第十三幕 26 『突然の継承』


 国際会議の参加者を招待して行われた特別公演が終わり……楽屋まで来てくれたジークリンデ王女とメリエルちゃん、アリシアさんの四人で談笑している時の事だった。


 それは、本当に何の前触れもなく……


 異変が生じたのは、私の目の前にいるメリエルちゃんだ。

 当の本人も余りの事態に呆然としている。



「め、メリエルちゃん……それは、まさか……?」


 私も驚きのあまり言葉が上手く出てこない。




 メリエルちゃんに起きた異変。


 それは……突如として彼女の身体から眩い光が溢れ出し、複雑精緻な光の紋様が現れたのだ。



「それは……エメリナ様のシギル!?」


 ジークリンデ王女が、その異変の正体をハッキリと告げた。


 そう。

 メリエルちゃんが突然、シギルを顕現させたのだ。


 ウィラーに受け継がれてきたリナ姉さんのシギルは、メリエナさんが継承しているはずだ。

 それが今、目の前でメリエルちゃんが発動させている。


 つまり、それは……



「うそ……何で…………まさか!!?お姉ちゃんの身に何かあったの!!?」



 それは当然の帰結だろう。


 シギルを受け継いで発動させることが出来るのはただ一人のみ。

 その人が死を迎えるか、儀式によって継承させない限りは別の人間が発動させることは出来ないはず。


 それはつまり……今代のリナ姉さんのシギルの継承者であったメリエナさんが……?



「待て!!メリエル、落ち着くんだ!!」


 慌てて部屋を飛び出して行こうとするメリエルちゃんを止めながら、彼女を落ち着かせようとするジークリンデ王女。


「メリエナに何かあったのなら、ウィラーから何かしら連絡が入るはずだ。先ずはウィラーから来てる者たちに確認するんだ。私もデルフィアからの情報が無いか当たってみよう。カティア様は……」


「ええ、私も急ぎ王城に戻って情報を集めます」


「頼みます」


 このタイミングでメリエナさんに何かあったとしたら……考えたくはないが、黒神教が暗躍した結果である可能性が考えられる。


 とにかく今は急いで父様たちに報告して情報収集に当たらなければならない。



「カティア……どうしよう……」


 普段の元気いっぱいでいつも笑顔のメリエルちゃんが、今は泣きそうな顔になっている……


「メリエルちゃん、気をしっかり持って!まだメリエナさんに何かが起きたのかどうか分からない…………そうだ、リナ姉さんなら何か分かるかも……」


 眷族の事なら何か把握してるかもしれない。



「『リナ姉さん』とは……まさか?」


「ええ、エメリナ様の事です。リル姉さん……エメリール様の神殿に行けば会えるかも……」


「私も連れてって!」


 ……確かに、シギルを継承した今のメリエルちゃんなら、一緒に神界に招いてくれるかもしれない。


「分かった。一緒に行こう!ケイトリン、王城に連絡出来る?」


「オズマをパシらせます!」


「……お、お願い。じゃあ、行こう!!」



 こうして、私達は行動を開始した。


 一体ウィラーで何が起きているのか?

 何としても早急に情報を掴まなければ……!























「来たわね、カティアちゃん。それに……メリエルも」


 神界に招かれた私達を迎えたのは、普段の雰囲気と異なる真剣な表情をしたリナ姉さん。

 心配そうな顔をしたリル姉さんも隣に。



 やはり思った通りメリエルちゃんも一緒に呼んでくれたようだ。

 驚きの表情で周囲をキョロキョロと見回していたメリエルちゃんは、リナ姉さんの言葉にハッ…となって、慌てて居住まいを正す。



「は、はじめまして!エメリナ様とエメリール様でいらっしゃいますね。私はメリエルと申します!」


「ええ、もちろん知ってるわよ。会えて嬉しいわ」


 少し表情を和らげて微笑みながら言うリナ姉さん。



「リナ姉さん……その様子だと、ウィラーの……メリエナさんの事を?」


「詳しいことまでは分からないわ。でも、彼女の身に何かがあったのは確か」


「そ、そんな!?……やっぱり、お姉ちゃんは?」


「いえ、まだ死んだと決まった訳では無いわよ」


 メリエナさんの身に何かあったのは確か……ということは、彼女が亡くなったと断定されたものと思ってメリエルちゃんは絶望しそうになったが、リナ姉さんは別の可能性を口にした。


「継承者が死亡する、継承の義を行う……それ以外にもシギルを失う可能性が一つだけあるのよ」


「もう一つの可能性……?」


シギルの全開放。持てる力を全て出し尽くして、絶大な力を引き出す。その代償として、シギルは失われてしまうの。だけど、それはよほど切羽詰まった状況でなければ取り得ない最後の手段よ。下手をすれば、それで命を落とす危険もあるくらいなの」


「……その『よほどの状況』になる、何らかの出来事があったかも知れない……と。姉さんたちはウィラーの今の状況は見通せないの?」


「……ダメね。リルお姉ちゃん、これって……以前アクサレナに結界が張られたときと同じ感じよね?」


「……ええ。ウィラー大森林をまるまる覆うほどだから、規模が全然違うけど、確かにあの時と同じね」


「あそこは地脈の活動が活発で、大規模結界を張るにはお誂え向きだから……」



 あの時と同じ……なら、ヤツらが暗躍してるのはもう確定だろう。


 カルヴァードの国々が、対グラナで結束を強めようとするこのタイミングで仕掛けてくるとは……!


 だけど、そうそう好きにはさせないよ!!


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