第十幕 28 『今宵、あなたと…』

 今夜、私とテオの婚約を記念した夜会が催される。

 

 今はそのための支度をしているのだが…



「え〜と、このドレスは…」


「はい。テオフィルス様からの贈り物との事です。当然、今日の夜会はこれを着るということになりましょう」


 そうなのだ。

 今日の夜会のために…と、テオからドレスをプレゼントされたのだ。


 もちろん、凄く嬉しい。

 嬉しいのだが……


「な、何か…胸元とか背中とか、露出が多くない?」


 そう。

 凄く素敵なドレスなのは間違いないのだけど、結構大胆なデザインなので、ちょっと抵抗が…


 色は以前リファーナ様から頂いたような、私の瞳と同じ菫色。

 所々に金糸で刺繍が施されてかなり豪華ゴージャスな感じ。

 本日の主役なので、まあそれは良い。

 だが、ホルターネックで背中が大胆に開いてるし、首から胸元にかけてはレースになって透けているので結構露出が多い。



「確かに、カティア様が普段好まれるものとは傾向が少々異なるかもしれませんね。ですが、きっと凄くお似合いかと思いますよ。テオフィルス様はセンスがお有りかと」


 そ、そうかな…?

 こういうのって、もっと、こう……胸が…

 ホラ、大きくないと……ねぇ?


「ショールとかで…」


「いえ、それは勿体ないですね。カティア様は肌もお綺麗ですし、健康的な色白さですし」


「うう…ま、まぁ、似合うなら…」


「それは間違いありませんね」


 何か言いくるめられてる気がしないでもないけど。

 でも、テオのプレゼントなんだから、覚悟を決めて着ますか。


 テオってば…意外と大胆好みなんだね…



「ママ、すごいかわいいの〜」


「ありがとう、あなたも凄く素敵だよ」


「えへへ〜」


 ミーティアにもテオからドレスがプレゼントされている。

 色や刺繍などの意匠はお揃いと言えるが、もちろん子供向けの無難なデザインだ。


















 そうしてマリーシャに身支度を手伝ってもらって、後は時間が来るのを待つのみとなる。

 もう今頃は夜会の会場に招待客が詰めかけているだろう。


 ミーティアも先程父さんや母様と一緒に、先に会場へと向かった。


 私とテオは最後に入場する手はずとなっている。

 もうすぐ迎えに来てくれると思うのだが…



 コンコン。


 と、ちょうど扉がノックされた。


 マリーシャが扉を開けると、入ってきたのはもちろんテオだ。


「カティア、もうそろそろだ。準備は大丈夫……ああ、凄く似合っているな、そのドレス」


「う、うん…ありがとう、テオ。ちょっと大胆な気もするけど…」


「いろいろ迷ったんだがな。母さんの意見も参考にして。あまり趣味ではないかもしれないが…」


「ううん!凄く素敵だよ!…ただ、ホントに似合ってるのかな〜、って」


「大丈夫だ。想像以上によく似合ってる。……だが、少し後悔があるな」


「え?何が?」


「他の男にもその姿を見せるのが惜しくなった」


 うひゃあ〜〜!

 聞きましたか、奥さん!?

 この人ってば、もう婚約したというのに口説きに来てますよ!



「ふふ、カティア様…そのドレスですと、照れて真っ赤になるのがよく分かりますよ」


「しょ、しょうがないじゃない…テオがあんなこと言うから…」


「はは、すまないな。だけど、それだけ似合ってるって言いたかったんだ」


「うん…ありがとう。その、テオも凄くカッコいいよ。騎士の正装みたい?」


 彼の衣装はまさにそんな感じ。

 黒を基調として金糸で刺繍や縁取りがされていて、凄くテオに似合っている。


「ああ、これはレーヴェラントの竜騎士の儀礼用の正装でな…」


「そうなんだ。そう言えば、テオって竜騎士だったんだね」


「ああ。一応、正式に叙任もされてる」


「強いわけだよね。あ、その佩剣は…」


「聖剣だ。借り物なんだけどな……箔がつくから持っておけ、と父上に」


「ああ…なるほど。いいんじゃない?ディザール様から正式に許可されてるんだから」


「…そうだな」


 敢えて喧伝するわけじゃないんだろうけど。

 飾り気のないシンプルな意匠ながら、滲み出る神々しさは確かに箔がつくかも。





 と、そこで使用人がやって来て、入場の時間になったことを教えてくれた。




「じゃあ、行こうか」


「うん」


 テオが差し出した腕を取り、私達は会場へと向かうのだった。





















 会場の扉の前に立ち、入場の合図を待つ。

 何だか前世の結婚披露宴みたいな感じ?


 会場の中からハンネス様の挨拶の声が漏れ聞こえてくる。


 そしてその挨拶の言葉も終わると、いよいよ私達の入場となった。


 一度お互いの顔を見合わせて頷く。

 絡ませた腕にぎゅっ、と力を込める。


 そして扉が開かれ、綺羅びやかな会場の明かりの中へと二人で踏み出した。


 また新しい一歩を。


 愛しい人とともに…




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