第七幕 22 『武神杯〜予選 第5試合』
舞台に上がった私は対戦相手達をさっと見渡してみる。
すると、一人だけ気になる選手がいた。
…この人、たぶんかなり強いと思う。
中肉中背、黒髪黒目の一見なんの特徴もなさそうな男。
しかし戦いを前にして全く緊張感を感じさせず泰然と佇む様子から只者ではないことが窺える。
何というか…緊張感の無さとは裏腹に闘気を無理やり抑え込んでいるような印象を受ける。
なので、肌でその強さを正確に推し量ることは出来ないのだが…私の直感に従えば、この人は強者に違いない。
これは、予選早々に一筋縄ではいかないみたいだね…
だが、強者との戦いは望むところだ。
そう考えていると、先方も私の方をチラリと一瞥して…こちらを意識した様子。
どうやら向こうも私を強敵と見定めたのかもしれない。
『さあ、次は第5試合です!今度はどんな戦いを見せてくれるのか?…選手の皆さん、準備はよろしいでしょうか?』
司会のお姉さんがこれまでと同様開始前の確認を行う。
そして…
『よろしいみたいですね。では…第5試合、始め!!』
その瞬間!!
ブワッ!!と強烈な『氣』が迸った!!
くっ!?
いきなりかっ!!!
私は咄嗟に重心を低くして、次に来るであろう衝撃に備える。
だが、他の選手たちはその強烈な氣にあてられて硬直し、動くことができない!
「ツェイッッ!!」
『氣』の発生源…私が気になっていたあの男が、気合を発するとともに、バッ!!と両手を勢いよく左右に突き出すと不可視の衝撃波が舞台上を走り抜ける!!
「ぐあっ!?」
「うっ!?」
「ぎゃっ!?」
その衝撃波を浴びた選手たちの尽くが苦悶の声を上げ…次々と倒れた後、戦闘不能と判定されて舞台外に弾き出されてしまった。
「ハァッ!!!!」
私は衝撃波が通り過ぎるその瞬間に、裂帛の気合をもってそれを相殺する!
…どうやら先制攻撃はやり過ごすことができたようだ。
ふぅ…いきなりびっくりしたよ。
不意打ちとは言え、私以外の全員を戦闘不能にしてしまうとは…とんでもないね。
今の技は多分、闘気とか剣気…いわゆる『氣』と言われる生命エネルギーのようなものを衝撃波として放ったんだと思う。
物理的な衝撃と言うよりはどちらかと言うと精神攻撃に近いものだったと思うが。
だから私は気合を入れてそれに呑まれないようにしたのだ。
「やっぱりアンタには通じなかったか。全く…
「…それはお互い様かな」
私は強者との戦いはウェルカムなんだけどね。
「(…女か。声からするとかなり若いな?)まあ、嘆いていても仕方がない。勝たせてもらうぞ!」
そう言って彼は猛烈なスピードで襲いかかってきた!
武器は至って普通の片手長剣。
だがその技量は推して知るべし。
対する私も、使い慣れたいつもの長剣だ。
相手をギリギリまで引きつけてから袈裟斬りの軌道を見極め、既の所で身体を捻って躱し相手の胴を薙ぎ払う…が、それは難なく躱されてしまう。
と、躱すだけでなく私の頭めがけて蹴りを放ってきた!
それをスウェーバックで躱しながら後方に跳んで一旦距離を取る。
そして体勢を整え…いない!?
ゾクッ!
ビュオッ!!
首筋に悪寒を感じて咄嗟に身を屈めると風切り音で頭上を斬撃が通過するのが分かった。
それで相手が右手後方にいることを捕捉した私はバックハンドで切り上げる!
ガキィッ!!
私の攻撃は剣で防がれてしまうが、構わずに無理やり力を込めて剣を振り抜く!
すると相手は防いだ体勢のまま後方に吹き飛んでいったが、危なげなく着地する。
「つ〜…何て馬鹿力だよ…」
…私で馬鹿力なら、父さんなんかどうなるのさ。
まあでも、私も腕力には自信がある方だからね。
これくらいの事は出来る。
攻められっぱなしは癪だからね…今度はこっちから行くよっ!
これ程の相手に出し惜しみなんかしていられない。
「シッ!!」
全力の踏み込みから渾身の突きを放つ!
最短距離を最速で駆け抜ける電光石火の刺突は、しかし後方に跳んで避けられる。
だが、それは織り込み済みだ!
「[炎弾・散]!!」
予め練り上げていた魔力を開放して魔法を放つ!
「ぐっ!?」
流石にこれだけ至近距離で放たれた魔法を躱しきることは出来なかったようで、いくつか炎の弾丸が命中する。
だが、これは威力はさほど無いのであくまでも牽制に過ぎない。
そこから畳み掛けるように『閃疾歩』から払い抜けの胴薙ぎを…
!?
痛みすら伴うような強烈な剣気を感じ、咄嗟に攻撃を中断して飛び込み前転の要領で前方に身体をなげうって回避行動を取る!
ドガァッ!!
舞台の床を破壊する衝撃音が轟き、砕けた石材が飛礫となって襲い来る!
「
いくつか掠めたが、大したダメージは無い!!
転がった勢いでそのまま距離を取ってから立ち上がり、追撃に備えて体勢を立て直す。
しかし、今の攻撃は…?
「…これも躱すのかよ。マジで勘弁してくれ…」
見ると、彼の剣は薄っすらと燐光を纏っていた。
なるほど…最初の攻撃といい、彼は『氣』を用いた攻撃に長けているらしい。
最初と違って、拡散させないで一点集中によって物理的な破壊力を持たせてるのか。
う〜ん、凄いね!!
予選からこんな人と戦えるとは。
あ〜でも、大会的には本戦で当たったほうが盛り上がりそうかな?
しかし、そんな事を考えてる程の余裕はない。
もう手の内を見せないとか余計なことは気にしないで、ギアを上げていかないと。
さっきの魔法攻撃はかなり有効だったように見えるが…そうすると魔法主体のほうが良いか?
私はそう決断して、意識を切り替えて集中する。
間合が離れている今がチャンス。
近接戦闘ではそれ程大きな魔法は使えないが、今なら…!
「[雷龍]!!」
私が無詠唱で使える中で最も強い魔法の一つだ(※対G戦時除く)。
魔法によって生み出された雷の龍はその顎を大きく開いて猛烈な勢いで敵に襲いかかる!!
「うおっ!?」
雷撃を纏った暴龍は僅かに掠めるだけでもダメージを与える。
それを察してか、彼は大きく間を空けて躱すが、龍はその身を反転させて再び襲いかかっていく!
この魔法は一度ターゲットにした相手に命中するか、内在する魔力が尽きるまで追尾してくれるだけでなく、術者がコントロールすることもできる非常に使い勝手の良い魔法だ。
だが、コントロールするには集中力を要するので、今回は自律行動に任せる。
内在魔力が尽きるのはおよそ数十秒ほど。
その間、私自身は龍と連携を取って剣で攻撃だ!
雷龍と私の斬撃による波状攻撃に、然しもの敵も防戦に回らざるを得ないが、身体に氣を纏わせることである程度は雷撃が掠めても大きなダメージは負わないようだ。
かと言って全くのノーダメージと言う訳にはいかないようで、少しづつ動きが精彩を欠くようになってきた。
「くっ!きっついって!2対1とは卑怯だぞ〜!」
「私の魔法だよ?」
「んなこたぁ、わ〜ってるよ!!」
会話はゆるい感じだが、今も激しい攻防が続いている。
こちらが優勢ではあるが、相手も粘りに粘る。
だが…
「[雷龍]!おかわりっ!!」
「ちょっ!?おまっ!!おかわりって!?」
一旦距離を取ったところで、ダメ押しの雷龍。
数合を打ち合うくらいは凌いでみせたが、流石に3対1では抗いきれずに、私の剣を躱したところで彼は雷龍に飲み込まれた。
バチバチバチィッ!!
「ぐあーーーーーっっ!!」
雷龍を構成する強烈な雷撃がその身を貫く!!
…そして、倒れ臥す前に戦闘不能と判定されたのか、舞台の外に弾き出された。
『そこまで!!』
ウォーーーーッッ!!!!
勝利宣言に観客は沸き立ち、大歓声が巻き起こる!
戦いに集中するためにシャットアウトしていた周りの音が鮮やかに蘇ってくる。
ふう…強敵だったけど、何とか勝ったね。
ちょっとゴリ押しのような気もするけど…
『第5試合の勝者は…え〜と、ディズリル選手です!!』
歓声に応えて手を上げるといっそう盛り上がる。
『ディズリル』と言うのは参加申込時に記載した呼称だ。
いろいろ悩んだのだが…なかなか良い名前が思いつかなかったので、ディザール様とリル姉さんから頂戴したのだ。
ともかく、これで晴れて本戦出場を果たすことができた。
取り敢えず、皆が見ている中で予選敗退とかじゃなくて良かったよ。
しかし初っ端からこんな激戦になるとは…明日以降も楽しみだね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます