第七幕 12 『武神祭〜初日』
「ここに、武神祭の開催を宣言する!」
ワアァーーーッ!!
父様が開催の宣言を行うと、ひときわ大きな歓声が上がった!
今から一週間もの間、王都民や観光客が祭を楽しむにぎやかな声で街中が満たされるであろう。
なお、王都で行われる大きな祭は年に3回ある。
新年祭、武神祭、収穫祭だ。
とりわけ武神祭は盛大に行われ、期間も動員人数も最大のものとなる。
当然、催し物も多く行われるのだが、主なものとしては…
街中至るところでは多くの大道芸人たちが趣向を凝らした芸で人々を大いに楽しませてくれるだろう。
かつての私達のような旅芸人一座による様々な歌劇も同業として見逃せないところだ。
屋台も至るところで出店されて食べ歩きを楽しむのも捨てがたい。
大食い大会なんてものもあるらしい。
なんと言っても今年の目玉の一つは…自画自賛になってしまうが、我がエーデルワイス歌劇団の特別公演だろう。
そして、祭の後半には…
「武神杯のエントリーに行って来ます!」
そう、最終3日間をかけて行われる大武闘大会がある。
たったいま父様が開催宣言を行った…ここディザール神殿には闘技場が併設されており、ここで行われる熱戦を武神たるディザール様に奉納すると言う名目で、この祭の最大の催し物である。
父様は安全性が担保されてると言っていたが…なんと闘技場そのものが
何でも、この街がまだ砦だった頃…それこそ神代の昔にまで遡り、訓練場として使われてたらしい。
実際に現在でも騎士団の訓練でも使われていたりする。
そして、その
致命ダメージも無いので実戦訓練として重宝されるし、このような催し物も気兼ねなく行うことができるという訳だ。
これを聞いたとき真っ先に思い出したのが、神界やディザール神殿総本山の試練の間だ。
おそらくは似たような術式が使われているのだろうけど、総本山のものは時間経過しない…たしか『時忘れの秘術』は、神界のように多分空間そのものが隔絶していたのだと思う。
一方のこちらは観客も一緒に観覧できるところから察するに、別空間ってわけではないのだろう。
ともかく…参加申込期限はたしか本日午前中までのはず。
開催の儀のあと、次の公務は午後の予定なので今のうちに参加手続きを行わなければならない。
幸いにも受付場所はすぐそこ…闘技場入口に開設されてあるのでそれほど時間はかからないだろう。
と言う訳で、護衛の二人を伴って闘技場前の受付までやって来た。
もちろん、騒ぎにならないように私達は目立たないようにフードつきのローブで顔を隠している。
もうすぐ締切とあって結構な人数が並んでおり、私達はその最後尾に付ける。
「結構参加者がいるみたいだね」
「そうですね〜。去年は確か…300人くらいはいましたかね」
「ああ、それくらいだったな」
「そこから初日の予選会だけで16人まで絞るんだよね…」
「はい、予選はバトルロイヤルですね」
一度に十数人が戦い、生き残るのは一人だけと言う過酷なものだ。
参加人数が多いので、日程を考えるとそうなるよね。
そして二日目からの本大会は、予選を勝ち抜いた16名によるトーナメント戦となる。
「そういえば、劇団の人達は誰か参加しないんですか?」
「ん〜…どうかなぁ?みんな対人戦は好きじゃないと思うから参加しないと思うけど」
「…はい?」
何冗談言ってるの?と言わんばかりの反応。
「あ〜、いや…あんなヒャッハーな連中だし信じられないかもしれないけどさ…ああ見えて傭兵家業に嫌気がさして劇団なんかやってるような人達だからね」
「そうですか、バリバリの武闘派にしか見えないので、つい…」
…まあね、それは否定できないけど。
っと、話してるうちに順番が来たね。
いくつかある受付の一つに行って、お姉さんから話を聞く。
「こんにちは、武神杯への参加をご希望ですね」
「はい、お願いします」
「では、こちらの参加票に記入をお願いします」
と言って渡された用紙を見ると。
氏名、性別、年齢、住所(滞在場所)、職業などを記載するようだ。
ん〜、どうしようかな…
「あのぅ…これって本名を書かないといけないんですか?」
「はい、本名をご記載ください。ただ、別途こちらの欄に呼称を記載いただければアナウンス上はそちらでお呼びいたします」
「あ、そうなんですね。じゃあそうしようかな…」
今回参加するにあたって父様の許しは得ているのだけど…相手が王女とかだと萎縮してしまう人もいるかな?と思って名前と顔は隠そうと思ったのだ。
負けた理由にされても困るしね。
ルールを確認したけど、フードで顔を隠すのは問題ないはず。
と言うかルールなんて有って無いようなもので、武器は何を使ってもよし、鎧を着込んでもよし、なんなら魔法だって観客を巻き込むようなものでなければOKだ。
そのへんは
しかし呼称か…何て名前にしようかな?
私が呼称で悩んでいると、ケイトリンが…
「『歌姫』でいいんじゃないですか?」
「いや、それじゃバレバレじゃない?」
今この街で歌姫と言えば私のことを連想する人は多いだろう。
自意識過剰とかじゃなくて。
いろいろ悩んだ末、思い浮かんだ名前を記入する。
「よし、全部記入したかな。お姉さん、これで良いですか?」
「はい、確認させていただきますね。お名前は、カティア様…?住所は……え?」
と、お姉さんが気付いたところでフードを上げて少しだけ顔が見えるようにして、しーっと口元に指を立てる。
「あ…ま、まさか…カティア様が参加されるのですか?」
「はい。父様の許可も頂いてます」
「そ、そうですか、では手続きさせていただきます」
「お願いしますね」
そうしてお姉さんに参加手続きをしてもらい、参加票を受け取った。
「はい、これで手続きがおわりました」
「ありがとうございます」
「そ、それで、あの…」
「?」
受付のお姉さんが何だか言いにくそうにしているが…何だろうか?
やがて彼女は意を決したように切り出した。
「わたし、カティア様の大ファンなんです!サインいただけませんか!?」
「へ?あ、ああ…いいですよ」
「あ、ありがとうございます!」
お姉さんが渡してくれた紙にサラサラっとサインを書く。
ふっ…こんなこともあろうかと練習しておいてよかったよ。
そんなやり取りをしていると、何だか周りからも注目され始めたので、慌ててその場を去ることにした。
その後は再び父様たちに合流して、いくつかの催し物に招待された。
結局今日一日はそういった挨拶回りに忙殺され…明日は劇団の公演なので、自由に動けるようになるのは明後日以降となるが…レティやルシェーラと一緒に見回る約束をしているのでそれまで楽しみにしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます