第十三幕 28 『ウィラーにて』


 現実世界に戻ってきた私とメリエルちゃん。

 急ぎ王城に戻るため神殿を出ようとした時……



「カティア!」


「メリエルさま!!」



 テオと……ウィラー代表の一人として会議に参加していた軍務卿ギルバート=ブランタ伯だ。


 テオには劇場を出る前に伝言を頼んでおいたのだけど、ブランタ伯の方は多分ジークリンデ王女から伝わったのだろう。

 かなり速い伝達スピードに驚く。



「ギルおじさん!」


シギルを継承されたと言うのは真ですか!?」


「……うん、間違いないよ。今エメリナ様にもお会いして……お姉ちゃんの身に何かがあったのは確かだろうって。でも、まだ希望もあるって!」


「むぅ……」


 情報を聞いた時点では半信半疑だったのかもしれないが、流石に当の本人から聞かされては納得せざるを得ない……と言ったところだろう。



「カティア、エメリール様やエメリナ様は何と?ウィラーの情勢は?」


「残念だけど、リル姉さん達でも見通せないって。前にアクサレナに張られた結界のようなものがウィラー大森林を覆ってるみたい。アルマ地方や周辺国には大きな動きは見られなかったらしいから……何れは異変を察知して何かしらの情報が上がってくるとは思うけど、今はまだ何も分からない。メリエルちゃんがシギルを顕現させなかったら、何かがあった事すら……」


「……そうか。だが、黒神教が暗躍してるのは間違い無いだろうな」


「だろうね。他に考えられない。それでね、リナ姉さんにウィラーに行ってくれって頼まれた。先ずは情報収集は必要だけど、急いで行かないと……」


「私も行くよ!!」


「メリエル様、危険ですぞ!今貴方様まで失うわけには……」


 ブランタ伯はメリエルちゃんを引き留めようとする。

 彼の立場からすれば当然の事だろう。

 だけど……



「まだお姉ちゃんが死んだわけじゃないよ!!それに、エメリナ様にも認めてもらった。私には初代女王メリア様と同じ力があるって!」


「メリアドール様の……?」


 ちら、と問いかけるような視線をこちらに向けてきたので、私は頷きながらそれに答える。


「本当です。メリアドール様が持っていたユニークスキル……『緑の支配者プラントマスター』。植物と意志を交わし、様々な能力を引き出すことができる力だと。シギルと合わせれば絶大な力を発揮するそうです……それが森林の中なら尚の事」


「なんと……分かりました。ならば、私は……いや、誰もが今自分が出来ることを成すべきでしょうな。先ずは早急な情報収集、各国への救援要請……このタイミングだったのは寧ろ助かったとも言えます」


 直ぐに切り替えて最善の行動を取ろうとするのは流石に一国の代表になるだけのことはあるね。



「ウィラーに行くのなら俺も行こう。ロコなら最速で到達出来る」


 確かに、飛竜のロコちゃんなら……ひとっ飛び、とは言えなくても徒歩や馬よりも圧倒的に速くウィラーまで行けるだろう。














ーーーー 森都モリ=ノーイエ ーーーー



 アクサレナで国際会議が行われている頃まで時は遡る。





 ウィラーの第一王女であるメリエナは、将来の王座を受け継ぐ事を期待され、既に政務の多くに携わり日々を忙しく過ごしている。


 その日も自身の執務室に籠もって書類仕事をこなしていた。




「メリエナ様、そろそろご休憩の時間ですよ」


「あ、もうそんな時間?はぁ……なのに、まだこんなにある〜」


 側近に声をかけられて集中を解くメリエナ。

 大きく伸びをしながら、中々終わらない書類仕事の多さに辟易して、思わず愚痴をこぼしてしまう。





「今頃イスパルでは国際会議が開かれてるのよね。私も行きたかったなぁ……メリエルにも会えるし」


「今この情勢では、メリエナ様が国外へ出られるのは……」


「分かってるわ。いつグラナが侵攻してくるのか分からないものね。でも、今やってる会議で話が上手くまとまれば防衛体制も万全になるし……グラナの情報が得られるならこっちから討って出る事も出来るかもしれないわ」


「そうですね。……そう言えば、メリエル様からお手紙が届いたとお聞きしましたが」


「あ、そうなのよ。何か色々事件もあるみたいだけど、しっかり学生生活を楽しんでるみたい。カティア様とも仲良くさせてもらってるみたいだし、他にもお友達が出来たみたいで……まぁ、安心したわ」


 妹が元気そうに学生生活を満喫している様子を思い描きながら、嬉しそうな笑みを浮かべる。



「だけど……どうにも色っぽい話は無さそうね。もう年ごろなんだから、恋愛にも興味を持っても良さそうなんだけど、相変わらずみたい」


 と、今度は微笑みを苦笑に変えて、悩ましげに呟く。





 そんな風に、忙しくも穏やかな時を過ごしていたメリエナであったが……



 ウィラーに忍び寄る魔の手が間近に迫っている事を、まだ彼女は知る由もないのであった。


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