第十幕 4 『学院』


「おお、よくぞ参られましたな。カーシャ様、カティア様」


「今日はお世話になります、学長」


「ご無沙汰しております」


 案内されてやってきたのは、学長室…グレイル様の執務室であるが、各国要人が訪問した際の応接室も兼ねているらしい。


 部屋の中に入った私達はにこやかに挨拶を交わす。


 だが…


「お久しぶりです〜学長。お元気そうでなにより〜」


「………アネッサ!!?」


「はい〜」


 私と母様の陰になっていた姉さんが前に進み出て挨拶すると、グレイル様は一瞬硬直し、次いであたふたと慌てふためく。


「な、ななななぜここに!?」


「なぜって〜、里帰りですよ〜。何をそんなに慌ててるんです〜?」


「い、いや、その…コホン。失礼しましたな」


 何とか取り繕うことができたようだ。

 つつ〜、と汗が伝ってるけど。

 以前も姉さんの名前が出たら話を逸らそうとしてたけど。

 いったい何があったんだろうねぇ…

 いや、何となく想像はつくけどさ。


「ふふふ〜、相変わらず学長はお盛んなんですか〜?」


「ぶふっ!?な、何を言うのかね?……儂ももういい加減トシなのでな、そんな事はもう…」


「あら〜?リーゼちゃんは〜『相変わらずでしたよ』って言ってましたけど〜」


「うぐっ…」


「はいはい、学長をいじめるのはそれくらいにしておきなさい、アネッサ」


「別にいじめてなんていないけど〜、分かったわ〜」


 …はっ!?

 いけない、呆気にとられてしまった……



「そ、それよりもじゃな…コホン。そちらの小さなお嬢ちゃんたちは…」


 気を取り直して、グレイル様はミーティアに目を向けた。


「あ、この娘は私の養子で、ミーティアと言います。ほら、ご挨拶なさい」


「はじめまして!ミーティアです!ママの娘です!」


「おお、これはこれはご丁寧に。元気で賢いお子さんじゃの」



「こっちは私の娘のリィナよ〜」


「は、はじめまして、リィナです」


「うむうむ。しかし、アネッサにこんな大きな娘がいるとはの〜…儂も歳をとったものじゃよ」


 グレイル様は相好を崩して二人の頭を撫でる。

 もともと好々爺といった感じだが、孫に接するおじいちゃんのように優しげだ。

















「此度はご婚約おめでとうございます、カティア様」


「あ、ありがとうございます」


「ふむ、テオフィルス様と…お似合いのお二人ですな。武神祭でお会いしたときも、それはもう仲睦まじいご様子でしたからなぁ…」


「パパとママは仲良しなの」


 改めて祝福の言葉を頂く。

 …そして、恥ずかしいからあまりそう言うことは言わないでね、ミーティア。



「でも…ちょっとグラナ方面が怪しい雰囲気で……浮かれてる場合じゃないかもしれません」


「ふむ…その話は儂も聞いておるが。一体なぜ今なんじゃろうかのぉ…?…いや、かの『黒神教』が活溌に活動しておるのじゃったか」


「はい。おそらく、関連はあるかと思ってます」


「うむ。…アスティカントは大規模な軍勢は持っておらぬからいくさの支援はそこまでできぬが…他にできることならば協力は惜しまんつもりじゃ」


「ありがとうございます。イスパルも、要請があれば直ぐに戦力を送り込めるように準備をしております」


「何も起きなければ良いがのぅ…」


「はい…」


 本当に…何事もなければ良いのだけど。




「まあ、今日はゆっくりされると良い。迎賓館の方はもう準備は出来ておるが…学院を見学なさっても良いですぞ」


「あ、よろしいのですか?私、ちょっと興味があったので…」


「ほっほっほ、是非見学していってくだされ。先程の者を案内につけましょう」


「ありがとうございます!」


「私達も久しぶりだから、一緒見ていきましょうか、アネッサ」


「そうね〜」



 こうして、私達は学院を見学させてもらうことになった。

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