第九幕 4 『クラブ見学1』
「さて……どこから見ようか?」
「ん〜、演劇と合唱は大講堂、武術と攻撃魔法研は訓練場、魔道具研は実験棟、馬術は馬場だね」
レティが何か紙を見ながら教えてくれた。
「それは?」
「ああ、今朝校門で配ってたから貰っておいたんだ。ホラ」
ふむふむ…どうやら生徒会発行のクラブ紹介のチラシみたい。
こんなの配ってたんだ…気が付かなかったよ。
そして生徒会もあるんだね。
ん?
これ……もしかして?
「ねえ、ルシェーラ」
「?何でしょうか、カティアさん?」
「これ…ほら、ここのトコ。これってもしかして」
私が指差したのは、チラシの一番下の端っこに小さく書かれたサイン。
多分、生徒会が正式に発行したことを証明する為に書かれたものだと思うのだけど。
アルフレド=ノエル=ブレーゼン
そう書かれていた。
「ああ…兄の名前ですわね」
「あ、やっぱり。ここに署名してるって事はもしかして…」
「ええ、3年生で生徒会長をしております。近いうちに皆さんとも挨拶させていただく機会があると思いますわ」
ルシェーラのお兄さんが生徒会長しているとは。
以前ちょっとだけ聞いたけど…確か、どちらかと言えば文官寄りとの事だった。
侯爵閣下も奥様も、そしてルシェーラも腕っぷしが強いので、ブレーゼン侯爵家の中では一人だけタイプが違うみたい。
ちょっとお会いするのが楽しみかも。
「実は私も会ったことないから、どんな人なのか気になるんだよね〜」
「別に、至って普通の人ですわよ」
「でも、生徒会長なんて任されてるんだから、成績優秀で人望もあるって事だよね?」
「…まあ、悪い人ではありませんけど」
彼女にしては珍しく口籠るが…これは照れてるだけっぽい。
兄妹のことをあれこれ話しされるのが気恥ずかしいというのは、まあ分からないでもないかな。
「それじゃあ、最初は…ここからなら実験棟が近いから、『魔道具研究会』に行ってみようか?」
一緒にチラシを覗き込んでいたシフィルが言う。
「そうね…同じ棟にある『化学クラブ』と言うのも見てみたいわ」
同じくチラシを見ていたステラは、他に見てみたいところがあったようだ。
化学クラブか……化学実験とかやるのかな?
と言うことで、実験棟に向かうべく私達は教室棟を出たのだが…
「うわ〜……何だかすごいね〜」
「…またカティアが囲まれるのでは?」
新入生の勧誘活動でごった返している。
こう言うのも活気があって良いとは思うのだけど…
「あ!カティア様が出てこられたぞ!」
「急げ!!他の奴らより先に勧誘するんだ!」
「あちゃ〜、見つかっちゃったね」
「どっちにしろ避けては通れなかったと思いますけど…」
「うう…みんなゴメンね…」
私のせいで……でも、見捨てないでくれて嬉しいよ。
私達に気付いた先輩たちは、一斉にこちらを振り向いて大挙して押し寄せてきた!
「カティア様!是非、我が『戦略遊戯クラブ』に!」
「何を言うの!カティア様の美しさは、私達の『美容研究会』にこそ相応しいわ!!」
「それは不遜な物言いでしょう。しかしカティア様がお美しいのは異論はないわ。是非とも私達『アパレル同好会』の作品の数々を着ていただきたいです」
「……『呪術クラブ』で一緒に憎い相手を呪いませんか?」
む…アパレル同好会はちょっと気になるぞ。
チェックチェック。
そして最後に聞こえたのはスルーしておく……怖いからね!
いや、そんな事より…これじゃあ朝の二の舞だよ。
何とか皆を落ち着かせないと…
そう思っていると、またもや救いの手が差し伸べられた。
「お前たち、何をしている!カティア様への直接勧誘は禁止だと生徒会より通達があっただろう!」
颯爽と現れたのは、金髪碧眼のいかにも貴公子然とした男子生徒。
彼の一喝で勧誘に熱を上げていた先輩たちが一斉に大人しくなる。
「「「か、会長……!」」」
え?
会長ってことは…この人が生徒会長?
じゃあ、ルシェーラの…
「お兄様!」
「ああ、ルシェーラ……それにカティア様、皆様。この度は入学おめでとうございます。ようこそ我らが学園へ。私はアルフレド=ブレーゼン。不肖の身ながらこの学園で生徒会長を任されております」
と、爽やかな笑顔を浮かべて挨拶をしてくる。
さすがルシェーラのお兄さん、なかなかのイケメンだ。
「父やルシェーラがいつもお世話になっております。二人から何時も話を聞いていたので、お会いするのを楽しみにしておりました。今後ともよろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます。私はカティア=イスパルと申します。こちらこそ侯爵閣下やルシェーラさんにはいつもお世話になっております。…これからよろしくお願いしますね、先輩。」
私が挨拶を返すと、レティたちもそれぞれ自己紹介と挨拶を行った。
それにしても………似てない。
いや、閣下とあまりにも見た目が違うのはルシェーラも一緒か。
金髪なので、ルシェーラよりは似てる要素があるけどね。
顔立ちはルシェーラと似てるので、やっぱり奥様の血が強いのだろう…
そして、文官寄りだとは言ってたけど、体格を見るとヒョロヒョロした感じはせず、それなりに鍛えている感じがする。
「お兄様、通達と言うのは何ですか?」
と、ルシェーラが先程のアルフレドさんの言葉について問いただす。
私も気になっていた。
私への勧誘行為を禁止するとかなんとか。
色々と配慮してもらってるみたいで申し訳ないというか…
「ああ、あれか。カティア様のご入学に際しては様々な混乱が生じる事が予想されていたからな。混乱を避けるように予め様々なルールを決めていたんだよ」
「すみません、私のせいでお手数をおかけしたみたいで…」
「ああ、いえ、カティア様がお気になさる必要はごさいませんよ。ただ、それだけ皆に人気があるという事なのですから。臣としましては喜ばしいことでございます」
普段から街中は普通に歩いてたから、ここに来てこれほどの事になるとは予想してなかったよ。
「ふむ…カティア様は主席合格者とのこと。どうでしょう、将来人の上にたたれる御身の経験のためにも、我が生徒会に……」
「あ〜!!会長!直接勧誘禁止って言ったじゃないですか!!」
「ずるいぞ!!」
「「「そーだそーだ!!」」」
「何を言うか。生徒会はクラブではないから通達の対象ではないぞ」
「横暴だー!!」
一度は落ち着いたはずのその場だったが…アルフレドさんの言葉によって、またもや混乱が生じる。
「はあ……お兄様、相変わらずですわね」
そして、ルシェーラは呆れたように、そう呟くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます