第十三幕 25 『二輪華』
さて、次は私とアリシアさんの番だ。
アリシアさんのデビュー以来何度か二人で舞台に立っているが、巷ではすっかり評判になっている…らしい。
早くも彼女はエーデルワイスのスターの一人となっているのである。
あんなに緊張していた彼女であるが、今は既に歌姫モードとなって幕が上がるのを待っている。
その点はプロフェッショナルだなあ、なんて思う。
やがて舞台の幕が上がり……歓声と拍手に迎えられながら、私達は煌めく光の中に進み出た。
そして、会場が静かになるのを待ってから、二人で歌声を紡ぎ始める。
ソロでは表現できなかった美しいハーモーニー。
一人で歌うのも楽しいけど、誰かと一緒に歌うのも凄く楽しいと感じる。
ふと視線が合ったアリシアさんも同じ気持ちだということが良く分かった。
そして、その気持ちは観客たちにも伝わって、素晴らしいステージへと昇華するだろう。
今この会場に集まっているのは、国家の、あるいは国家間の様々な問題に対処する立場の人達だ。
普段から色々と頭を悩ませていると思うけど……今はただ楽しんでもらい、明日への活力にしてもらいたい。
そんな願いを込めて歌うのだった。
最初のデュエットに続いてそれぞれのソロを披露してから、再びデュエットで場を最高潮に盛り上げてフィナーレとなる。
全てを出し切った私達に、観客たちは万雷の拍手を送って称えてくれた。
それに手を振って笑顔で応えながら、私達は舞台袖へと引き上げた。
最後の舞台挨拶も終わって楽屋に戻ってきた。
午後は国際会議の二日目に出席するのでそれほど時間的な余裕はないのだけど……ちょっとだけ休憩させてもらおう。
ステージ衣装から着替えて休憩していると、楽屋のドアがノックされる。
「はい、どうぞ〜」
「失礼します。休憩中申し訳無い」
「カティア、アリシアさん、お疲れ〜!」
楽屋に入ってきたのは、ジークリンデ王女とメリエルちゃんだった。
「あれ……?もしかして、二人は知り合い……ですか?」
と聞いておいて何だけど、ウィラーとデルフィアは隣国同士だし、交流があっても別に不思議ではない。
「ああ、メリエル……というか、メリエナと幼馴染でね。メリエルのことも小さい頃から知ってるんだ」
「えへへ〜、リンデお姉ちゃんと久しぶりに会えて嬉しかったよ」
なるほど、お姉さんの付き合いでメリエルちゃんも可愛がってもらってたんだね。
立ち話も何だから……ということで楽屋に入ってもらって暫し歓談することに。
「いや、素晴らしい舞台で感激しきりでした。お二人の歌には感動して涙が出てしまいました」
「あ、ありがとうございます」
「劇の方も……あの練度、ぜひ手合わせ願いたいものだと思いましたよ」
あ〜、やっぱりこの人ってルシェーラと同じタイプっぽいなぁ……
「楽しんでいただけて良かったです。みんなにも伝えておきますね。メリエルちゃんはどうだった?今回の劇は、メリエルちゃんのご先祖様の活躍の話だったから……楽しんでもらえたら良かったんだけど」
「うん、すっごく面白かったよ!!私、小さい頃からメリア様の物語って凄く好きだから、今回招待してもらえて本当に嬉しかったんだ!」
「そっか〜、そんなに喜んでもらえて私も嬉しいよ。……まぁ、相変わらず私は劇には出してもらえないのだけど」
シクスティンは私にとって魔王に匹敵する強敵なのだ。
ヤツは最近、アリシアさんにも演技指導をし始めたよ……
いや、歌姫としての立ち居振る舞いの指導なんだけどさ、あれはそのうち役者としても引き込むつもりだよ…!
そんなふうに、楽屋で暫し会話に花を咲かせていたのだが……
その時、異変が生じた。
それは全くの予想外で突然の出来事。
まさに青天の霹靂であった。
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