第七幕 13 『武神祭〜二日目』
さて、武神祭は二日目である。
初日は公務で忙しかったが、今日も劇団の特別公演があるから自由に祭を見て回る時間はない。
本日の公演は午前午後それぞれ2回ずつ行う予定だ。
1回あたりの公演時間は普段よりもやや短めだ。
会場入はかなり早く、日が昇る前に支度を始めて、まだ薄暗いうちにミーティアと共に劇場に向かった。
劇に出演する人達は最後の通しでの確認があるからだが…
私はそれとは別に、今回特別に王城の楽師隊をバックに歌うことになってるので、最終的な音合わせとか諸々の準備のためである。
そして、まだ完全に日が昇りきる前に劇場に到着する。
何と、既に場所取りをしているらしい人達が結構な人数いるではないか。
今回は魔道具による映像投写だと告知されてるのに…改めて我が歌劇団の人気ぶりに驚いた。
劇場の正面入口、その上部の壁面は前世の映画館のスクリーンのようなものが設置されている。
初公演の私のお披露目のときも使用したのだが、このスクリーンに映像を投影するのだ。
しかも…なんと立体映像だったりする。
【俺】の前世よりもむしろハイテクじゃね?と思ったものだ。
そして劇場の中に入ると、ウチのメンバーは既に来て準備を始めていた。
「みんな、おはよ〜!」
「ああ、おはよう」
「おう、おはようさん」
「カティアちゃん、おはよ〜」
「おはようッス!」
劇団の皆と挨拶を交わしてから早速舞台に向うと、王城楽師隊の方達も先に来て準備を進めていた。
「カティア様、おはようございます。本日は一日よろしくお願いします」
と、私に気づいた楽師隊の指揮者が準備の手を止めて挨拶をしてくれた。
「おはようございます、皆さん。こちらこそよろしくお願いしますね」
王城楽師隊は前世で言うところのオーケストラのイメージ。
細かくは楽器の種類が異なってはいるが、まあ似たようなものだろう。
今回の特別公演のため、彼らとは王城のダンスホール等で事前に練習を行ったりしていたが、劇場で音合わせをするのは初めてである。
そのため実地で音響を確認して私の歌声と演奏のバランスを調整していくのだ。
準備を終えて早速演奏を開始する。
前奏に合わせてリズムを取り歌い出しのタイミングを計る。
最近はカイトのリュートに合わせて歌うようになったけど、やっぱり演奏があると歌いやすい。
ただ、意識して声を出さないと演奏に飲み込まれてしまう。
そうして先ずは一曲歌い終わり、確認のため演奏には加わらずに観客席で聞いていた楽師隊の一人に確認する。
「どうでしたか?」
「概ね問題なかったと思いますが、演奏の方はもう少しだけ抑えたほうが良いかもしれませんね」
私の問にそう答えてくれる。
ふむ、初回としては悪くない感触みたい。
少し微調整が必要とのことだが、開演までに合わせるのは問題ないだろう。
その後も、他の曲も含めて調整を行うのだった。
そしてもうすぐ開演の時間となる。
既に観客席は招待客で埋まっていて、見知った顔もちらほら確認できた。
父様や母様に加えて、クラーナも見に来てくれた。
今回は貴賓席ではなく一般席に座っているので、舞台からもクラーナのわくわくしている表情が見えて、ほっこりするね。
その他には貴族や街の有力者たち。
あとは先日のお披露目パーティーに出席してくれた来賓の方々もお見えになっている。
「劇場の外は凄いことになってるッスよ」
「ああ、さっきちらっと見てきたが…広場が人で溢れかえっていたな」
「お〜っほっほっほ!!私の華麗なる演技を目に焼き付けると良いわ!!」
私も父さんと一緒に外を覗いたが、見渡す限りの人、人、人…こんなに人が集まっているところを見たことがないほどだったよ。
「ハンパなものは見せられないね」
「おうよ、期待には応えにゃならんな。よし!お前ら、やるぞ!」
「「「応!!」」」
お客様の期待に応えるため、みんな気合を入れ直す。
さあ、開演だ!
ーーーー とある観客 ーーーー
今日は武神祭二日目、最大の催し物である闘技大会と同じくらいに楽しみにしていたエーデルワイス歌劇団の特別公演が行われるという事で劇場前広場にやってきたのだが…
なんなんだ、この人集りは!?
つい最近この王都にやって来たばかりのその歌劇団は、この国の王女さまが舞台に立つという話題性もあって瞬く間に人気沸騰となった。
話題性があると言うだけではなく、その演目の内容も非常に見応えのあるもので、今となってはチケットを入手することすら困難だと言う。
そんな人気の歌劇団の公演がタダで見られるという事で非常に楽しみにしていたのだが…皆考えることは同じらしい。
幸いにも劇場の壁の高いところに魔道具で映像投写されるらしいので、これだけの人混みであっても観覧すること自体は問題なさそうだ。
今か今かと待ちわびていると、ついに公演が始まった!
先ずは前座だろうか…見事なジャグリングや剣舞、あとは数人での寸劇…コントと言うらしいのだが腹が捩れるほど笑わせてもらった。
そしてメインの演目である演劇は迫真の演技と迫力のある殺陣…シナリオも演出も素晴らしく女優さんたちも美人揃いときたもんだ。
ストーリーは我がイスパル王国の英雄であるリディア姫のエピソードの一つで、笑いあり涙あり…夢中になって見ているとあっという間に時間は過ぎ去っていった。
演劇が終わると、もう一つの目玉と言われている歌謡ショーだ。
劇団の歌姫にしてこの国の王女、更には高ランクの冒険者でもあり、ブレゼンタムの危機を救った英雄の一人でもあるという。
そしてなんと言ってももの凄い美人である。
天は二物も三物も与えるってことだ。
楽師達による前奏が始まり…そして彼女が歌声を紡ぎ始めると一気に空気が変わった気がした。
美しく透き通ったよく通る歌声が広場中に広がって…不思議な一体感とでも言おうか、誰もが彼女の歌声に聴き惚れているのを肌で感じる。
悲しい歌は悲しく、楽しい歌は楽しく、歌声によって感情が大きく揺さぶられ…だが聴き終わった後には幸せな気持ちで心が満たされる。
感動のあまり泣いている人も多く、まさしく女神の歌と言うのに相応しいものだった。
そして演目は全て終了し、広場は割れんばかりの拍手と歓声で満たされる。
いや、本当に素晴らしかった。
初めて見たが大人気なのも頷ける。
これは是非、何としてもチケットを手に入れて劇場で観覧したいものだと思うのだった。
ーーーーーーーー
「「「お疲れ様でした!」」」
今日の特別公演は全て終了し、今は劇場で打ち上げを行っている。
四回に渡って行われた公演は何れも大盛況で、公演が全て終わるまで広場は人で溢れかえっていた。
「いや〜、こんなに大盛況だとは…これは今後も期待できるね、父さん」
「そうだな、一先ず王都に拠点を据えたのは正解だったと言うことだな」
「お〜っほっほっほ!私が大女優と呼ばれる日も近いですわ!」
「あら〜、ロゼッタはもう外を歩いたら囲まれるくらいなんだから〜十分大女優なんじゃないかしら〜」
「そ、そうね!でも、アネッサもそうじゃなくて?我が赤薔薇歌劇団が誇る二大女優と言うことですわね!」
「…勝手に名前を変えるんじゃない」
ティダ兄がツッコむ。
でも実際二人とも人気だし、ハンナちゃんも声をかけられるようになったって言ってた。
「カティアも街歩きは厳しくなってきたんじゃないか?」
カイトが聞いてくるが、私の場合は少し事情が異なるんだよね。
「注目はされるけど囲まれたりはしないよ。ケイトリン達がいつも一緒だし、流石に声を掛けづらいんだと思う」
「そりゃあそうッスよ。ここでこうやってフツーに話をしてるのも不思議なくらいッス」
「あれ?ロウエンさんは結構気にしてるの?」
「いや、カティアちゃんはカティアちゃんッスけど…最近やたらお偉いさんが来るから…」
「ああ…それは慣れてもらうしかないねぇ…」
「お前えは肝が小せえんだよ。もっとどっしり構えてりゃいいんだよ」
「大将は気にしなさ過ぎると思うッス」
「そんなこたぁねえだろ。俺だってお偉方に気を使うことだってあらぁな」
「意外とね」
父さんは言葉は荒っぽいから意外に思われるけど、結構気を使う方なんだよね。
本日は打ち上げをして終了。
明日からは比較的自由になるので色々と見回ろうかと思う。
祭はめいっぱい楽しまないと損だもんね!
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