第十幕 47 『奇術師の最期』

 その名の通り、『奇術師』の攻撃はトリッキーで超高速、かつ手数も多いので、並大抵の実力では防ぐことなど出来ないだろう。

 ましてや間を掻い潜って攻撃を加えるなど。



 だが、ミーティアはヤツの攻撃の尽くを躱しながら、自らも双剣の連撃を放っている。

 時折、虚を突くようなタイミングで私とテオの方に攻撃が来るが、それもお義母さまが防いでくれていた。




「ははは!!楽しいなぁ!!その光の剣、僕達にとって致命的な威力がありそうだねぇ……まさにギリギリの攻防って訳だ!!」


 テンションアゲアゲの『奇術師』は、もはや目がイッちゃってる……

 別の意味で危ない人だよ。



 だが、ヤツをただ楽しませるだけなんて業腹である。

 何とかあの軽薄でイラッとくる表情を歪ませてやりたい…!!


 …私もテオも動けないけど。



 それに、ミーティアのシギルもそんなに長時間維持できないだろう。

 このあと軍団レギオンのボスとの戦いだって控えてるんだ。



 早めに決着をつけたいところだが……

 そう思っていると。


「ふぅむ…このまま戦っても、それなりに楽しめるけど。ちょっと飽きてきたね」


 どうやらヤツ自身が飽きてきたようだ。



「お嬢ちゃんのシギルの効果切れるのを待っても良いんだけどね。それじゃあ面白くない。人生にはそれなりに刺激がいると思わないかい?」


 もうこれ以上の刺激は要らないかな…

 何事も程々が一番だと思うよ。


「ということで。僕の本気を見せてあげようじゃないか!!」


「……今までも割と本気だったんじゃない?完全に躱しきれずに掠ってたから…少しずつでも滅魔の力が身体を蝕んでるんでしょ?」


 ミーティアが冷静にツッコむ。


 か、カッコいい〜!!

 ウチの娘はこんなふうに育つのか〜

 ……って、戦いが終わったら、ちゃんと元に戻るのだろうか?



「これは手厳しいね!!……確かに、お嬢ちゃんの言う通り、結構ギリギリだね〜。だけど、本気を出すというのは本当だよ?」


 そう言って、『奇術師』は大きく跳躍し……そのまま空へと舞い上がる!!



「僕が空間操作を得意としてるのは分かってるだろう?今まではそれを間接的に使ってた訳だが……直接空間を断裂させたら、[幽幻転生]が使えるお嬢ちゃん以外は防ぐ手立ては無いよね?」



 そう言うヤツの身体から、膨大な魔力の高まりを感じる。


「……」


 大技で勝負に打って出た…と言うより、確実に自身の役割、私達を抹殺するということか!!



「ふふ、打つ手なしのようだね。では、行くぞ!![虚空斬刃嵐]!!!」


 『奇術師』が大きく手を振るうと、目には見えないが、無数の破滅的な攻撃が押し寄せてくるのが分かった!!



 そして、私の目の前の風景が一変した!










 …

 ……

 ……って!?


 本当に景色が変わったんだけど!?



 ど、どうなってる?



 落ち着いて私の置かれている状況を急ぎ確認する。

 その間も歌は途切れさせない。

 …あ、テオとお義母さまもちゃんと一緒にいるね


「…何が起きたんだ?」


「…分からない。だけど……今なら!!」



 …どうやら、攻撃が当たる直前に、他の場所…元いたところから数十メートル離れたところに転移したようだ。


 これは一体…?




「な、何だと!?広範囲の転移魔法…?こんなマネ人間に出来るはずがない……まさかっ……はっ!?」


「これで終わりだよっ!!」


「し、しまった!?」


 とっておきの大技が不発に終わり呆然としていたところ、その機を逃さずに一気に肉薄したミーティアの双剣が振るわれる!!



「『流星驟雨ミーティア・レイン』!!」


 青と金銀の眩い光が、無数の流星となって『奇術師』を穿つ!!


「ぐ、ぐぁーーっっ!!?」


 魂が震えるような絶叫をあげる『奇術師』。


 光が貫いたところから、罅割れのように身体が裂けていく。

 もう、こうなっては生き延びることは出来ないだろう。



「…くっ!こ、こんな………ふぅ。くくく…まぁ、中々楽しかったですよ。まさか、負けるとは思わなかったけど……『奇術師ぼく』を欺くような伏兵がいたとはね」


 伏兵……

 おそらく私達を護ってくれた存在の事だろう。


 そして、それはおそらく…







 もう『奇術師』は言葉を発することもなく。

 やがて黒い塵と化して、その存在は跡形もなく消えた。



 恐るべき力を持った魔族『奇術師』の最期は…思いの外、呆気ないものだった。


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