第六幕 28 『黒幕?』

 あとは黒幕を倒すだけだ!!

 …と、意気込んでみたのは良いものの。



 流石にその相手が侯爵ほどの大貴族ともなると、証拠固めなど慎重に行う必要がある…と言うのはケイトリンの談。

 直ぐに捕らえに行くわけにもいかず…


 なので、大捕物を終えた私達は証拠集めも含めた現場検証などは騎士団員たちに任せて、一旦王城へ戻ることにした。

 時刻は夕暮れ時…夕日が街を赤く染めている。



 賊は全員捕縛されたが、少なからず重傷を負っていた者がいたので死なない程度に治癒の魔法をかけておいた。

 私のことを『まな板』呼ばわりした(してない)あの男は、顔が倍くらいに腫れ上がっていたが命に別状はないので当然放置だ。

 騎士団側の死傷者は無し。

 第一騎士団は精鋭揃いと言うことだから、あんなゴロツキ程度に遅れをとるような者は流石に一人もいなかったね。






 

 王城に戻ってきた私とケイトリンはリュシアンさんの執務室へと向かう。

 ミーティアは出迎えてくれたマリーシャに任せて私の部屋に連れて行ってもらった。



 そして執務室に入ると、魔道具で話をしたときのメンバー、即ちリュシアンさんとルシェーラ、そして父様が待っていた。


「おお、カティア!無事に戻ったか!」


「父様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


「いや、お前の実力は分かってはいるんだが…暗殺となるとまた話は違ってくるんでな」


「陛下のおっしゃる通りですわ。いかな強者といえども、油断しているところを突かれれば対処が難しいですから…まぁ、カティアさんほどの実力があれば大抵は切り抜けられるとも思いますけど」


「…いや、今回は相手の計画が杜撰だったのに助けられたと思うよ」


 さっきボコってきたけど…まあ、おバカな連中だったよ。

 黒幕さんは人材不足なのかね?


「何れにせよご無事で何よりです。ケイトリンもご苦労でした。あなたのおかげでカティア様の暗殺を阻止することができました。ただ、カティア様の仰る通り今回は向こうの計画が穴だらけだったので助かりましたが…今後の対策が必要ですね」


 今後の対策か…

 あまり出歩かせてもらえなくなったり、護衛に囲まれてガチガチにガードされたりするのかな…

 はぁ〜…


 でも、取り敢えずは直近の事を考えないと。

 たった今直面してる問題について聞いてみる。


「それは今後考えるとして…今回の黒幕はどうするんですか?」


「黒幕…アグレアス侯爵か。いや、まだ断定は出来んが…何れにせよ疑わしいのは事実。今はおかしな動きをしないか急ぎ要員を回して邸を監視させているところだが…」


 直ぐに捕らえることは出来ないとはいえ、これで向こうも下手に動けないだろう。




「ケイトリン、倉庫の方では何か証拠は上がりましたか?」


「一先ずはコレですね。ハッキリとした物証があるかどうかは…今もスレイさんたちが倉庫内をガサ入れしてると思いますけど」


「ふむ、音声記録ですか…流石ですね。先ずはそれを聞かせてください」


 リュシアンさんのリクエストに答えてケイトリンは音声記録の魔道具から、オズマさんと賊のやり取りを再生させる。


 …

 ……

 ………







「なるほど。証言としては使えそうではありますが…」


「これだけではやっぱり弱いですかね〜?」


「…そうだな。切り捨てても問題ない連中だろうし、繋がりを示す明確な証拠は見つからない可能性が高いだろう。まさか侯爵が直接会って指示したわけでもあるまいし。そうなると、『利用されただけ』と強弁されれば罪過を問うのは難しいかもしれんな…」


 その辺、王権はそれなりに強いとはいえ完全な専制君主制、絶対王制ほどの強権があるわけでもなく、裁判などは比較的近代的な制度だったと思う。

 なので、父様の裁量だけで裁くことなどできるはずも無く、しっかりとした証拠が必要となってくる。


「状況証拠を重ねていけば、あるいはどうでしょう?」


「そうだな、今のところ状況証拠と言えそうなのは…今の音声記録、監禁場所が侯爵家所有の倉庫であること、カティアが王女である事実を知り得る立場であること、指名依頼を出したモーリス商会の担当者との繋がり…くらいか」


「動機として、嫡男がクラーナ様の婚約者候補であることも」


「…殆ど黒のグレーですわね」


「これだけあれば立件出来るんじゃないですか?」


「そうですね。証言は他にもいくつか得られそうなので裁判にかけることは出来そうではあります。ですが…やはり物証に勝る証拠は無いですね」


「そうなると…これからの捜査次第ではあるが長引きそうだな」


「でもそれならそれで暫くは下手な動きはしにくくなりますよね」


「ふむ…ならばその間に警備体制を盤石にせねばならんな」




「その…今はアグレアス侯爵が黒幕だという前提で話を進めていますが…そもそもどのような方なんです?」


 私は話でしか聞いていないので、その人となりは全くわからない。

 こんな計画を進めるくらいなんだから、かなりの野心家だと思ったのだが…


「そうだな…先代国王のころからの重臣ではあるのだが、正直なところそれほど目立った功績があるわけではなく、能力も取り立てて優秀と言うわけではないが著しく劣ってるわけでもない…まぁ、可もなく不可もなく、といったところだ。性格も温厚そのものだし、それほど野心があるようにも見えなかったんだが………何だか話しているうちに、コイツも利用されただけなのでは?という気がしてきたな…」


 ええ〜……

 でも、話を聞く限りはふつーの人っぽく聞こえるね?


「私も、余りにも短絡的で杜撰な計画だとは思ったので、その線も考えては見たのですが……しかし、現状はあらゆる状況がアグレアス侯爵が黒幕だと指し示している。あるいはそれがミスリードという事か…?」


「だけど、嫡男がクラーナの婚約者候補なんですよね?……その嫡男と言うのは?」


 当主じゃなくて息子の方は怪しくないのかな?


「御年7歳ですね」


「ああ〜……」


 それは流石に無関係だね…


「まあ、ここでこうやって話していても結論は出ないだろう。野心を巧みに隠し、将来的に息子が王配となることで権力を手に入れようとしていた…と言うのも十分考えられる事だ。何れにせよ、状況証拠が上がっている事実があるんだ。これを本人にぶつけてみるほかあるまい」


「分かりました。では、任意同行ということで王城までお越しいただく、ということでよろしいでしょうか?」


「ああ、そうしてくれ。今日はもう遅いから明日になるだろうが…監視の目は緩めないようにな」


「はい、心得ております」


 と言うことでこの場は解散することになったのだが…

 どうもスッキリしないね。














 城内であっても念の為ケイトリンに護衛されながら自室へと戻る。

 ミーティアは先に戻っているはずだ。



「あ!ママ!お帰り〜!」


「お帰りなさいませ、カティア様」


「おねえさま、お帰りなさいませ。おじゃまいたしておりますわ」


 部屋に戻ってくると、予想通りのミーティアとマリーシャ、それにクラーナがお出迎えしてくれた。


「ただいま〜。クラーナ遊びに来てたんだね、ミーティアと一緒に待っててくれたのかな?」


「はいっ!ミーティアちゃんとおしゃべりしたり、あとは『とらんぷ』であそんでいましたの」


「そっか〜、ありがとね。ミーティアも一人じゃ退屈しちゃうものね」


 どうやら仲良く楽しくあそんでいてくれたらしい。

 うんうん、仲良きことは美しきかな。



 どうにもきな臭い事件が起こってしまったが…

 どうか、この子達のささやかな幸せが脅かされることが無いようにと願わずにはいられなかった。

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