第七幕 27 『武神杯〜本戦開始』

 武神杯本戦当日。


 私は朝早くから身支度を整え、式典に出席するために父様母様クラーナと共に馬車で会場へと向かう。


 式典に出席したらすぐにドレスから着替えて選手として出場しなくてはならない。

 一応大会の運営も事情を知ってるので色々と便宜は図ってくれるみたいだが、取り敢えずは第一試合じゃなくてよかったよ。





 闘技場についた私達は専用の通路を使って貴賓席へと向かう。

 すり鉢状の観客席の中に張り出した屋根付きのテラスのような観覧席となっており、闘技場全体がよく見渡せる。

 ここから父様がスピーチや開会の宣言を行うのだ。



 すでに観客席は殆どが埋まっていて、場内は熱気に包まれている。


 舞台上空に目をやると、何やら色々な情報が魔法で投影されている。

 内容を見てみると…どうやらオッズ表のようだ。

 そう、この武神杯は公式に賭けが行われているのだ。

 単純に優勝者を予想するもので、私、ティダ兄、ラウルさん…それに、シフィルさんやイーディスさんが2倍前後くらいで人気が集中している感じ。

 次いでイリーナさんで3.0倍、その他の選手は5〜10倍でかなりの差がある。


 昨日の予選を見た感じの私の印象と概ね一致するけど…ティダ兄はよくあの試合内容で人気が集まったね。

 流石の武神の国の民だから、皆目が肥えているのかもしれない。











 そして、観客席も立ち見が出るくらい満員になり、開会の時間がやってくる。


 舞台上に、昨日も司会を務めていたお姉さんが立つと拡声魔道具マイクを使って案内を始める。



『皆様、お待たせいたしました!これより武神杯大闘技会の開会式を行います!』


 ワァーーーッッッ!!!!


 昨日よりも更に多くの観客から割れんばかりの歓声が上がった!



『先ずは本大会の説明を…』


 と、お姉さんが説明を始めるが、ルール説明などの内容は昨日とほぼ同じだ。

 本戦の説明としては、予選を勝ち抜いた16名によるトーナメント戦で、予選の試合順に対戦が組まれるとのこと。

 これは予想通りだ。

 そうすると私の試合は…3試合目と言う事だ。


 注目選手の試合、一回戦の組み合わせは以下の通りだ。

 ・1試合目 イリーナ VS ラウル

 ・3試合目 ディズリル(私) VS シフィル

 ・6試合目 ティダ VS ヨハン

 ・8試合目 イーディス VS クリストフ


 今日は2回戦まで計12試合が行なわれ、明日は準決勝、決勝となる。

 4回勝抜けば優勝ということだ。




『では、ユリウス国王陛下より開会のお言葉を賜りたいと思います!陛下、お願いいたします』


 司会のお姉さんに請われ、父様が席を立って観客から見えるようにテラスの端まで進み出た。

 それに合わせて母様と私も父様の横、少し後ろに控える。

 クラーナは私が手を引いて一緒に前に出たけど、背が低いから多分観客からはちょこんと頭が見えるくらいだろうね。



『こうして武神杯を無事開催できたことを嬉しく思う。年々参加者も増え、今年は300人を超える参加者が予選に参加したとのことだ。そのような中から本戦に勝ち進んだのは僅かに16名。先ずは激戦を制した彼らの武勇を称えようではないか!』


 ウオーーーーッッ!!



 歓声が収まるのを待ってから父様は続ける。


『これより本戦が行われるが、皆何れも劣らぬ猛者ばかり。武神ディザール様に奉納するのに相応しい、熱き戦いが繰り広げられることだろう。皆も積み重ねた鍛錬によって得られるその技の数々が如何に素晴らしいものであるのか…試合を通じてその目に焼き付けると良いだろう。そしてまた、次代を担う強き者が現れることを切に願うものである』


 そこで父様は一旦言葉を切って観客を見渡してから…


『では!ここに!武神杯大闘技会、本戦の開催を宣言する!!皆の健闘を祈る!』


 拡声魔道具マイクを通さずとも良く通る多いな声で開催を宣言した。


 それを受けて、またひときわ大きな歓声が上がった。


 少し後ろに控えていた私達も一歩前に踏み出て父様の横に並んで、笑顔で手を振る。

 クラーナもニコニコと、背伸びして柵からちょこんと顔を出して両手で手を振ると、よりいっそう盛り上がるのだった。







「では父様母様、クラーナ。行ってきますね」


「ああ、頑張れよ。期待してるぞ」


「気をつけてね、カティア」


「おねえさま!がんばってください!」


 激励の言葉を受けて私は貴賓席を後にする。





 さて、試合開始時間はまだだけど、そんなに余裕があるわけじゃない。

 第一試合はラウルさんが出るから見ておきたいし、できるだけ急がないと…


 足早に通路を進んで、まずは大会運営本部の一室を借りて着替える。

 そして急いで地下の選手控室へと向かった。





 控室に到着して中に入ると、他の選手たちの注目が私に一瞬集まるが、皆すぐに視線を戻す。


 彼らが見ているのは、舞台上の様子を映し出している魔道具のモニターだ。

 大画面で舞台上を余さず映し出している。

 映像も音声も非常にクリアなので、目の前で見ているのとそれほど大差はないと思う。


 ホント、こう言うところはハイテクだよなぁ…

 割と遠くない未来には、テレビ放送みたいなものが始まるのかもしれないね。



 モニターを見てみると、ちょうど第一試合が始まる前のようだ。


「…カティア、何とか間に合ったみたいだな」


 ティダ兄が周りに聞こえないように小声で話しかけてきた。


「…何とかね。ラウルさんの試合は見ておきたかったし、間に合って良かったよ」


 こちらも小声で答えながらモニターを見ていると、放送席(?)の司会のお姉さんが選手紹介を始めたのだ。



『それでは第一回戦、第一試合の選手の紹介をいたします。まずは予選第一試合を勝ち抜いたイリーナ選手です!』


 ワアーーーッ!!


 「「イリーナおねえさま〜〜!!」」


 歓声に紛れて黄色い声も聞こえてきた。

 女性にも男性にも人気があるみたいだねぇ。


『凄い声援ですね!彼女は数少ない女性選手ですが、予選では見事な立ち回りと軽快な身のこなしで見事に混戦を制した強者です!』


 まあ、女性だから戦いに向かない…と言うのはこの世界でも割と一般的な考えなんだけど、前世ほどには明確な差があるわけじゃないからね。


『イリーナ選手はここアクサレナを拠点に活動するBランク冒険者とのことです』


 地元って事だし、彼女を応援する人も多いだろうね。



『対するは、圧倒的な力で瞬く間に予選第2試合を勝ち抜いたラウル選手!!』


 ウオーーーーッッ!!!


 「ラウルーーーっっ!!勝てよーーっ!!」


 「お前に賭けてるんだ!負けんじゃねえぞ!!」


『おおっと!こちらも凄い声援だ!!ラウル選手はカカロニアを活動拠点とするAランク冒険者でその二つ名は『壊刃』!彼の武器であるその鍛え抜かれた拳と技で武器破壊を得意とすることから付いた異名だそうです!』


 へえ〜、そう言う由来なんだ。

 でも、あっさり手の内をバラして良いのかな…

 まあ、二つ名になるくらいだから結構知られてるんだとは思うし、本人も気にしてないみたいだけど。



『さて、試合開始の前に…今回、試合の解説をしてくださいます方を紹介いたしましょう』


 と、映像が切り替わって放送席が映し出された。

 司会のお姉さんの隣に座っていたのは…


「っ!?」


 そこに映った意外な人物を見て、私は驚きのあまり思わず声を出してしまうところだった。

 危ない危ない…


 でも、なんでそんなトコにいるのさ…



『なんと!あのエーデルワイス歌劇団の団長である、ダードレイさんにお越しいただきました!』


 そう、父さんだ。

 何やってんの?


「…ティダ兄が言ってた『やる事』ってコレ?」


「…ああ、そうだ。もともと予定してたやつの都合がつかなくなったとかでな。高度な戦いだと解説もそれなりのやつじゃないとままならない…と言うことで声がかかったらしい」


「…まあ父さんなら『それなり』どころじゃないからね、適任といえばそうかも」




『ダードレイさんは元凄腕の傭兵で、かつてのアダレット戦線でも活躍され…その功績でエーデルワイス歌劇団が法人爵を賜っていることはご存知の方もいらっしゃるかと思います。…では、ダードレイさん、よろしくお願いします』


『ああ、よろしく』


 解説に父さんを迎えて…いよいよ本戦が開始される!

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