第十幕 29 『婚約パーティー』

 楽師たちが奏でていたゆったりと穏やかな曲調が、私達の入場に合わせて楽しげで軽快なものに変わる。


 会場中の注目を浴びながら、ハンネス様や母様のいる壇上へと向かった。



 うう…

 露出の多いドレスだから、何だか視線がいつもより恥ずかしく感じてしまう。

 それに、夜会にはこれまでそれなりに出席してきたが、自分が主役となるのはまだ2回目なので、ちょっとドキドキしている。


 そんな内心の羞恥と緊張を押し込めて、柔らかな笑顔を心掛けていると、よく見知った人達と視線が合った。

 父さんにティダ兄、姉さんとリィナ、ミーティア…ああ、姉さんたちがここに招待されてるってことは、実家とは和解できたのかな?


 よく見ると、姉さんたちの側にはイースレイさんと…彼よりももう少し歳が上のよく似た男の人、それに、やはりよく似た面影を持つ年配の男性が。

 あの人たちがきっと姉さんの家族なんだろう。


 良かったね…

 そんな思いを込めて姉さんを見つめると、少し照れたような感じで、微笑み返してくれた。






















「では紹介しよう。我が息子テオフィルス、そして、イスパル王国のカティア=イスパル王女だ。今夜は二人の婚約を祝う実にめでたい席である。…昨今は何かと不穏な情勢も見られるが、そうした中でも、こうして同盟国同士に新たな絆が生まれ、これまでよりも更に強固な関係が築かれることは大変喜ばいしことだと思う。どうか、皆からも祝福をお願いしたい」


 まだ結婚したわけじゃないけど…私達の結びつきは私達だけでなく、私達の家族…そしてハンネス様が言った通り国家同士の結びつきでもある。

 私達自身はそのようなものとは関係なく、ただお互いに惹かれ合っただけなので不思議な感じではあるが……個人的、公的に関わらず多くの人々に祝福されるのは幸せなことだろう。





 そして、私とテオも簡単に挨拶をして、夜会が始まるのだった。













 基本的には立食形式で決まった席などなく、招待客は料理に舌鼓を打ったり、親しい者と談笑したり、これを機に新たな人脈を得ようと精力的に社交したり…思い思いに過ごす。


 一方で私達と言えば、雛壇に設けられた席に座って順番に祝福の言葉を頂いているところだ。

 目の前には美味しそうな料理の数々が並んでいるが、中々手を付けることができない。


 うう…私のごはん…


 ホントに前世の披露宴みたいだよ。


 そんな内心の嘆きはおくびにも出さず、笑顔を貼り付けて祝福の言葉にお礼を返す。


 我ながら大分慣れたと思うよ。

 …まあ、大体はテオが対応してくれてるんだけども。




 親しい人で最初に来てくれたのはイスファハン王子だ。


「お二人共、ご婚約おめでとうございます。カカロニアを代表して祝福させていだきます」


「「ありがとうございます」」


「まあ、堅苦しい挨拶はそれくらいで……それにしてもテオフィルス殿は羨ましいな、カティア殿のような素晴らしい女性と一緒になれて」


「ええ…そうですね。本当に夢のようですよ」


 えへへ…照れるなぁ…


「そういうイスファハン王子は、婚約者は…」


「まだいないんだ、これが。縁談は色々来るんだけど…どうもピンと来なくてな……カティア殿を初めて見たとき、この方なら…と思ったもんだがなぁ……っと、略奪愛は趣味じゃないから、そう警戒しないでくれ」


「はぁ…」


 やっぱり、この人は見た目と言動は少々軽い感じはするんだけど、本質的には真面目っぽいよね。



「そうそう、テオフィルス殿。こんど俺と手合わせしてもらえないか?」


「手合わせ、ですか?」


「ああ。テオフィルス殿は実戦経験をかなり積んでいると聞く。俺も腕には覚えがある方なんだが…とんと実戦には縁がなくてな。できるだけそういう相手と修練を積んでおきたいと思ってる」


 なるほど、今回彼はカカロニアの派遣部隊の指揮官としてここに来てるのだから、来る有事に備えておきたいんだろう。


「そういうことでしたら、構いませんよ」


「ありがたい」


「私も二人の手合わせ見てみたいです」


 イスファハン王子も何となく強者の雰囲気を感じるし、それに彼はシギル持ちでもある。

 俄然興味が湧くというもの。



 そうして、暫くはイスファハン王子と話をするのだった。


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