第七幕 21 『武神杯〜予選 第2試合』

 武神杯予選は第2試合である。

 この試合で気になるのはAランク冒険者のラウルさんだが、他の選手は果たして…?


 舞台上に上がった選手達を見てみると、やはりラウルさんの存在感が際立っている。

 しかし…武器らしいものは何も持っていないね?

 もしかして徒手空拳で戦うスタイルなのかな?


 そして、他の選手達はと言うと…う〜ん、特に気になるような人はいないかなぁ…



『さあ、第2試合の選手が揃ったようです!皆さん、準備はよろしいですね?』


 司会のお姉さんが最終確認を行い…


『では、第2試合…始め!!』


 試合開始が宣言された!




 開始早々、ラウルさんを最も脅威と考えたのであろう半数近くの選手達が彼をターゲットに定めて襲いかかった。

 狙われたラウルさんは、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべて迎え撃つ構えだ。


「上等だっ!!かかって来い!!」



 先ずは左右後の三方から同時に切りかかってきたところ、ぐるん、と身体を反転させて後方の相手と位置を入れ替えながら背中に蹴り入れて前方に突き飛ばす。

 ちょうどラウルさんを狙って振り下ろされていた、残る二人からの斬撃を浴びて早くも一人が脱落。


 その間にもラウルさんは転進し、すかさず二人のうち片方に急接近。

 ドシンッ!と言う震脚の重い音を響かせながら痛烈な掌打を撃ち込むと、相手を場外まで吹っ飛ばした。

 更に残る一人も回し蹴りを鳩尾に叩き込んで撃沈。


 そのまま、少し遅れて来ていた二人を今度は逆立ち回転蹴りで顎先を掠めるように蹴りぬくと、二人の意識はあっけなく沈んだ。

 …おお!何だか格闘ゲームみたいだぞ!



 ここまでが僅か一瞬の出来事。

 あっという間に五人が脱落となり、それを目の当たりにした他の選手達は慌てて止まろうとしてたたらを踏むが…


「遅え!!」


 それを隙と見たラウルさんは躊躇うことなく飛び込んで、体勢が崩れていた五人の意識を瞬く間に刈り取っていく!

 …速い!!


 結局、ラウルさん一人で半数を倒してしまった。


 ラウルさんに向かわなかった選手達は手近な相手と対戦し、それで脱落した者もいるので…現在舞台に残っているのは五人となっていた。





「は〜、圧倒的ですね〜…あ、一人倒した」


「そうだね…まぁ、順当かな。おっと、また一人」


「本当に、Aランク冒険者というのは隔絶した力がありますね……ついに二人だけになりましたね」


 私達が会話している間にも、一人、また一人と着実に数が減って、今はもうラウルさんともう一人だけが残るのみとなった。


「しかし、徒手空拳だと最後の一人は難儀しそうですね?」


 ラウルさんの他に最後に残ったのは、全身鎧でガチガチに身を固め戦斧バトルアクスを担いだ大男。

 確かに打撃は通じ難いように思えるが…




「へへへ…あんたの格闘技は大したもんだが…素手じゃこの鉄壁の防御は崩せねえだろ?」


「…試してみるかい?」


「おうよ!行くぜ!!」


 ラウルさんの挑発に応えて大男は果敢に攻め込み暴風のごとく戦斧を振るうが、ラウルさんはそれを危なげなく躱す。


「へっ、やはり打つ手なしってことか!避けるのも上手いみたいだが…これならどうだ!」


 と、大男は当たる見込みのない戦斧を放り出して…両腕を大きく広げて突進しラウルさんに抱きつこうとする!


「そら!捕まえたぞ!このままへし折って…ぐはっ!?」


 ラウルさんを捕まえたと思われた男は、しかしその次の瞬間には苦悶の声を上げ…舞台の外に弾かれて気を失っていた。


『そ、そこまで!!勝者は…ラウル選手です!!』


 ウワァーーーッ!!!


 勝者を告げるお姉さんの宣言によって大きな歓声が上がるが、最後に何が起きたのか分からなかったためか戸惑うようなざわめきの声も聞こえた。




「今…何が起きたんですかね?」


 ケイトリンも分からなかったみたいだ。

 私は【俺】が習っていた古流の技に似たようなものがあるから分かったけど、殆どの人は分からなかっただろうね。


「あれはね、こう…鎧に拳を押し当てた状態で、足の踏み込みとか身体の捻りで生み出した力を一点に集中させて衝撃を内部に通したんだよ。打撃じゃなくて…こう、グッ!て圧を加える感じで」


 身振りを交えて二人に解説する。


「…あんな密着した状態でそんな威力がでるんですか?」


「もちろんそんな簡単な技じゃないよ。あれは『短勁』とか『寸打』とか言われる拳法の極意の一つだからね」


 うちの流派では『透打すかしうち』と言う。


「よくご存知ですね…もしかして、カティア様も使えるんですか?」


「まあね。あんなむさ苦しいのに抱きつかれるのはゴメンだから、私だったら投げちゃうけど」


 いくら鎧に身を固めていたって関節を極められたり投げられたりすればただじゃすまないだろう。


「カティア様はホントに多才ですよね〜」


「あの巨体を投げられると言うのも驚きなんですが…でも、そう言えば以前も投げてましたね」


 ああ、ギルドでオズマと最初に会った時だね。


「それこそ『短勁』なんかよりはよっぽど簡単。相手の力を利用したりしてね。あの巨体だから受け身を取らせなければ大ダメージは必至だよ。もちろん相手によるんだけど」


 私は見た目より腕力があるので、力ずくでも行けるしね。








 圧倒的なラウルさんの強さに未だ会場はどよめき興奮冷めやらぬ様子であるが、続いて第3試合目が行われる。


『さあ続いて参りましょう!第3試合目の皆さん、舞台にお上がりください!』






 …その後、第3試合、第4試合が行われたが、特に気になる選手はいなかった。


 第3試合の勝者は、剣と魔法を使い遠近を器用に切り替えて戦う魔法剣士。

 第4試合の勝者は巨大な戦鎚バトルハンマーを軽々と振るう巨漢の戦士。


 私の見立てでは、二人ともBランク上位くらいと言った感じだが…巧みに実力を隠しているのでなければ特に脅威を感じるものではなかった。




 そして、いよいよ私の出番がやって来た。


『第5試合の選手の皆さんは舞台へどうぞ!』



「じゃあ、行ってくるよ。応援ヨロシク」


「はい、頑張ってくださいね〜」


「ご武運をお祈りいたします」


 二人に見送られて私は舞台へと上がる。




 さあ、果たしてどんな相手がいるのか…


 しかし誰が相手だろうと私は最善を尽くすだけだ!

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