第十三幕 60 『救援者』
くっ……これはマズい状況だ。
薬師が密かにばら撒いた痺れ薬は、確実に私達の動きを鈍らせていた。
その一方で、薬師は当然として、グラナ軍も薬の影響を受けていないように見える。
このままでは、いずれ一方的な展開になってしまう……
「ひょひょ。さぁて……どこまで抗えるかのぉ?」
こいつ……楽しんでる!
じわじわと嬲り殺しにするつもりか!?
「カティアは[解毒]は……」
テオが聞いてくるけど……
「ゴメン!使えない!」
私は[解毒]使えないんだよ。
「メリエルは使えただろう!?」
ジークリンデ王女が叫ぶ。
確かにメリエルちゃんなら使えたはずだけど……
『ダメ!!精霊樹を通じて魔法を使うのは無理みたい!!もう少し私が力に慣れれば出来るかもだけど……』
と言う事らしい。
そもそも私もメリエルちゃんも、使えるならとっくに使ってる。
いまメリエルちゃんの支援が途絶えたら……一気に戦局が崩壊しかねないから、こっちに来てもらうことも出来ないし。
ステラだけでカバーするのは流石に無理だろうし……
そうこうしているうちに、着実に毒素が身体を蝕んでいく。
少し息苦しくさえなってきた。
前衛の皆も薬師の攻撃を避けるので精一杯。
一体、どうすれば……
いや、こうなったら……!!
私は最後の切り札を使おうとするが……
「ひょひょひょ。もうそろそろ限界のようじゃな。森も騒がしくなってきおった。そろそろ一斉に押し寄せてくるころじゃろ。その前に、お前たちはせめて最後は一息に……一瞬で死ねる毒薬で葬ってやろう!」
そう言うと、薬師の手の瘴気はその濃度を更に増し……粘り付く黒い液体のようになる。
さっきまでだって十分ヤバそうだったのに、あんなの食らったら……!!
宣言通り薬師は防戦主体から積極的な攻めに転じる!!
「くっ!?」
「テオっ!?」
「テオフィルス殿!!」
マズい!!
鈍った動きでは、薬師の本気の攻撃は捌ききれないよ!
「ひょっ!もらったわ!!」
猛毒の瘴気を纏った薬師の掌打が、体勢を崩したテオの身体に……!!
カッ!!
その時、テオと薬師の間に閃光が炸裂する!!
「!?」
「な、なんじゃっ!?」
弾けた光とともに、冷たい飛沫と清涼な香りが一面に広がる。
すると、まるで鉛のように重かった身体が……すぅーっと楽になっていくではないか!
「ふぅ……どうにか間に合ったわね。待たせてごめんなさい」
この声は……!!
「メリアさん!!」
声の元を辿ると、そこにはいつの間にか現れたメリアさんが。
足元には薬師に操られていたはずの神狼の子供がじゃれ付いている……
そして、森都に到着してから姿が見えなくなっていたロビィもいる。
もしかして彼女をここまで連れてきてくれた……?
「この方が……」
「ウィラー初代女王……」
「メリアドール様?」
『私のご先祖様?』
突然の救援者に、テオ達から驚きの声が漏れる。
薬師も含めて、思わず戦闘を忘れて立ち尽くしている。
「ひょ……何者じゃ?」
「あらあら……随分と風変わりなお客様のようね。まぁ、招かざる……だけど」
そう言いながらメリアさんは、薬師の元へと歩み寄る。
危険な相手に対してとは思えない、気負いのない足取りだ。
「……何者でも関係ないわ。たかが人間ひとり増えたところでの。ホレッ!!」
近付いてきたメリアさんに向かって、毒瘴気の掌打が叩き込まれる!!
ガシッ!!
それをメリアさんは右手で掴んで受け止める!!
だ、大丈夫なのっ!?
「ベラドンナ、樒、夾竹桃、鈴蘭……おぉ、これはマンチニール?ヤドクガエルにフグ……魔物の毒もたっぷり。節操ないわねぇ……」
「ひょっ!?馬鹿な!!人間がこれを食らって無事でいられるはずは……!」
「私、人間じゃないもの。まぁ、人間の時も毒は効きづらかったけど、流石にこんなの食らったら無事ではいられなかったわね」
今のメリアさんの身体は
精霊に近い存在には毒は効かないってことか。
いや、焦ったよ。
「さて。私も薬や毒には詳しい方なのよ。……ここからは私も相手させてもらうわよ!」
頼もしい救援者……メリアさんを加えて、いよいよこの戦いも佳境を迎える!!
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