第十幕 41 『迎撃準備』

 総勢2万もの大軍が夜の雪原を行進する。

 篝火や魔法による無数の光が闇に浮かんで進む様は、それが戦いに向かうものでなければ、さぞ幻想的で美しいものだと感じたことだろう。



 緊急会議で急ぎ戦略を決定し、その日のうちにはもう体勢を整えて王都を出発したのだ。

 迅速に動けたのは、私が可能性について言及した時から、予め準備を進めていた事が大きかった。

 それについては大いに感謝された。

 だけど、もっと早く思い出していればイスパルからの援軍なども間に合ったかも…と思うと感謝されるのも複雑であった。



 総大将としてはハンネス様御自らが、前線ではアルフォンス様がそれぞれ指揮をとる事になる。


 最初はアルノルト様やラシェル様も出陣するとか言っていたらしいけど、流石に王都を留守には出来ないので渋々残られる事に。

 ……イスパルに負けず劣らず武闘派揃いだよ。

 ラシェル様に関してはブレーゼン家の血筋かも。

 流石はルシェーラの叔母と言うことか。






 敵軍との衝突が予想されるのは、王都から東に徒歩で一日程の距離にある峡谷…の前に広がる扇状地となる。

 敵方の陣形は制限され、逆にこちらは比較的柔軟に陣が敷ける、有利な場所ということで決定された。

 数的不利もある程度カバー出来るというのもある。




 レーヴェラントの正規軍1万5千人の他には、イスファハン王子率いるカカロニア軍5千人、緊急招集に応じてくれた冒険者が500人あまり。

 父さん、ティダ兄、そしてイースレイさんも冒険者部隊に加わっている。


 アネッサ姉さんは宮廷魔導士とともに広域殲滅魔法で先制攻撃。

 ミーティア(ゼアルさん)もそこに加わって、初撃を見舞ったら本陣に退避。

 ミーティアにはお義母さまが付いていてくれる。


 私は最後の詰め、ボス撃破のための精鋭部隊に加わる事を見越して魔力温存することになったので、先制攻撃には加わらないで当面はテオと共に本陣で支援に徹する。



 その他、敵軍の動きに応じた様々な戦略・戦術が練られているが、大まかな流れはざっとこんなところだ。







 




「開戦予定地点はもうすぐだな」


「うん。頑張ろうね、テオ」


「ああ。……おそらく前回よりも長丁場になると思うが、大丈夫か?」


「治癒術師の人を付けてもらえるから大丈夫。それに、前線で戦う皆の方がもっと大変だもの。弱音なんか言ってられないよ」


「…そうだな。俺もシギルの発動をなるべく長時間維持できるように頑張るよ」


 シギルは発動できる時間が限られている。

 別に魔力や体力を消費するわけではないのだけど…感覚的にあとどれくらい維持できるのかが何となく分かるのだ。

 これも感覚的なのだが、全力じゃなければそれなりに長時間発動できると言うことも分かってる。



 発動後の待機時間クールタイムも状況次第でまちまちだ。

 例えば、私がディザール様のシギルを発動して即『天地一閃』した場合だと、数十秒くらいで再度発動可能になる。

 しかし長時間発動状態を維持したあとの再発動はもっとかかるみたいだ。


 そう言った匙加減も結局は当人次第なのだが、テオならきっと上手いことやってくれるに違いない。










 そして、レーヴェラント軍はいよいよ開戦予定地に到着する。

 夜の闇の中、本陣の設営や各部隊への指示などが慌ただしく行われ、着々と戦闘準備が進められる。



「先遣部隊の報告によれば、あと数時間……夜明け頃には魔軍の第一陣と接敵する見込みだそうだ」


 先程まで各所に指示を出していたハンネス様だったが、既に大局的な指示は出し終わったのか、本陣予定地に待機していた私とテオに話しかけてきた。


「夜間戦闘を避けられそうなのは良かったです。ただでさえ雪原の戦いは足場が不安ですから…」


 それほど積もってる訳ではないが、やはり足場が悪いことには違いない。



「なに。我がレーヴェラント軍は雪中戦の訓練も十分積んでおる。魔物ごときに早々遅れはとらんよ。もちろん、油断はせぬがな」


「頼もしいです。それに、竜騎士部隊もかなり頼りになりそうですね」


「そうだな。国境防衛にかなり回しているから数は限られるが……彼らの働きが重要なのは間違いない」


 航空戦力が有用なのは現代地球と変わらないだろう。

 対空攻撃の手段が限られるだろうから尚更だ。








 こうして戦闘態勢が整えられ……夜明けを迎えるのだった。

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