第十三幕 29 『風雲急を告げる』
ーーーー 森都モリ=ノーイエ ーーーー
「ふぅ……今日はここまでかしらね。ん〜……」
昼の休憩を挟んでから再び書類仕事に集中していたメリエナだったが、何とか日が落ちる前には全ての決裁を終えることができた。
凝り固まった身体を解すように大きく伸びをする。
「お疲れ様でした、メリエナ様」
王女付きの側近が、主人を労る言葉をかけながらティーセットの用意を始めた。
それは毎日繰り返されてきた光景だった。
しかし、今日はどうにも様子が異なる……そう思ったのは、仕事終わりのティータイムを楽しんでいる時のこと。
清涼感のあるお茶の香りで心を癒やしていると、城内に慌ただしい空気が漂っているのを感じるのであった。
「……?何だか騒がしくない?」
「本当ですね……何かあったのでしょうか?」
その疑問は直ぐに解決することになる。
程なくして、執務室の扉がけたたましくノックされたのだ。
普段はあり得ない事態に、思わずメリエナと側近は顔を見合わせる。
「何事ですか!!無礼ですよ!!」
そのように叱責しながらも側近が扉を開けると、そこには近衛騎士らしき人物が、やはり慌てた様子で挨拶もそこそこにメリエナに声をかける。
「メリエナ様!!た、大変です!!」
「どうしたのです?落ち着いて話しなさい」
メリエナは、近衛の様子に何かただらならぬ事が起きたのだと思いながらも、冷静に彼に対して落ち着いて話すように促した。
「はっ!申し訳ありません!……実は外回りの騎士から報告が……。森の魔物が突然凶暴化して森都に向かっていると……!」
「なんですって!?……まさか、レーヴェラントと同じようなことが……?でも、このウィラーの森は……」
「それだけではありません。魔物は明らかに統制の取れた動きを見せ……更には武装した人間が誘導していると言う目撃情報も入っております!」
「!!」
ウィラー王国は……アルマ地方を除いた建国以来の版図においては、大部分が『ウィラー大森林』と呼ばれる森林地帯で占められている。
その中で人が暮らすのは、森を開拓して築かれた森都を始めとする大小の都市や、一部の少数部族の村落。
そして都市間には街道が整備され人の往来も多くあるが……それらを含めても、国土全体からみればほんの僅かな領域に過ぎない。
かつて魔境とも言われたウィラー大森林は、今もなおその殆どが人跡未踏の地であり、当然ながら多くの魔物が生息しているのだ。
しかし、建国の女王メリアドールは建国にあたって、人が暮らす領域と魔物が支配する領域を明確に分けて、お互いが衝突しないように様々な施策を講じた。
その施策の一つが、森の魔物を統べる神狼との契約。
ウィラー大森林に生息する魔物の中でも、最上位に位置するような強大な力を持つ神狼の一族が、他の魔物がいたずらに人間の領域に入り込まないように統制しているのだ。
それはウィラーの国民にも守護神として崇められ、王家の紋章にも使われている。
「神狼の一族が魔物を抑えきれない……?それに、誘導する人間…………まさかっ!?」
報告された事象から答えを導き出したらしいメリエナ。
驚愕で目を見開きながら、震える声で呟きを漏らす。
「まさか……まさか……魔王の魔物たちが?」
「「!!?」」
統制の取れた魔物の軍勢……それが人間の兵と足並みを揃えて進軍するというのは、伝説で語られる魔王の異能の力を想起させるものだった。
「くっ……!かつての大戦では、ウィラー大森林の魔物は最後まで魔王に支配される事は無かったと言われてるけど……このままでは、ウィラーを足がかりにしてカルヴァード中にグラナの進軍を許してしまうわ!!」
もはや事態は一刻の猶予もないと判断し、エメリナは急ぎ対処すべく父王の元へと向かう。
こうして、ウィラーを舞台とする新たな戦いの幕開けの時が訪れ……メリエナは
だが……この翌日にはメリエナの
果たして、これから彼女の身に何が起きるのか?
今、ウィラーで何が起きているのか?
この時のカティア達には、まだ知る術も無かった。
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