーーーーンンンンッッッッ!!!



 ………




 雷鳴のような轟音が響き渡る。

 武神ディザールと、黒魔神竜の闘いが発するものだ。

 それは人間が手を出せる領域を遥かに超えていた。


 闘いの余波が及ばないように退避した連合軍兵の多くは、ただ呆然とそれを眺めるのみ。

 真に神話の光景の再現に、ただ圧倒されるだけだった。







「お姉ちゃん……どう?」


「見たところ互角ね。……いえ、ディザールの方が少し劣勢かもしれないわ」


 どうにか全軍の退避が終わり、結界を張る必要がなくなった姉妹神は、遠目に闘いを見守っていた。


 そして、エメリールのその見立てが正しいのであれば……


「じゃあ、私達も加勢したほうが良いんじゃない?」


「いえ、私達は直接戦闘力に優れるわけではないから、あのレベルだとかえってディザールの足を引っ張りかねないわ。それに……」



 エメリールとて加勢できるものならそうしたいところだが、今しがた彼女が言った通り足手まといになりかねない。

 そして、相手は黒魔神竜だけではないのだ。


 エメリールは、出来れば黒魔神竜はディザールに対処してもらい、もう一人の敵との戦いに注力したいと考えていたのだが……

 エメリナにはああ言ったものの、予断を許さない状況に判断を決めかねているのだった。



(せめて誰かもう一人いてくれたら、この場は任せられたのだけど……念話を飛ばして支援を要請しても、今からじゃ遅すぎるわ)



 徐々に焦りが募り始める。

 最善でなくとも、早急に判断を下さなければ……エメリールがそう思ったときだった。

 彼女にとって思いがけない救いの神が現れる。



 それに気が付いた者たちが一斉に声を上げた。




「何だ、あれは!?」


「まさか…………」


「馬鹿なっ!!またドラゴンだとっ!!?」



 彼らが見上げる西の空より飛来するのは、黒魔神竜にも劣らぬほどに巨大な体躯を持つドラゴン

 全身を覆う鱗は紅玉ルビーの様に煌めく深紅色。



 その姿を見た連合軍兵は絶望の表情となるが、姉妹神の反応はそれとは真逆のものだった。



「あれって……ゼアルじゃない!?」


「そうよ!!炎竜王が目覚めたのね!!これなら……!」



 炎竜王ゼアル。


 かつて、地脈の守護者ウパルパは彼のことを『若造』などと言っていたが……

 カルヴァード大陸の最高峰にして最大の地脈の要所たるスオージ山に居を構える古龍は、地脈の守護者の中でも最強の力を持つ。

 それは武神ディザールともほぼ互角のもの。


 そんな炎竜王が加勢してくれるのであれば、黒魔神竜との戦いは俄然有利となるのは間違いないだろう。



 そしてゼアルは、ディザールと黒魔神竜の激しい戦いの中に割って入っていった。








『ディザールよ、久方ぶりだな。どうやら苦戦している様子。我も力を貸そうぞ』


「ゼアル!!手出しは無用だ!!これは俺の闘いだぞっ!!!」


 ゼアルの申し出をディザールは怒りの表情で却下する。

 完全に闘いにのめり込んでいる彼は、すっかり冷静さを欠いているように見えた。

 その剣幕には、並大抵の者は抗えないだろう。


 だが、それで引き下がるゼアルではない。



『たわけが!!落ち着かんか愚か者!!この戦いは、お前だけのものではないだろう!!……カティアと約束したのではないのか?人々を護るために力を尽くすと』


 ゼアルは武神にも負けない怒号をもって彼を諫める。


 すると、ディザールの目に理性の光が戻って来る。



「…………ふぅ〜。その通りだ。どうやら我を忘れていたらしい。全く、情けないことだ。すまなかったな、ゼアルよ」


『はははっ!!そのようなところ、変わってないようで安心したぞ!!』



 一先ずディザールを落ち着かせたところで、ゼアルは黒魔神竜に視線を向ける。


 ゼアルの登場によって警戒を最大に高め、一時攻撃の手を止めて様子を見ていた黒竜だったが……



『……東大陸最強の守護者が、随分と哀れな姿になったものだな、黒竜王ボラスよ』


『俺を憐れむなど、随分と偉くなったものだな……若造が!!』


『なんだ、まだ言葉を解する知能は残ってるのか。てっきり獣に成り果てたと思ったぞ』


『貴様っ!!我を愚弄するか!!忌々しい偽神もろとも滅ぼしてくれよう!!』



 ゼアルの煽り文句に激昂した黒魔神竜……ボラスは、再び苛烈な攻撃を始める。


 それを迎え撃つのは……人々の守護者である神と、地脈の守護者である古龍。




 神話で語られるような壮絶な闘いは、いよいよ激しさを増すことになるのだった。


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