第十幕 23 『母』

 目の前で繰り広げられた光景に少し呆気にとられたが…気を取り直して父さんも挨拶をしてから皆ソファに座った。



「……いや、失礼した。もちろん、ほんの冗談だ。カティア姫がかなり緊張した様子だったからな。…だからそんなに殺気を飛ばすでない、テオフィルス。怖いから」


 あ、あはは……

 確かに緊張はすっ飛んで行ったね…


「言って良い冗談と悪い冗談があります」


「そうですわよ。息子の婚約者を口説くなど、言語道断です」


「ああ!もう、悪かったって!……コホン、では気を取り直して…我が家族を紹介しようではないか」


 この人が私のお義父様とうさまかぁ…

 ちょっと複雑な気持ちになりながらも、この場にいる家族を紹介してくれるとの事なので、耳を傾ける。






 


「先ず…先程私に良い一撃を見舞ってきたのが、正妃のラシェルだな」


「ハンネスの妻、正妃のラシェルと申します。よろしくお願いしますわ。…カティア姫はテオから私のことは聞いてるのよね?」


「あ、はい。ブレーゼン侯爵閣下の妹君でらっしゃると…」


「そう。つまりルシェーラの叔母と言うことね。カティア姫はルシェーラとは学校の同級生なのよね」


「はい。ルシェーラとは友人として仲良くさせてもらってます。侯爵閣下にも随分とお世話になりました」


「ええ、テオからいろいろと経緯は聞いてるわ。…皆変わりないかしら?手紙のやり取りはしてるのだけど、早々会えないから…」


「皆お元気ですよ。閣下はずっと王都に滞在してるから、奥様に会えなくて寂しがってますけど」


「まぁ…あの人、見た目山賊なのに案外可愛らしいところあるのよねぇ」


 …身内からもそんなふうに思われてるんだね、閣下は。

 ラシェル様は、閣下とは金髪碧眼である以外は似ても似つかぬ美貌を持つ方だった。

 ルシェーラは99%リファーナ様似だと思っていたのだが…こうして見るとラシェル様の面影もあるのだと分かった。

 武闘派なところも。

 うん、ルシェーラは間違いなくブレーゼン家の血筋だね…ちょっと疑っててゴメンね!



「そう言えば、兄の妻…リファーナさんは、ダードレイ様の従兄妹でしたのよね?」


「ええ、そうです。…アイツが貴族の妻なんて務まるのかと思ってたんですがね。中々どうして、板についてましたね」


「かなりご苦労されたと思うのですが…ご立派だと思います。それにしても、人の縁と言うものは不思議ですね…」


 それは私もそう思う。

 閣下の奥さんが父さんの従兄妹で、閣下の妹の義理の息子が私と婚約するのだから。


 いや、それだけじゃないね。

 これまでも、色々な人の繋がりがあった。

 そもそも私自身が父さんに拾われたのだって…そして、『俺』の魂も。




「…ラシェルよ、お前ばかり話していては駄目だぞ」


「あら、そうだったわね。ええと…アルノルトは面識あるのよね」


「そうですね。ダードレイ様にも先程挨拶させていただきましたし。ですが、改めまして。ハンネスとラシェルの長男、アルノルトと申します。こちらは妻のアンネマリーです。よろしくお願いします」


 と、アルノルト様と奥様のアンネマリー様が改めて挨拶をしてくれた。


「テオフィルスは皆さんもよくご存知でしょうから、あとは…」


「私だね。はじめまして、ハンネスの側妃でフェレーネと申します。……まあ、堅苦しいのはこれくらいで。私は元平民だからね。気楽に話してくれれば良いよ」


 この人がテオのお母さん…

 サバサバしていて話しやすそう。

 もと冒険者って言っていたし話も合いそうだ。


 テオとは姉弟と言っても通じそうなくらい若々しい。

 ラシェル様も実年齢よりも相当若く見えるけど、それ以上だよ。

 で、やっぱりもの凄く美人だ。

 国王に見初められるのだから当たり前かもしれないけど。


 テオの容姿はどちらかというとお父さん似で、髪や瞳の色もそちらを受け継いだのだと思うけど、お母さんの面影もちゃんとあるから、二人の子供だということがよく分かる。

 因みに、お母さんの髪は青みがかった銀髪で、瞳は青い。



 しかし、それより気になるのは…



「テオフィルス様にはいつもお世話になっております。え〜と、それで…その…」


「ああ、このお腹かい?もうすぐで生まれると思うんだけどね、テオフィルスの弟か妹だよ」


「ええっ!?」


 いや、テオのお母さんなんだから、そりゃそうなんだろうけど…驚いたよ。


「だから、カティアちゃんがテオと結婚したら、あんたの義理の弟か妹ってことになるね」


「そうですね……それはとても楽しみですね!」


「あはは!そうだろう?できれば滞在中に生まれてくれれば見せてあげられるんだけどねぇ……お〜い、早く生まれてきな〜」


 そうお腹を撫でなら話しかけるフェレーネ様は、我が子を慈しむ優しい母親の顔をしていた。



 きっと……私の母も、あんなふうに私が生まれてくるのを楽しみにしてくれたのかな……



 そう、思うのだった。


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