第九幕 34 『野外実習〜キャンプ』

 食料調達を終えた私達は野営地へと戻ってきた。


 準備班によってもうテントが張られている頃合いだろう。

 私達以外にもここで野営を行う班が結構あるみたいで、さながら前世のキャンプ場のようになっている。



「何かいいね、こう言う雰囲気」


「そうね、何だかわくわくするわ」



 ガヤガヤとにわかに賑い始めた野営地を進んでいくと、妙に注目を浴びている。

 今回は私がいるから、と言うわけではなく…


「これだけ収穫があるのは、やはり目立ちますね」


「みんな食料調達には結構苦労したみたいだね。ウチは余裕があるから、もし厳しいとこがあればお裾分けしてあげようか」


「よっぽど何も採れなかったところがあれば分けても良いかもしれませんが…見たところ、それなりには確保は出来てるみたいですよ」


「そっか。それなら良かったよ」







 私達が確保していた場所に戻ってきた。

 もうすっかり日は傾いて、山々の彼方に沈みつつある夕日が空を茜色に染め上げる。


 既にテントは設営されていた。

 もちろん男女別なので2張ある。

 1張4〜5人用であるが、そんなに広くはないので寝るときに使うだけ…と思っていたら、私達が戻って来たのを察知したらしいメリエルちゃんがテントの中をから出てきた。


 うんうん、子供はこう言うのには目が無いよね…などと失礼な事を考えてしまった。



「あ、カティア〜!お帰り、どうだった?」


「バッチリだよ。男性陣やろ〜どもとフローラさんは?」


 3人とも周りには見当たらないようだ。


「えっとね、フリードとガエルは竈を作る為の石を探しに。フローラさんはお水を汲みに行ったよ。……私は迷子になるからって、お留守番を命じられたわ!」


 若干涙目でそう答えるけど、それはしょうがないね。

 適切な判断だと言わざるを得ない。


「それじゃあ、フローラさんが帰ってきたら女性陣は一緒に下拵えのお手伝いしようか。ユーグとクリフ君は竈作りを手伝ってね」


「分かりました…と、3人とも戻ってきましたね」


 ちょうど、3人とも戻ってきたようだ。

 フリードが薪になりそうな木の枝など、ガエル君が大きめの石を、フローラさんが桶一杯の水を運んできた。



「お疲れさん、3人とも。あ、フローラさん、それ重いでしょう、持つよ」


「え?あっ!……す、すみません」




(カティアが凄い男前だよ。あれは惚れるね!)


(あらあら、フローラさん顔が赤くなってるわ)


(……いいところ持ってかれっぱなしっす)




「ほらそこ!何ぼーっとしてるの?もう日が落ちちゃうよ」


 竈作って火の準備もあるし、料理もしないと。

 やることは沢山あるよ!












「じゃあ、ちゃっちゃと下拵えしましょうか。私は魚を捌くから、皆は他の食材の下拵えをよろしく。ステラ、分かるよね?」


「ええ、任せてください」


 そのままで食べられるものもあれば、水に晒してアクを抜いたり、細かく刻んだり…まあ、いろいろある。


 女子が手分けして料理の準備をしているうちに、男子は竈作りと火起こしだ。

 と言っても、火はユーグが魔法で着火できるので、メインは火を絶やさないようにするための竈作りとなる。



「ねぇカティア、これはどーするの?」


「ああ、それはさっと水で洗ってざっくり切ってくれれば良いよ」


「は〜い」



「あ、あの、カティアさん…この果物は?」


「それはそのまま食べられるから、洗うだけで良いよ。水に浸けておいて冷やしておいた方が美味しいかも」


「分かりました!」



 時おり質問に答えながら、鮭に似た魚を捌いていく。

 大きめのが三匹。

 結構食べごたえがあるね。


 一応調味料は塩胡椒くらいは持ち込み可なんだけど、味噌とかあれば良かったな〜。

 まあ、無いものはしょうがないので、切り身にしたら塩胡椒をふって、シンプルに焼けばいいか。

 かなり脂がのっているし、それだけでも十分美味しいと思う。



 そうして、暫くは男子女子ともに準備を進めていった。















「カティアさん、こっちの準備は出来ましたよ」


「火加減もバッチリだと思うぜ!」


 男子の方の準備が整ったようだ。


 いくつもの石を組み上げて作った竈には既に火が熾されていて、パチパチと木が爆ぜる音がする。


「お〜、いい感じじゃない!」


「薪の枝もユーグの魔法で水分とばしてもらったから、よく燃えるっしょ」


 生木だとなかなか燃えないからね。

 着火もそうだけど、そのあたりは魔法がある世界ならではだ。



「それじゃあ、早速使わせてもらうよ。先ずはお湯を沸かしてスープを…」


 火の準備が出来たので、女子は引き続き料理をしていくことに。


 もう日は落ちて、辺りは暗くなっているが、あちこちの班で火が熾されているのと、魔法が使える者は[光明]を使っているので、作業するのに問題ないくらいには明るかった。



「夜は星空がキレイだろうね」


「わあ〜、見てみたい!」


「夜に外で空を見上げることなんて、なかなか無いものね」



 星空か…

 今の私になって、初めて見上げたあの星空を思い出す。

 あの時はまだ、私は王女なんかじゃなく、彼も…

 あれからまだ数ヶ月しか経ってないけど、随分と環境が変わったね。

 …私自身も。



 カイト…今頃どうしてるのかな?


 なんて…少しだけ寂しい気持ちがこみ上げてくるのだった。

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