第十幕 17 『竜騎士』

 一時膠着状態だった戦いは、私の[絶唱]の支援効果によって均衡が崩れる。

 そうなると一気に戦況が動き、一人、また一人と敵を無力化していく。


 そして、それほど時間もかからずに襲いかかってきた敵の全てを鎮圧することに成功した。




「伏兵が潜んでるかもしれん。まだ警戒は解くなよ!」


「陣形を整えろ!数名だけで生き残った賊を捕縛しろ!」


 ともすれば緊張が解けそうになるが、隊長達は油断せずにしっかりと指示を出す。

 流石は精鋭部隊と言ったところか。



 私も安全が確認できるまでは[絶唱]を継続しておく。

 母様は既に[暴風結界]は解除しているが、即座に発動できるように準備はしている。















 暫く警戒を続けていたが、どうやらこれ以上の襲撃はなさそうだ…

 そう考えて警戒を解こうとしたが…


 突然森の中から全身黒ずくめの男たちが数人飛び出してきて、私の方に向かって一気に距離を詰めて来た!



(ちっ!意識が切り替わるタイミングを見計らっていたか!?それに、隠形に優れた素早い暗殺者タイプ!凌げるか!?)


 虚を突かれたわたしは、[絶唱]をちょうど終わらせたところで迎撃体勢が整っていない。

 一応佩剣はしてるが、それで迎撃できるかどうかは微妙なタイミングだった。



「カティア様っ!!」


 ケイトリンの叫び声が聞こえる。

 私に向かって振り下ろされる白刃は、何故かスローモーションとなってはっきりと知覚することが出来た。

 だが身体がそれに追いつかない…!


(くっ!何とか致命傷は避けないと…!!)



 そう、刹那の間に思ったその時!



 ガキィィーーンッ!!!



 何か巨大な影が上空から舞い降り、私と襲撃者の間に割って入って攻撃の尽くを弾き飛ばした!



 意識時間が元通りになり、我に返って改めて見てみると…


 そこに現れたのは、飛竜に乗った騎士。

 槍戦斧ハルバードの一振りで襲撃者の攻撃を全て弾いたようだ。


 ……竜騎士か!!


 って、この人は……背中越しでも分かる。

 何故ここに、と言う疑問よりも先に嬉しさが込み上げてくる。



「ロコ、ブレス頼む」


「キュオッ!」 


 騎士が飛竜の首をポンポンと叩きながら指示を出すと、飛竜は一声鳴いてから息を大きく吸い込んで、高熱のブレスを襲撃者に向かって吐き出した!!



 ブォーーーッ!!


「「ぐぁーーっ!!?」」



 5人いた襲撃者のうち、2人はまともに直撃を受けて火傷を負ってのたうち回る。


 残る3人はぎりぎりブレスの範囲から逃れて後方に離脱しようとしたが、集まってきた護衛騎士たちに囲まれる。

 それでも囲いを突破しようと奮闘するが、流石に多勢に無勢。

 数合打ち合うのがやっと、あっという間に無力化された。













「カイ………テオ!!」


「カティア、大丈夫か……おっと!」


 飛竜から降り立ったテオに、私は駆け寄って思わず飛び付いた。

 久しぶりの再会に、あふれる想いが止められなかった。

 テオも私の背中に手を回してギュッと抱きしめてくれる。


 ん〜、何てドラマチックな再会だろうか。

 めちゃめちゃイケてません?

 この人、私の婚約者なんですよ〜!!と声を大にして言いたい。



「テオフィルス様、助かりました!」


「ああ……だが、ケイトリンなら間に合ったんじゃないか?」


「ええ、そうですね。だけど、テオフィルス様が急降下してくるのが分かりましたから……やっぱりお姫様を助けるのは王子様の役目かな〜、なんて思いまして」


 シレッとそう答えるケイトリン。


 まったくもう……

 何て…

 何て気が利くの!!

 グッジョブ!!




「あらあら、カティアやリュシアンからは優秀だという話は聞いてたけど…女性騎士はそういうところも気が利いて良いわねぇ」


「ありがとうございます!今年の査定は何卒よろしくお願いします!」


「ふふふ、面白い娘ね。リュシアンには言っておくわ」



「それで良いのか……コホン。カーシャ様、ご無事で何よりです。この度はレーヴェラントの不手際により皆さまを危険に晒してしまい申し訳ありませんでした」


「いえ、大事ありません。……不手際、と言う事はこの襲撃については何か情報を押さえてる…ということかしら?」


「はい。詳しくは道中で…」


「分かりました。……それにしても、カティアは何時まで抱きついてるのかしら?」


「ふぇ?……ああ!?皆に見られてるぅ!?」


 そりゃそうだ。

 みんないるんだもの。

 私もいい加減学習しなさいよ…


 うう……生暖かい目で見ないで!!











 こうして戦闘は終了した。

 こちらの被害状況としては、負傷者はいるものの死亡者なし。


 負傷者は同行している魔導医師と姉さんで手分けして治療している。

 私も手伝おうとしたが、そんなに手はかからないとのことなので大人しく待っている。


 襲撃者側は多くが死亡。

 父さんやティダ兄なんかは殺さずに無力化していたが、それは大きな実力差があるから出来ることだ。


 護衛騎士たちが相手した襲撃者の殆どは死亡している。

 まあ、それはしょうがない。

 襲ってきた相手に同情するほど私はお人好しでもないし。


 生き残った者たちは捕縛して荷馬車に放り込んでいる。

 死なない程度に治療も施して、後ほど尋問される事になるだろう。



「テオフィルス様!!」


「ライセン隊長、よく持ちこたえてくれた」


「……いえ、危うくカティア様をお護りすることが出来なかったところでした。テオフィルス様がいらっしゃらなければ…」


「…まあ、俺が居なくともケイトリンが護っていたはずだから気にするな。…多分、自力でも何とかしていただろうしな」


 いや〜、結構ギリギリだったよ。

 それに、私的にはテオにピンチを助けてもらって嬉しかったし、結果良ければ全て良しだね。



 そんなふうに、護衛騎士たちが戦闘の後始末を待っている間話をしていると、再び上空から降り立つ者たちが。

 テオと同じく飛竜に跨った竜騎士が二人。

 年重の一人がテオに話しかける。


「テオフィルス様、上空から周囲を探りましたが…他に敵影は見つかりませんでした」


「分かった。まあ、森の中に潜んでいたら上からでは分からないからな。引き続き警戒を頼む」


「ハッ!!」


 そして彼らは敬礼してから、また上空に舞い上がっていった。



 ふわぁ〜……カッコいいね〜。



 取り敢えずは……テオの騎竜と仲良くなりたい!!

 そう思って私は、つぶらな瞳でこちらを見ていた飛竜に近づいていくのだった。

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