第十一幕 15 『迷宮の謎』

 ルシェーラ達がダンジョンで手に入れた本とは、賢者リュートが書き記したものであることが判明した。

 私は皆の厚意でその本を預かる事が出来た。



 しかし、何という偶然であろうか。

 …いや、本当に偶然なのか?

 あまりにも都合が良すぎる。

 まるで…それこそゲームのシナリオをなぞるかのようだ。

 もともとゲームに類似した世界だという前提知識があるから尚更だ。


 だが、あくまでもこの世界は現実だし、ゲームとの類似点よりも寧ろ相違点の方が多い。

 しかし…



 とにかく、何が書いてあるのか確かめないと。

 …あの巫山戯たタイトルからは何が書かれているのか想像も出来ない。

 まさか、タイトル通りの迷宮攻略本では無いとは思うんだけど……




 ギルドからエーデルワイスの邸に帰ってきた私は、早速自室で本を開いて読み始めた。


















『同胞へ。先ずはこの本を手に取ってもらえたことを嬉しく思う』


 表紙をめくって先ず目に入ったのは、そんな一文だった。

 やはり、私…と言うか転移者転生者に向けたもののようだ。



『この本が人手に渡ったということは、【賢者の塔】の封印が解けたと言う事なのだろう。なぜならば…』



 どうやらタイトルとは違って、中身は至って真面目なもののようだ。

 …ホント、どんな心境だったのか心配になるよ。


 取り敢えず続きを読もう。



『なぜならば、その時が来ればアクサレナ丘陵の迷宮に隠したこの書も同胞の手に渡る。そのように仕掛けを施したからだ』


 手に入れたのはルシェーラ達だけど…タイミングは正にドンピシャだ。

 一体、どのような仕掛けによるものなのか全く分からないけど…現にこうして今は私の手元にあるのだから、彼の思い通りだったのだろう。



『さて、この本を手に取ったであろう同胞よ。賢者の塔に遺してきた本に書き記したのは、この先この世界で起こる恐れのある災厄についてのものだった。あれをしたためたあと、私は少しでも災厄に関することを調べ、それを後世に…同胞に委ねるべく旅立った。この書は、これまでの旅で知り得たこと、そしてそれに基づく私なりの見解を記したものだ。最初に断っておくが、『魔王』や『邪神』の出現に関する明確な予見が得られたわけではない。だが、そこに至る道筋について、興味深い事が色々分かったので一旦纏めることにした…ということだ。これを書き記したあと、私は再び旅立つつもりだ。同胞よ……あなたが志ある人ならば、どうか私の足跡を辿って私の憂いを晴らしてほしい。勝手な話だとは思うが、そう願わずにはいられない』


 ……『魔王』に『邪神』。

 その前段と思しきグラナ侵攻イベントは結局のところ起きなかった。

 これから戦略を練り直して再度侵攻の動きを見せる可能性は大いにあるけど……仮にゲームイベントでの黒幕と言う魔族が、あの『奇術師』だったのならば、ある程度は予言イベントに沿った展開が行われていた、ということになる。


 であるならば、『魔王』や『邪神』の出現も取り越し苦労として一笑に付す事は出来ない。

 そもそも、実際に300年前に魔王は実在したのだし、あの黒神教の動きは魔王の復活…あるいは新たに生み出すことを目的として動いてあるように見える。

 魔王よりも更に強大だという邪神の出現にも彼らが関わっている可能性すらあるのだ。


 そう考えれば、この書に記されている内容は非常に重要だろう。



 そう思い、私は更に続きを読み進めるのだった。
























 深夜までかかって、ようやく賢者の書を読み終えた。

 そして、あのふざけたタイトルの通り、この本はダンジョンに関して記したものであることが分かった。


 ヘリテジア様も言ってた通り、賢者リュートはこの世界の秘密の一端がダンジョンにあるのではないかと考た。

 実際に王都ダンジョン…当時の呼び名で言えばアクサレナ丘陵ダンジョンに何度も繰り返し潜りながら調査研究を行って、その成果を纏めたのがこの本なのだ。



 彼のゲームの知識によれば、魔王も邪神も(設定上は)異界の存在だと言う。

 事実、300年前に現れた魔王は、『異界の魂』をその身に降ろしたグラナの皇帝だった。

 そして、彼にとっては異質な存在に見えたダンジョンこそが、異界と何らかの繋がりが有るのでは…そう考えての流れであった





 そのようにして纏められた賢者の研究成果は、驚くべきものだった。

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